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巻頭企画天馬空を行く

 

サッカーを通して地方創生に貢献したい

2021年12月の入れ替え戦でホンダロックSCに惜敗し、あと一歩のところでJFLへの参加を逃したFC.ISE-SH IMA。今後、小倉氏はこのFC.ISE-SH IMAをどういったチームにしていきたいのだろうか。同氏が描く将来のビジョンについてうかがった。

「今、日本では人口減少が著しく、しばしば『地方創生』が叫ばれています。FC.ISE-SH IMAが拠点を置く三重県も例外ではありません。人の流出が多くUターンもほとんどありませんから、人口が減ってきているんです。その中で私たちに何ができるのかと考えた時に、地元のサッカークラブが地方創生に一役買えるのではないかな、と。地域の存在意義をしっかり踏まえたうえで、シンボリックな存在になれるように試合で結果を残しながら、多くの人々に愛着を持っていただけるクラブに育てていきたいですね。そのためには、やらなければならないことがたくさんあります。例えば、バルセロナに行くとサグラダ・ファミリアの絵はがきの下に、FCバルセロナのホームスタジアムであるカンプ・ノウの写真がありますよね。そんな感じで、『伊勢市には伊勢神宮の他に、もう1つFC.ISE-SH IMAという宮がありますね』と言っていただけるような存在になることが理想です」

カズさんには還暦までプレーしてほしい

「三重県は地味ではありますが、特に伊勢・志摩などは観光に最適の場所だと思います」と話す小倉氏。そんな同氏の出身地である鈴鹿市に拠点を置くJFLの鈴鹿ポイントゲッターズに、三浦知良選手が期限付き移籍で加入した。かつて日本代表で一緒にプレーをしたこともある現在55歳の“カズ”氏について聞いてみると―

「私が日本代表に選ばれた時にはカズさんもいらっしゃいましたし、その時は純粋に『わあ、本物のカズさんだ』と感動したことを今でも覚えています(笑)。たしか20年くらい前に、カズさんは私にこう言ったことがあるんです。『俺は還暦までプレーするよ』と。それが本当に実現しそうなので、驚きの一言ですね。大先輩に対して失礼な言い方になるかもしれませんが、カズさんは本当に『永遠のサッカー小僧』といった感じなんですよ。とにかくサッカーが好きで、後輩である私や前園真聖氏にも平気でサッカーのことを質問してくるんです。サッカーに対してどこまでも純粋な方なので、55歳の今でも現役を続けられているのだと思いますし、ここまできたらぜひ還暦までプレーしてほしいと思いますね」

日本代表はもっと独自の色を持つべき

小倉氏は2013年に刊行された『小倉隆史の「観る眼」が変わるサッカー観戦術』(出版元:宝島社)の中で、当時の日本代表の選手の特徴やチームの戦術を平易かつ的確な言葉で解説していた。そんな鋭い分析力を持つ同氏は、現在の日本代表をどのように見ているのだろうか。

「日本人の監督としてJリーグで最良の結果を出したのは、森保一氏ですから、彼に日本代表の監督を務めてもらうのは当然だと考えています。森保氏にはぜひ自分らしく采配を振っていただきたいですし、周囲のスタッフや日本サッカー協会は彼のことを手厚くサポートしてあげてほしい。他方、選手のほうでは長くピッチを離れていた選手が所属チームに復帰しましたし、ベテランでは、セレッソ大阪に戻ってきた乾貴士選手や、新天地で活躍を始めた香川真司選手、岡崎慎司選手も健在です。また、田中碧選手や前田大然選手ら有望な若手もJリーグから出てきました。チームというのはやはりバランスが大事なので、彼らのような若手・ベテランを含めてその時に最も調子が良い選手を試してもらい、森保氏の観点で選びながらチーム全体をより強化していってほしいですね。ワールドカップ本大会に関しては、ベスト8の壁はかなり高いと感じています。そこを超えることができればさらにその先の決勝まで進める可能性も高まりますが、2006年のドイツ大会から2014年のブラジル大会までを現地で、さらには2018年のロシア大会をテレビで見て、日本のサッカーというものがより独自の色を持たないと、ベスト8の壁を突破するのはなかなか難しいと感じましたね。そのためにも、日本のサッカー界はもっとさまざまなことにトライする必要があると思います」

目標は理想のサッカーを表現すること

FC.ISE-SHIMAの理事長兼監督として日々奮闘しつつ、現在も本誌でゲストインタビュアを務めている小倉氏。先の発言にもあったように、チームスポーツと「人間力」が不可分だと考える同氏は、本誌での仕事において経営者から学ぶことが大いにあると語ってくれた。

「やっぱり、それこそ人を育てる『人間力』が求められるという意味では、現在の私の仕事はいろいろな経営者の方と共通する点が多いですし、組織をマネジメントしていくという意味では、サッカーチームは会社と似ていると感じます。会社もまた、土台にあるのはチームビルディングなのだな、と。ですから経営者の方々のお話を聞いていると、ふに落ちることが多いですね。自分とは異なる視点を持っていらっしゃる経営者の皆さんのお話は非常に刺激になりますし、また勉強にもなります。私自身、今後は『人間力』をより高めていきながら、自分の頭の中で描いている理想のサッカーを監督として追求し、表現していきたい。そうした理想像を具現化できるような人間になることが現在の目標です。その目標を達成した先には何があるのか―それに関しては、今はまだわかりません」

(取材:2022年1月)
取材 / 文;徳永隆宏
写真:竹内洋平

CLUB PROFILE
 
2012年に設立、2013年から活動を開始した社会人サッカークラブ。三重県リーグ2部から1部、さらに東海リーグ2部から1部へと、2013~2015年は毎年上位リーグへの昇格を果たすなど快進撃を続ける。2018年に三重県出身の小倉隆史氏が理事長に就任。2021年には同氏が監督にも就任し、Jリーグへの加盟を目指した動きが加速している。
 
URL http://fc-iseshima.org/

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