一歩を踏み出したい人へ。挑戦する経営者の声を届けるメディア

Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

ラグビー選手 田村 優

ラグビー選手
田村 優

 
1989年、愛知県生まれ。ラグビー選手・監督として活躍していた父の背を見て育ち、自身も中学までサッカーに打ち込んだ後に高校からラグビーを始める。國學院栃木高校、明治大学を経て、2011年に社会人ラグビーチーム「NECグリーンロケッツ」に入団。そこからわずか1年で日本代表に選出され、2015年の第8回ラグビーワールドカップにも出場。2016年からは世界最高峰のリーグである「スーパーラグビー」に日本チーム「サンウルブズ」の一員として参加し、海外選手との対戦経験を積む。満を持して迎えた2019年、自国開催の第9回ラグビーワールドカップでは司令塔的ポジションであるスタンドオフとして全試合に出場し、チームを初のベスト8進出へ導いた。現在は「横浜キヤノンイーグルス」に所属し、2022年1月には公式戦通算100試合出場を達成した。
 
 

日本中を熱狂させ、競技の魅力・おもしろさを再発見するきっかけとなった2019年のラグビーワールドカップ。自国開催の後押しを受けながら、司令塔のポジションでチームをベスト8進出に導いたのが、田村優氏だ。海外リーグにも参戦して自信を深め、自分たちの力を誰より信じることで得た結果を“必然”と語る同氏に、世界と戦ううえで必要な心構えや、独自のラグビー観についてじっくり語ってもらった。

 

サッカーからラグビーへ

日本代表として2015年と2019年の2度、ワールドカップ出場を経験し、現在は社会人ラグビーリーグ「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE」の所属チーム「横浜キヤノンイーグルス」で司令塔を務めている田村優氏。常に冷静に、広い視野でフィールド全体を見渡し、チームの統率を取る。その才能の原点を探るべく、まずは幼少期の足取りから語ってもらうことにした。

「父が元ラグビー選手で、社会人チームの監督もしていたので、小さい頃からラグビーの試合を観る機会は多くありました。競技としておもしろそうだという感情は抱いていたものの、当時は父を応援する気持ちのほうが強く、自分でやってみたいとは考えていなかったですね。実際、最初に始めたスポーツはラグビーではなくサッカーでした。近所のお兄ちゃんに誘われてクラブチームに行くようになって、という感じでした」

そうして中学まではサッカーを続け、高校進学のタイミングでラグビーへ転向することを決めた田村氏。その頃にはすでに、スポーツ選手の道を歩んでいくことを強く意識していたという。

「父から何かを言われたわけではなく、自分で見ていてできそうだという感覚があったので、やってみたいと直談判したんです。中学生くらいから“勉強は自分よりできる人がいるけど、スポーツなら一番になれる。やるからには国の代表とかワールドカップ出場とか、その競技のトップを目指したい”と考えていて、ラグビーも競技を始める時からこの道で生きていくんだという決意を持っていました。とはいえ、実際にやってみると、ボールが円から楕円になったことや、他選手との接触が圧倒的に多くなったことへの戸惑いはあって、最初からすぐできるほど簡単ではなかったですね」

サッカー時代はフォワード寄りだったポジションもラグビーではバックスになり、プレイの感覚、視野、すべてが大きく変わった田村氏。しかし、日々練習を積む中でサッカーと共通する部分も見いだし、着実に前進していった。

「監督やコーチから教わったことをクリアしながら、できなかったことをできるようにしていく。その連続の中で少しずつ手応えをつかんでいきました。グラウンドの形や人数はサッカーとほぼ同じですし、空間的な感覚が共通するポイントも少しずつ見えてきて、勝ったり負けたりを繰り返しつつ成長していったんです」

若くして世界の舞台へ

國學院栃木高校、明治大学を経て、社会人チーム「NECグリーンロケッツ」に加入した田村氏。1シーズンを戦った後の2012年には日本代表に選出され、一流ラグビー選手としての階段を一気に駆け上がっていった。海外の強豪国と対戦するようになり、新たに見えたものや、違いを感じる部分はあったのだろうか。

「今になって振り返ってみると、正直、違いは“慣れ”だけだったなと思います。これは他のスポーツでも、もしかしたらビジネスでも言えることかもしれませんが、日本人は外国を過大評価しがちなんです。よくわからないというだけで、強いんじゃないかと先入観を抱いてしまう。もちろん、海外には日本人より体格に恵まれた選手はたくさんいますし、ぶつかり合いに対応するためにトレーニングしたり、ウエイトアップしたりする必要はあります。でも、強い相手に勝つために練習していくのは国内・国外問わず同じことですよね。実際に僕は対戦すればするほど“同じだ”と慣れていきましたし、日本人はもっとできるという感覚が強くなっていきました」

ラグビーには国ごとの強さや格を示す「ティア」という指標があり、上から「ティア1、ティア2、ティア3」とカテゴリが分かれていく。ティア1にはワールドカップで優勝経験があり世界ランキングでも常に上位にいるニュージーランドや南アフリカがカテゴライズされているが、近年は日本も世界からの評価を確実に上げて、ティア2からティア1への“格上げ”を果たそうとしている。最高峰の舞台で戦い続け、勝っていくためにはどんなことが必要になるのか、田村氏に持論を語ってもらった。

「ラグビーは、強いチームになればなるほど、負けないように手堅いプレーが多くなっていきます。そんな中でも、日本はリスクを取りながら、ギリギリのラインを攻められるチームを目指すべきだと思うんです。前向きにチャレンジし続けるアグレッシブさを見せれば、世界も脅威に感じてくれるはずですから。また、舞台が大きくなるほど、1プレーで流れが大きく変わるので、そういうところを見逃さないようにすることも、大事な試合で勝つためには必要ですね」

2015年のワールドカップではプールステージで南アフリカに勝利し3勝を上げながら惜しくも決勝トーナメント進出を逃した日本。さらなる強化を図るべく、2016年からは世界最高峰の国際リーグである「スーパーラグビー」に日本チームの「サンウルブズ」が参戦し、田村氏もそのメンバーに選出された。

「スーパーラグビーの試合は、国内リーグや各国の代表同士の試合と比べても圧倒的にラフで、より強さ・速さ・大きさを生かすダイナミックな展開が多いです。正直、日本にとっては相性の悪いチームとの試合ばかりになるのですが、相手選手の中から各国の代表が生まれていくので、そこへ身を投じていくというのは有意義なことだったと思います。国内リーグの何倍もレベルが高い環境で己を磨き、相手にとって何が効果的で、何がそうじゃないのかということを身に付けていきました。その経験が、2019年のワールドカップでの結果につながったことは間違いありません」

 

1 2 3