巻頭企画天馬空を行く
勝つことだけを考えていた2019年
サンウルブズでの戦いを通して、世界と戦える自信をさらに深めていった田村氏。そうして迎えた2019年のワールドカップ――初の自国開催に湧く日本国民の期待を背負い、日本代表チームはその実力を遺憾なく発揮することとなる。田村氏自身はどのような心境で大会に臨んでいたのか、当時を振り返ってもらった。
「自国開催とはいえ、勝たなければ見向きもされないだろうと思っていたので、勝つこと以外は何も考えていませんでした。絶対にベスト8に進むんだ、と。もちろん恐怖心やプレッシャーもありましたが、いざ大会が始まってからは、初戦を勝てたこともあって波に乗れたので、楽しみやワクワクのほうが大きくなっていきましたね」
田村氏はスタンドオフ(フライハーフ)と呼ばれるポジションで全試合に出場した。あらためて、自身がどのような役割を担っていたのか、ポジションのおもしろさや難しさについて聞いてみた。
「僕は、試合全体がより良い方向へ進んでいくようにコントロールするチームの舵取り役で、ざっくり言えば“チームを勝たせる”ことが自分の仕事です。練習してきたことや、コーチが思い描いたプランを守りながらも、想定外のことが起きれば自分の引き出しの中から対応策を探して、チームが正常に動くように働きかける。試合中のリアルタイムで声掛けをしていくぶん、時にはコーチが“こうしてほしい”と言っていてもその場で違うと思えば“こっちをやろう”とメンバーに伝える状況も多々あります。その判断が試合の勝ち負けを決めるので、そこが難しさでもありおもしろさでもありますね。自分たちのプランを真っすぐ進めるのか、様子見のジャブを打ちながら進めるのか――その駆け引き、さじ加減こそがラグビーの醍醐味なんです」
そんな田村氏の活躍もあり、日本チームはプールステージで破竹の4連勝。アイルランドやスコットランドといったティア1国も退けて、プール1位で初の決勝トーナメント進出を果たした。ベスト8でも最終的に優勝国となった南アフリカを相手に善戦し、日本中のファンを熱狂させた“ブレイブ・ブロッサムズ”。快進撃の秘訣は何だったのか尋ねてみると、田村氏は強いまなざしでこう言った。
「まず言っておきたいのが、あの時の結果はまぐれではなく、実力で勝ち取ったものだということです。皆で同じ方向を向き、自分たちのことを信用して、最後まで疑わずにやり切った。だからこそベスト8に進めたのだと思います。大会を通して、僕らは自信満々でプレーすることができましたから」
大会中、チームが勝つごとに盛り上がりを増していくファンの熱量もしっかり感じ取っていたという田村氏。日本におけるラグビーの認知度・人気度の上昇に貢献できたことについて、その手応えを語ってもらった。
「応援してくださる方々の熱はものすごく感じましたし、僕自身、これまで生きてきた人生の中で一番、日本にインパクトを与えることができたんじゃないかなと思います。チームとしてもグラウンド内外で良いパフォーマンスができ、自分たちがやりたかったこと、伝えたかったこと、見せたかったこと、すべてを実現できて、そういう意味で満足できる大会でしたね」
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