巻頭企画天馬空を行く
自分の頭で考えない人間は成功しない
現役時代、畑山氏も一戸氏も1人の指導者との出会いが大きな飛躍につながった。畑山氏は「柳和龍トレーナーに出会えたからこそ世界チャンピオンになることができた」と振り返り、一戸氏はムエタイ9冠王のタイ人指導者との出会いが、世界チャンピオンを目指す契機になったと言う。現在、それぞれボクシングジム、ムエタイジムを経営する中で、どのようなことを心がけながら選手の指導にあたっているのだろうか。
畑山 柳和龍トレーナーは厳しい指導者でした。韓国は儒教の国ですから、目上の人が言うことは絶対なんです。ただ私は、今の若い人たちにはそのような指導方法は通用しないとも思っています。柳トレーナーは打ち方に関して特に優れた指導者で、自分がレベルアップしていくにつれて彼の教えがよりいっそう理解できるようになっていきました。だから打ち方については、柳トレーナーのやり方をそのまま教えるようにしています。他方、精神的なことに関しては、こちらの意見を厳しく言うようなことはしていません。自分で考えてやりなさい、と。われわれ指導者は口で100%すべてを教えることはできないんです。例えばパンチに関しても、ワンツー、フック、アッパー、ボディを教える際、「それらを生かすコンビネーションを考えるのは自分なんだよ」と伝えています。
一戸 畑山さんのおっしゃる通りだと思います。結局、実際にやるのは選手なので、私もアドバイスはいろいろとしますけど、それらをものにするかどうかはその人次第ですからね。
畑山 これはボクシングやキックボクシング以外――例えば会社勤めのサラリーマンに関しても言えることで、自分の頭で考えない人間は絶対に成功しません。
一戸 そうですね。それから私は、その選手が持っている良さをいかに引き出すことができるかという点にも注力しているんです。その人の武器が何なのかを見極めて、それを生かせる方向に導いていくような教え方をしています。指導者である私の考えを一様にそのまま押し付けても選手は伸びません。それぞれが持っている長所を駆使し、いかにして勝つための戦いができるか―そこがポイントだと思います。
ストレス発散に効果的なジムでの運動
2人が経営するジムはどちらも、プロの育成のほか、健康の維持・増進を目的にしたフィットネスにも力を入れている。興味はあるものの、ボクシングや格闘技に対してハードルが高いと感じている人も多いだろう。そんな人に向けてのメッセージはあるかと訊ねると ――。
畑山 名前からわかる通り、「T&Hボクサフィットネス」はもともとフィットネス系のボクシングから始めたジムで、大半が一般会員さんなんです。ボクシングジムというと敷居が高いように感じる方もいると思います。だけど今は一般会員さんがメインじゃないと経営が成り立たないジムが多いのではないでしょうか。昔、私が上京して最初に通ったジムは、プロ志望者が98%くらいの所だったんですよ。でも、現在はそのようなジムはほとんどありません。当ジムは練習生が150人から180人のあたりを行ったり来たりしているのですけれど、その中でプロ志望者は5%しかいませんからね。私も自宅近くのフィットネスジムで毎朝走り、フィットネスボクシングもやっていますが、そうしたジムと比べると当ジムではボクシングを通じてより本格的なトレーニングをすることができます。その点が一番の強みですかね。
一戸 うちのジムはキッズクラスやレディースクラスなどクラス分けしており、幅広い層の方がいらしています。もともと、誰でもムエタイを始められる入口として設立したんです。物を叩いたり蹴ったりするというのは非日常的な行為ですよね。外でやったら捕まりますし(笑)、他のスポーツではそんなことはできません。そのような体験ができるというのも当ジムの良さだと思っています。
畑山 確かに、例えばサンドバッグをパンチしたりキックしたりという行為は普段の生活ではできませんよね。ストレスの多い現代社会において、ボクシングジムというのは非日常的な空間で、ストレス発散には最適な環境だと思います。
一戸 女性会員様の中には、ニヤニヤしながらトレーニングをされている方もいらっしゃいますよ(笑)。畑山さんの言う通りストレス発散にもつながり、いい汗もかけ、とても良い運動になるのではないでしょうか。
一度しかない人生を悔いなく生きたい
実業家として、竹原慎二氏とボクシングジムを共同経営する畑山氏はその他にも、解説者 、タレント、YouTuberなど、多彩な顔を持っている。新しいことに挑戦していくうえで、大切にしているのはどのようなことなのだろうか?
畑山 私はこれまでさまざまなことをやってきました。その中には失敗したものもありましたが、何も始めないで失敗しないよりは、何かを始めて失敗したほうがいいと思っています。例え失敗をしたとしても、そこには免疫ができますから。そうすると次は同じ失敗をしないはずですし、いろいろなことを覚えようと努力するじゃないですか。そんなふうにして人間は成長していくのではないかなと感じています。何かをやろうと思ったまま迷っているというのは、時間がもったいないですよね。迷うのならやったほうが絶対にいい。一度しかない人生ですから、さまざまなことに挑戦したほうが楽しいと思います。
一戸 畑山さんが言われたように、失敗から得られるものもたくさんあるし、やらなければ見えない部分も必ずあると思います。迷っていても時間が経つばかりですから、それで楽しいのかな?と感じてしまいます。私は平坦な道を歩いていると飽きてしまう性格なんですよ。引退した時、普通に会社勤めをする選択肢もあったはずです。ただ、それだと何年後かに絶対に飽きてしまうだろうと、ジムを運営する道を選びました。今でも大変ではありますが、ジムで選手や一般会員さんたちと交流するのはとても楽しいですし、やってよかったと実感しています。
事業を「続ける」ことの難しさと大切さ
対談は約1時間におよび、終始、和気あいあいとした雰囲気で進んだ。その最後に、畑山、一戸両氏に今後の目標やビジョンについて語ってもらった。
畑山 私はいま45歳で、もはや大それた夢を持っているわけではありません。それよりも今の生活や事業を続けていくことが大切だと考えています。「継続は力なり」ではないですが、何かを続けていくというのは難しいことですからね。特にこのコロナ禍で、物事を「続けていく」ことの重要性を日々感じています。
一戸 そうですね。私も今の事業を続けていくというのと・・・あとは、現在のスタッフたちの成長にもつながるように、店舗を増やしていきたいという思いもあります。今回、畑山さんとお話をさせていただいて、言葉の端々から覚悟のようなものが感じられました。私はどの業界でも、覚悟と、明確な目標と、それを実現するための最短の道のりこそが大事だと考えています。今日は改めてそのことを実感しました。
(取材:2021年5月)
取材 / 文:徳永 隆宏
写真:竹内 洋平
目白ムエタイスポーツジム クレイン
所在地 | [目白本店] 〒 171-0031 東京都豊島区目白 2-2-2 mejiro222 B1 |
URL | http://crane.main.jp/ |
所在地 | [要町店] 〒 171-0043 東京都豊島区要町 2-7-21 クレスト 33 1F |
URL | https://www.crane-muaythai.com/ |
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