巻頭企画天馬空を行く
社員が声を上げられる環境を
社長が描く「自分たちらしさ」を目指すには、一緒に働く仲間にもそれを共有し、同じ思いを持って働くことが必要となる。そのための採用や教育の方針について伺った。
「大手飲食店で店長をやっていたからといって、当社に合う人材かは別問題。そうした履歴書から分かる知識や技術、経験は、採用の判断基準の49%ほどと考えています。経験はないよりもあったほうが良いですが、それは入社してからいくらでも積むことができる部分です。決め手となる残りの51%は『ホスピタリティの種』を持っているかどうか。具体的に言うと『カシコイ社員』─これは頭の良さのことではなく、『感謝・親切・好奇心・飲食が好き』の頭文字を取ったものですが、それらに関わる間接的な質問を通して、各項目の評価をつけます。履歴書とその評価を勘案し、当社のビジネスモデルやホスピタリティを重んじる精神を持つ人を採用しているんです。
入社してからの教育制度としては、『ワンダーテーブル・カレッジ』というカリキュラムがあり、必須の研修や任意の研修のスケジュールを組んでいます。本社で行う場合もあれば、農業を体験したり、優秀な調理人の下で食材の扱い方を勉強したりします。また、人を育てるときの基本は1対1だと考え、『トレーニングライン』という制度を導入しています。例えば、社員が成長してきて、主任になるポテンシャルを持った段階で、時間帯責任者としての知識を教えるなど、マニュアルに沿って半年ほど掛けてトレーニングするんです。マニュアルも箇条書きの明確なもので、『何となくできそうだから主任にする』なんてことはありません。一定期間のトレーニングで知識や技術を与え、最終的にテストを通過できたら主任に任命するという体制をとっています」
また、秋元氏は「お店自体は生き物」とも語る。そこで、スタッフ個人の成長プログラムに加え、店舗の現場力を引き上げるプログラムも組んでいるという。
「階段方式で良いお店づくりができるよう『ホップ・ステップ・ジャンププログラム』という制度を導入し、段階ごとにいくつかの項目を設定しています。例えば最初の段階では、身だしなみや掃除という基本的なことをチェック。基本すら守れていないお店が販促チケットを配ってもリピートされないでしょうから、そうしたことは基本の項目を達成した上で行います。また、支配人がリーダーシップを発揮できていなければ、シフトを調整しても他の社員は納得できません。アルバイト社員を含めた全員が目標を持って行動できる組織でこそ、売上に対する意識が生まれ、シフトの譲り合いが自然とできるようになり、人件費コントロールが成り立つのです。このように、お店の状態に合わせた課題設定をしていきます。社員が店の方針を理解し、役割分担することで成り立つお店というのが、最終的に目指しているものです」
労働環境が社会問題としても取り上げられる飲食業界で、(株)ワンダーテーブルの離職率は何と1桁台。自社で活躍できる人材を見極めて採用していることもその理由の1つだが、他にも、会社の制度を整えるなどの工夫がなされている。
「当社は社会のルールを守る、仲間を大切にする、といったコンプライアンスを重んじています。そして半年に1回、取締役と社員が1対1で面談する場を設けているため、『休みがほしい』『直属の上司との関係に悩んでいる』ということも、経営陣に直接打ち明けることができます。社員に対して『ここは我慢のしどころだから、こっちを頑張ってみよう』とアドバイスもできますし、深刻な場合は戦略的に人事異動させることも可能です。また、グループ会社につながるコールセンターにも相談できますし、状況によっては経営陣も動きます。“完璧な会社”というものはありませんから、立場が弱い社員が声を発し、それを受け止める環境をつくることが大切。社員をトラブルから未然に救い、何が起きても大事にならない仕組みにしているのです」
アジアを代表するレストラン
2015年から2020年に向けた中期計画を「ワンダー10」として掲げる(株)ワンダーテーブル。「10万人外国人ゲストを増やす(26万人→36万人)」「10エリアで海外フランチャイズ展開」など、10をテーマにゴールイメージを描く。
「ビジョンとしては、『卓越したブランドとホスピタリティで世界のお客様を魅了できる外食企業となる』というものを据えて、中期計画を立てています。そして、世界のお客様を魅了するため、日本国内外においてグローバルな価値観でないと成り立たない会社づくりをしているんです。国内では、日本の上質なホスピタリティが感じられるようなお店を一つひとつ大切につくることで、海外のお客様に喜んで頂きリピーターを増やす。その一方で、海外では店舗を広げていく。そうして最終的には、日本の外食業界におけるグローバル企業のオピニオンリーダーに、そしてアジアを代表するレストランになることが目標です。今は約3割の社員が英語を勉強していますし、海外からのお客様も年間30万人ほどに増えています。長く続く会社であるために、その都度具体的な目標を立てて実行していくつもりです」
国内外において顧客を魅了する企業へと成長し、順調に業績を伸ばしている同社。一方で、秋元氏自身の目標を尋ねると、業界において重要な役割を果たす、ある「ミッション」を抱いているという。
「外食産業というのは、創業者のセンスだけで年商何百億、上場・・・と成長できてしまう業界です。それゆえ大きく成長した会社をマネジメントする方法が確立されておらず、後を継ぐ土壌が整っていないという問題があります。つまり、外食企業における『プロの経営者』が少ないのです。そこで、経営者としての『プロ』を極めることが僕のミッションだと考えています。
社内においては、後継者を育てて経営を継がせる体制を整えているところです。すると、いずれ僕はどこかのタイミングで社長を下りる必要が出てくるわけですから、自分で自分の首を絞めていることになりますね。ただ、社員たちにとってみれば、頑張れば部長にも取締役にも社長にもなれる可能性を示すことができます。だから僕としては、社内で『プロの経営者』を育て、外食企業経営者の勉強会で会長や顧問などを務めていきます。そうして業界全体の経営者のレベルを上げて、さらに、現場で働く人が『プロの経営者』になれる、そんな業界にしたいというのが僕の思いです」
(取材:2017年6月)
本社 | 〒163-1422 東京都新宿区西新宿 3-20-2 東京オペラシティタワー 22F |
設立 | 1946年7月 |
資本金 | 8千万円 |
URL | http://www.wondertable.com/ |
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