巻頭企画天馬空を行く
ボクシングは楽しい
判定でも勝利は動かない状況だったが、内山氏は最終の12ラウンドに猛攻を仕掛けてサルガドをKOし、見事ベルトを奪取した。その後、6年3ヵ月の間に、11度にわたり王座を防衛し続けるという偉業を成し遂げる。
「ベルトを奪われた試合をしていた頃は、30代後半になっていたし、さすがに反射神経などが衰え始めて、難しい部分もありました。でも、体が商売道具でしたから、現役時代は私生活も含めて体の管理は徹底していましたね。その点に関しては、オン・オフという考え方はできなかった。海外での防衛戦などもやってみたかったですけど、それが果たせぬうちに負けてしまって、引退した。それでも、ボクシングはやっぱり、すごく楽しいスポーツです。今は、その楽しさを多くの人に伝えたいと思っています」
現役時代にできなかったことを楽しむ
取材を通じて「自己管理」と「妥協のない練習」の大切さを繰り返して述べる、内山氏の言から感じられたのは、それを徹底して実践してきたことが輝かしいキャリアのバックボーンにあったということだ。現役引退を発表して2年以上が経過しても、当時と体形がほとんど変わらない内山氏。体形を維持する秘訣はあるのだろうか。
「ランニングをしなくなったので、足も細くなり、むしろ痩せましたね。たまにトレーニングはします。でも、それ以外に特別なことはしていないですよ。外食も多いですし、お酒も毎日飲んでいます。それでも太らないのは、現役時代ほど徹底はしていないものの、食事の仕方や食べる時間帯に気を付けるなど、食事管理を続けているからだと思います。
人生って一度しかないですから、楽しいことをやったほうが良いじゃないですか。だから、やりたいと思うことはすぐに実行に移したほうがいいと思います。僕はジムの運営を通じて、若い人たちにそういうことを伝えたい。思い立ったら、今日からでも明日からでもすぐにやってみろとね。そのうち、やれるときに――というような気持ちだと、人間って絶対やらないですからね。
現役時代と同じような興奮はもう味わえないです。でも、今はあのときに味わえなかったことがたくさんできている。だから、今は今で楽しいです。現役時代はボクシングが全てだったから、いろいろなことを我慢できたし、ボクシングのためなら耐えられた。あのときにやるべきことは、徹底してやっていたから、今の生活も楽しめるんだと思います」
心身ともに強い子どもを育成したい
取材の最後に今後の展望を聞くと、「ボクシングの魅力を広めて、人気スポーツにしたい」と語ってくれた。
「まずはジムの店舗数を増やしたいと思っています。いくつか候補地も出ていて、具体的に話も進めているんですよ。僕はたくさんの子どもたちに、ボクシングの魅力を伝えたい。そして、ボクシングを通じて、子どもたちが強い心を持てるような支援ができたらいいですね。肉体を鍛錬すると、心も強くなるんですよ。そして、きついトレーニングを乗り切ることで、自分に自信が持てるようになって、気持ちにも余裕が出てくる。そういう、心身ともに元気でいられるためのベースのようなものをつくってあげたいですね」
(取材:2019年6月)
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