巻頭企画天馬空を行く
苦境を乗り越え世界で戦う
景気の煽りを受けやすい外食産業において、企業運営に長く携わってきた秋元氏は、数々の困難にも直面してきた。
「1990年代、高級店というほどではないけれど雰囲気の良いカジュアルイタリアンや和食バーなど、時代を先取りしたブランドをつくってヒットさせてきました。しかし2000年に入ると、新しいプレーヤーが当社よりも安い単価で店舗を広げるようになったんです。景気は悪化したままだったので、うちのほうが味は良くても、『安いほうがいいよね』とお客様は流れてしまいました。
あとは2008年のリーマンショックが非常に辛くて。当時はITバブルということもあり、客単価の高い場所に出店していました。中でも、『オービカ』というイタリアン、『テール・ド・トリュフ』というフレンチは、すでに六本木ヒルズでの出店の契約をしていたので、リーマンショック直後にオープンすることになってしまいました。当然、高級レストランなんて誰も来ないわけです。そのため、開店当初から大赤字でした。
その中で、会社を一度リセットさせようと、2010年に非上場化しました。当時、社長の代行のような役割を担っていた僕は、社員を集め『これから20店舗を閉めることになる』という話をしたんです。閉店する店舗の支配人や料理長だった人のポストはなくなってしまいますが、僕は社員を解雇しようとは考えていなくて。『後漢書』の『疾風に勁草を知る』─強い風が吹いたとき、しっかりと地に根ざした強い草を見分けることができる、という意味の言葉と共に、『地に足を付けて、逆境に立ち向かっていこう』という話をしました。そして、『構造を変える本物のリストラクチャーをしよう。みんなと一緒にやっていきたい』と率直に伝えたところ、誰1人として会社を去る人はいなかったんですよ」
店舗数を減らすも、人員はそのままに再生を目指すこととなった(株)ワンダーテーブル。ただ、単に非上場化させるだけでは回復は見込めない。そこで重要な役割を果たすのが、「ビジョン」とそれを実現させるための「中期計画」だった。
「非上場化の翌年、2011年は東日本大震災があって苦しい思いはしましたが、増収増益で、過去最高益を達成できました。それから2012年には『人とブランドを磨いて、世界で戦える会社をつくろう』というビジョンと、それに基づいた中期計画を発表しました。これを聞いた社員はみんな、ポカンとしていたんですよ(笑)。ちょっと前まで20店舗を閉めていた会社なのに何を言っているんだって。でも、それをずっと言い続け、2012?2014年も増収増益を達成。最初はポカンとしていた社員たちも、3年後には『世界で戦える会社になってきましたよね』と言ってくれるようになりました」
苦境にありながら大きなビジョンを掲げ、2017年現在では海外7ヶ国に、国内の店舗数よりも多い59店舗を展開するほどの成長を遂げた同社。現場と連携して目標をかなえるために、ビジョンを含めたフィロソフィー(企業哲学・理念)や中期計画を記載したカードを毎年配布し、社員はそれを携えて就業している。
「中期計画を達成するために重点的に取り組むべき施策を、カードには具体的に書いています。それは本部が中心となるものもあれば、現場の社員が取り組むべきことも。会社の方針をみんなが理解する仕組みがあって、おのおのがやるべきことを自分で考えられるようにしているんです。そして、3ヶ月に1回、幹部の会議で中間の報告を行い、次の3ヶ月に向けた施策も立てるようにしています」
自分たちらしいお店に
ビジョンや中期計画は、掲げていても実践できている企業はそう多くはない。秋元氏がそれを現場に落とし込むにあたって、影響を受けた企業・経営者について尋ねてみた。
「フィロソフィーを中心とする理念経営として参考にしたのは、ホテル業界で言うとザ・リッツ・カールトン、レジャー業界で言うとディズニーランドですね。いずれも理念を形骸化させることなくしっかりと現場に浸透させています。他の外食企業を真似ても差別化を図ることはできませんから、優れたサービス産業から学んだことが多いです。
