巻頭企画天馬空を行く
西村 琢 NISHIMURA TAKU
1981年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学経済学部在学中に松下電器産業(現・パナソニック)が主催するビジネスプランコンテストに応募し、優勝を飾る。起業する権利を得て一度は同社に就職するも、理想を形にするため退職し、2005年に自身の力でソウ・エクスペリエンス(株)を設立。当時から着目していた海外のギフト事業にヒントを得て、体験ギフトサービスをスタートさせた。現在はその事業を軸としつつ、より多くの人に体験を提供できる新たなサービスの可能性を模索している。
世の中にモノが溢れ、ギフト向けの商品も豊富に揃う昨今、「プレゼントに何を贈ればいいのか分からない」「普通のものじゃつまらない」という贈り手に向けて、“体験”を贈るという新しいサービスを提案するソウ・エクスペリエンス(株)。2015年には主力事業の体験ギフトに加え、自分へのご褒美として好きな体験ができるマガジンサービスもスタートした。そんなユニークで画期的なサービスを生み出す同社の西村社長は、職場でも多様な働き方を推奨し、注目を集めている。既成概念に捉われない、その柔軟な発想の源泉に迫った。
贈り物に“体験”という選択肢を
もしも大切な人から贈られたプレゼントが、モノではなくその人にとって“未知の体験”で、しかも人生観を変えてしまうようなものだったら・・・。
そんな夢のあるサービスを手がけているのが、ソウ・エクスペリエンス(株)だ。同社が主力商品として扱っているギフトカタログには、従来の商品カタログとは違い、モノではなく“体験”が載っている。それもパラグライダーやスクーバダイビング、フライトシミュレーターにクルージング、フェンシングといった、日常ではめったに体験できないコースばかり。
このユニークで新しいサービスはどのようにして生まれたのか。創業者であり代表取締役を務める西村社長に、まずは会社設立の経緯から伺った。
「僕はもともと高校・大学時代に株式投資をやっていたんですが、実際に投資先の社長さんたちにお会いする中で、投資以上に会社をつくることそのものに興味を抱くようになって。それで大学3年生の時に松下電器が主催していた学生向けのビジネスプランコンテストに応募してみたところ、優勝することができたんです。出資金3000万円とともに起業の権利も頂いたのですが、当時やりたかったことと現実がマッチしなかったこともあり、その時は一度保留にしました。ですが起業への想いはありましたし、コンテストの時にメディアに取り上げられたという後押しもあったので、自分で会社を興すことにしたんです。何のビジネスを始めようかと模索する中で、『どうやらヨーロッパには体験型ギフトのサービスがあるらしい』ということを知って、直感的にすごく新鮮で面白いなと思いました。まだ日本には無いサービスでしたし、誕生日や母の日、結婚記念日など誰かに贈り物をする機会は年に何度も巡ってくる中で、何を贈るべきかで悩んでいる人も多い。それなら贈り主が選んだモノをプレゼントするという選択肢だけではなく、相手に好きなコースを選んで“体験”してもらうという贈り物の選択肢があっても良いんじゃないかと思ったんです。それを贈られたほうは、用意されたチケット1枚をきっかけに、日常生活では味わえない新たな体験ができる。これは会社のメイン事業にふさわしいサービスだと思って、『Good Experience, Good Life.』をスローガンに、このソウ・エクスペリエンスを2005年に立ち上げました」
新たな世界を知るきっかけを提供
そうしてスタートした体験ギフト事業は当初こそ思うように進まなかったものの、日経産業新聞に取り上げられたことをきっかけに次第に注目されるようになる。1種類からスタートしたカタログも、現在ではあらゆるジャンルの体験を網羅した『総合版カタログ』5種類に加え、リラクゼーションや食などの様々なテーマに則したカタログと合わせて10種類以上に増えた。これらのカタログ全てを通して選べる体験は約190種類・4500コースにも及ぶ。では、実際にそれらのコースを体験した人たちからは、どんな反響が寄せられているのだろうか。
「会社には日々、体験者の方々から様々なお声を頂いていますが、例えば結婚前の娘さんから贈られたチケットで、『娘が巣立つ前の最後の記念に一緒にクルージングを楽しみました』という方がいらしたり、中には70歳にして『パラグライダーに挑戦しました!』というアクティブなご夫婦も(笑)。パターンとしては、『長年の夢だったことをついに実現できた』という方か、『なんとなく気になって体験してみたら、面白さにはまってしまって趣味にまで発展した』という方が多い気がしますね」
それほどまでに体験者たちを魅了してしまう数々のコースを、どのようにしてピックアップしているのか、その方法について聞いた。
「どんな体験をカタログに載せるか、ということは会社の根幹に関わる部分にもなるので、新しく開拓をする際には専門のチームだけでなく僕も含めた社員全員で、日々アンテナを張り巡らせて探します。そうして見つけた体験は、社員が現地に行って実際に試してみることで、掲載するにふさわしいかどうかを判断しているんです。判断方法としては、体験施設の質やサービス・接客のレベル、体験内容そのものが面白いかどうかなどを、満点を100点として数値化。最後の基準については採点者に寄るところが大きいですが、体験した本人だからこそ分かる“感覚”も大切にしていますね」
そうして一つひとつ丁寧に選ばれたコースが収録されたカタログの中でも、人気の高い商品について尋ねてみた。
「最近、特に売上が伸びているのは2014年から販売をスタートしたベビー・キッズ向けの商品『カタログ FOR BABY』ですね。ベビーヨガやベビーマッサージ、ベビーサインレッスンなどお母さんとお子さんが一緒に体験できるコースを載せていて、小さい子どもを外に連れ出すのは一苦労、という方のために知育玩具も多数収録しています。出産祝いや誕生日・入学祝い向けの商品として販売しているのですが、これなら人と被ってしまうことが無いですし、お母さんとお子さんがスキンシップを通してコミュニケーションを深められると好評です。
また『FOR 2』というカタログも人気ですね。これは総合版カタログから2人で体験できるコースを幅広く集めたものなんですが、やはり同じ体験を共有することで関係を深めることができると、結婚祝いや夫婦へのプレゼントに購入される方が増えています。
そうした各カタログのコースを単体で見るなら、老若男女・季節を問わず楽しめる、クルージングや陶芸などの体験が人気ですね」
幅広い層を対象としたカタログから、特定の層に響くものまで、多種多様な商品を揃える同社。今後はこのサービスをどう発展させていくのだろう。
「今後、この体験ギフトカタログのサービスとしては、柔軟なアイデアで新しい体験やカタログのラインナップを増やしつつも、求められている商品を見極めて絞り込んでいくことで、贈り物としての価値を高めていくつもりです。
また僕がこのサービスそのものを通してやりたいのは、体験を通して新しい世界を知ってもらうための“きっかけをつくる”こと。そのためには常に『○○君はどうしたら陶芸を始めるか』、つまり『誰かに何かを始めてもらうにはどうしたらいいか』という命題を掲げて方法を考え、サイエンス(実験)しています。これからもそのテーマをとことん追求していきたいですね」
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