巻頭企画天馬空を行く
「伝える」ではなく「伝わる」が大切
スタジオを建設し、時代の動きに即座に対応できるスピードと、自社体制ならではのクオリティーを手に入れた「ジャパネットたかた」。制作スタッフも、出演者も全て自社スタッフで揃え、多い時には100人規模で番組制作にあたっていたという。また、この頃には髙田氏が自ら喋って宣伝する、あのお馴染みのスタイルがすでに確立されていた。
「ラジオの頃から、自ら喋っていました。他にやる人がいなかったから、というだけの理由です。そもそも私は、話すことが決して得意ではなかったんですよ。人前に立つこと自体、恥ずかしいと思うタイプでした。それでもやらなければならないという状況の中で、商品の魅力を伝える方法を自分なりに模索していった結果、自然とあの喋り方が出来上がっていました。話術を誰かから学んだわけでもないですし、よく言われる声の高さや訛りも自分では意識しておらず、あくまで自然体でやっていたこと。今思えば、自然にできていたからこそ思いが伝わったのでしょうね」
髙田氏は、商品を紹介するにあたって、「伝えたつもり」ではなく、実際に「伝わること」が重要だと話す。それに必要な要素の1つが、パッション(情熱)だ。髙田氏は伝えたいという思いが強いからこそ、テンションが上がって声が高くなったり、時には噛んでしまったりすることもあったという。つまり、それだけの情熱があれば、必ずしも巧みな話術がなくても、商品の魅力は伝わるのだ。
「分かりやすく伝えるためのスキルやテクニックはもちろん必要です。私自身、MCとして活動する中で、常に試行錯誤していましたから。ただ、放送枠が増えるに従って私1人では回らなくなったことから、徐々に社員をMCに起用するようになりまして。その時には、情熱を持ち、それを表現できる人材かどうかを第一に考えて選んでいました。ちなみに、MCを務めるにあたっては、声や話し方はもちろん、人柄や印象も大切です。そうした人間性を見極め、「この人だ」という社員がいたら、私が直接指名していました。MC枠での採用はありませんから、MCに指名される人は、技術スタッフやバイヤーなどさまざまでしたね」
生放送だから思いが伝わる
また、「ジャパネットたかた」は自前のスタジオで制作を開始して以来、生放送を続けてきた。放送事故などのリスクを負ってまで生放送にこだわる思いとは何なのだろうか。
「生放送が、お客様に思いを伝えるのに最もふさわしい方法だと確信していたんです。例えば、時事的な情報やニュースの話題も生放送だから取り上げられますよね。『今日は寒いですね』と天気の話をするだけでも、お客様の心にグッと近付くことができるはずです。あるいは、自然災害が起こった直後の放送で、明るく喋っていたらおかしいでしょう。その状況に合わせた言葉や話し方を選んだり、場合によっては中断したり・・・生放送であれば、そうした瞬時の対応が可能になります。また、テレビショッピングのスタジオには、問い合わせの数や注文数がリアルタイムで表示されるモニターが吊してあって、MCが喋りながらお客様の反応を見られるようにしています。それも生放送の醍醐味ですし、緊張感や臨場感が増すことで、お客様により伝わる話し方ができるようになるんですよ」
髙田氏がMCを務めていた時、生放送ならではのある出来事が起こったという。何と、髙田氏が話している最中に携帯電話が鳴ったのだ。
「突然、着信音が鳴って、スタッフの携帯かと思ったら、自分のポケットから聞こえてくるんですよ。電源を切り忘れるという大失敗をしてしまいました。どうしようかと思ったのですが、その時は咄嗟に電話に出て、『ごめんなさい、今生放送中なので後でかけ直します』と言って切りました。そして、お客様に『すみません、生放送中に・・・』とお詫びをしたんです。すると、放送後はクレームが来るどころか、逆に『面白い』と話題になりまして。お客様との心の距離が近かったことで大目に見てくださったのかなと、胸をなで下ろしましたね。もちろん、スタッフからは怒られましたが(笑)」
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