また、特に上場企業の場合、中期計画は株主やマーケットを意識してつくることが多くなってしまいます。当社の中期計画は、もちろん金融機関や親会社のためでもありますが、それ以上に社員のためのもの。それも、“絵に描いた餅”にすることなく、未来のために今やるべきことを具体的に記しています。そうした中期計画に基づいた経営という点では、日産自動車の会長であるカルロス・ゴーンから多くを学びました。ブラジル生まれの彼は、当社のブラジル料理・シュラスコ専門店の『バルバッコア』にもよく来て頂いていたので、素晴らしい経営者でありながら、身近な存在でもあります。彼は日産の会長に就任すると、数字目標を盛り込んだ中期計画『日産リバイバルプラン』を発表し、それを達成するための経営を始めました。そうした計画の立て方、浸透のさせ方、それを達成することで企業価値を上げるという手法、そして計画を社員と共に達成していく考えは、カルロス・ゴーンから学んだんです。ただ、計画の内容は当社のほうがもっと分かりやすいと自負していますが(笑)」
各業界のトップと言える存在の経営を参考にした会社づくりを行っている秋元氏。では、どのような観点に基づいて経営の方針を定めているのだろうか。
「売上高や年商を目標にしてむやみに店舗数を増やそうとすると、どうでもいい物件まで契約して、従業員が集まらないのに無理して開店させ、ジリ貧で営業することになってしまいます。当社は上場もしていませんから、投資効率だけを考えて粗雑につくるのではなく、『自分たちらしいお店』に絞って、一つひとつ大切に、お金を掛けてつくる。投資回収の早さよりも、社員が長くいたいと思える持続可能な会社にすることのほうが大切ですし、そうしてお客様に長く愛されるお店をつくるから、結果的に売上が伸びて利益が生まれるんです。『自分たちらしい』というのは、高い専門性と高いクオリティを備えていることです。具体的には、商品やサービスを通じてユニークな体験ができるようなお店をつくる、広げる、もしくは海外から持ってくる。だから総合居酒屋や総合イタリアンという形態は、展開しようとは思っていないんです。そういうお店は、2、3店舗のオーナーでも、大手の会社でも同様につくれますから、そこで戦う必要はありません。
例えばこの『ロウリーズ』は、2001年にロサンゼルスから日本に持ってきたプライムリブの専門店。近年はニューヨークのステーキがブームですが、この店はステーキ屋ではありません。日本でオープンして15年以上経ちますが、いまだにこのポジションの競合は現れないんです。それから、2016年はリオのオリンピックの影響でシュラスコブームがピークになりましたが、そのときでも専門店である『バルバッコア』の競合は10社ほど。そして広い敷地を確保して展開しているのは当社の他に1社くらいしかいないんです。ブームに乗って出店した企業同士は価格競争に走るしかありませんが、それよりも高い単価で20年以上続けてきた僕らの店は、お客様に長く愛されているので予約が埋まりますし、価格競争にも縛られません。また、総合イタリアンは何千、何万店とありますよね。ただ、当社が運営する『オービカ』はモッツァレラ専門店という市場を新たにつくって展開したもの。週3回イタリアから空輸するフレッシュなモッツァレラチーズを提供するお店は他にはありません。こうしたユニークな市場の中で一番を目指すニッチトップ戦略。そこが僕たちらしいビジネスなんです」
アメリカ・ロサンゼルスで1938年に誕生した「ロウリーズ・ザ・プライムリブ」。(株)ワンダーテーブルは2001年、同ブランドを日本に誘致し、東京・赤坂に1号店を開いた。2008年に大阪店がオープン。赤坂店はビルの立て替えに伴い2014年に閉店し、その後、恵比寿ガーデンプレイスへ移転した。そして2017年9月、日本創業の地である赤坂に店舗を構え、再スタートを切ることとなった。
プライムリブとは、特製スパイスで味付けした上質な骨付き肉をじっくり焼き上げた、アメリカンスタイルのローストビーフのこと。同店では目の前で好みのサイズにカットしてもらえるスタイルで、他では味わうことのできない料理、そしてユニークな体験を楽しむことができる。
ロウリーズ・ザ・プライムリブ 赤坂店
〒107-0052
東京都港区赤坂1-8-1
赤坂インターシティAIR 3F
URL http://www.lawrys.jp/akasaka/
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