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“幼年期の終り”へ向けて
個人向けの「OKWAVE」と法人向けの「OKBIZ.」。両者は一見、それぞれに独立したサービスのようだが、実は向かっている先は同じだという。兼元氏が事業の目的地として定めているのは、まさしく幼年期の終り──近い将来やってくる人類の次のステージだった。
「私が事業を通じて最終的にやりたいこと、それは知識流通です。もちろんTVや雑誌などのメディアは対価をもらって知識や情報を発信していますが、その多くは広告収入ありきのビジネスモデルであって、知識や情報そのものに対価が発生しているわけではない。私は、この現状に物申したい。もっと知識やその発信者に、皆が価値を認めてあげればいいと思うんです。これだけ社会が細かく分化した世の中では、どんなことであっても何かを突き詰めている人はスペシャリストになり得ます。弊社の“著名人によるQ&Aサービス”、「OKWAVE Premium」でアンサーをお願いしている近藤麻理恵さんは、片づけコンサルタントとして、アメリカの有名な情報誌の企画“最も影響力のある100人”に選ばれました。誰にとっても身近なお片づけの価値を、ここまで高めることができるわけです。それなら、例えば“ミニ四駆の周回を0.1秒速くするためにタイヤを何ミリ削ればいいか”とか(笑)、そういう知識にも必ず価値がある。それを求めている人がいる以上、彼らの間で対価が発生することには何の矛盾もないでしょう。これまでは、誰もが親切で自分の知識や情報を発信してきた。そして、受け手はそれに“ありがとう”と言ってきた。その感謝を少しだけ見える形にして、10円でも100円でも発信者に対価が支払われることでその人の生計を支えられるような、そんな世界があっても良いと思うんです。
ビジネスの在り方も、これからは企業主導から問題主導へと変わっていくでしょう。解決すべきプロジェクトがまずあって、それにコミットできる知識なり能力を持っている個人が集まってチームを形成する。そうして目標を達成したら、各々が貢献度によってフェアに報酬を受け取って解散する、というように。
弊社は現在、ブロックチェーン技術を利用してOKWAVE上でビットコインを贈れるインフラを整備していますが、それは今述べたような未来を迎えるための準備でもあるんです」
兼元氏はここで一度間を置き、それから人が働くという行為そのものに関わる1つの問いを投げかけてきた。
「もし、あなたにルネサンス時代のメディチ家のようなパトロンがいて、“衣食住は心配しなくていいから好きなことをやれ”と言われたら、あなたは今の仕事を続けますか?──この問いに対して迷いなく“はい”と答えるためには、その仕事を好きでやっている必要があるのですが、それは“好きなことを仕事にしている”というのとは少し違うんです。例えば、今朝お会いしたとあるバーの経営者は、十数年前に人からやれと言われてその仕事を始めて、3日で辞めたくなったそうです。しかし、すぐに辞めたら信用を失ってしまうと思い、1年だけ続ける決意をします。1年という期限が付いたことで開き直れた彼は、上の人に対しても間違っていると思うことを堂々と指摘できるようになり、お店の改善に貢献していった結果、1年後には“楽しいな”と思えるようになった。そして、16年経った今でも、経営者として同じ仕事を続けているのだそうです。
こんな風に、人が喜ぶことや人のためになることを自分の思考転換によって好きで続けられるようになった時、初めてその人は自分の“商い”、つまり“飽きない”ことを手に入れるのだと思います。そして、誰もが自分の“飽きない”を見つけ、OKWAVEの質問が“こんなことで困っているのですが誰か助けてくれますか?”から“こんなことで助けられますが誰か困っていませんか?”へと変わる時代こそ、人類の幼年期の終りであり私が目指す世界なのです。
人には皆、自分の持ち分があって、それは比べるものではありません。実業家が尊い。パン焼き職人が尊い。トイレの清掃員が尊い。だから、“あなたには生まれた意味が絶対にあり、今の仕事や、やりたいことに出会った意味がある。そして、それを喜んでくれる人が必ずいるから、その人のことにちゃんと気付いて頑張っていけば、きっと上手くいく”。これは私が今まで色んな人から言ってもらった言葉ですが、そのまま、皆さんにも送ろうと思います」
(取材:2016年9月)
本社所在地 | 〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿1-19-15ウノサワ東急ビル5F |
URL | http://www.okwave.co.jp/ |
設立 | 1999年7月 |
資本金 | 983百万円(2016年6月30日現在) |
事業内容 | 日本初、最?級のQ&Aサイト「OKWAVE」の運営 企業向けソフトウェアの開発・提供 |
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