巻頭企画天馬空を行く
組織改革で盤石の体制に
ヤッホーブルーイングのホームページを覗くと、そこから井手氏を筆頭に、社員自らが顔を出して商品や企業をPRしている様子が見て取れる。チームワークや会社の雰囲気の良さこそ同社の大きな魅力だが、決して最初から社内に笑顔が溢れていたわけではなかったという。
「ネット開拓、品質の改善、業績向上、と順調にきているかと思いきや、次にぶつかったのは組織の壁です。一時は減った社員数も徐々にまた増えてきていたのですが、温度差が激しければ一体感もない。一人ひとりはそれぞれの仕事を一生懸命やっていても、全体の士気が上がらないんですよ。極めつけは2007年、初めて当社が楽天市場のショップ・オブ・ザ・イヤーに入賞したとき。盛り上がっていたのは、私ともう1人のWeb担当者の2人、つまりWebの部署だけだったんです。
『このままではまずい』と考えて、ちょうど私が社長に就任した2008年のタイミングで、『チームビルディング』という組織づくりの研修を受けてみることにしました。丸1日を要する座学や体験型のプログラムを3週間毎に3ヶ月くらい掛けて行うのですが、研修の合間にも山ほど課題が出るので、結局その期間は研修に付きっきりになってしまうんです。ただ、その過酷な研修を通して目が覚めるような思いがしました。営業畑で一プレイヤーを務めてきた私にとって、“組織”というものの築き方やあり方を学べたことは、本当に大きかったんですね。
研修に感銘を受けたと同時に、『これは社内でもできそうだな』と思って、会社の業務中に社員にもやってもらうことにしました。チームビルディングの人には、『この研修を社内でそっくりそのままやろうだなんて考えた人は、井手さんが初めてだ』と言われましたが(笑)。当時、社員が20名ほどいた中で、最初はその3分の1くらいの人数が参加。それも繁忙期の夏だったので、せっかく上がっていた業績も鈍化してしまいました。ただ、それでも私は組織づくりが最優先事項だと信じていたんです。
そして結果的に、今のような明るく、風通しの良い雰囲気の組織に変化していったわけです。この研修を社内に初めて持ち込んでから6、7年経ちますが、今でも毎年、新人を中心に参加してもらいます。これが、我々の“一致団結力”の秘訣なんです」
個性派揃いのラインアップ
低迷期以降、あらゆる問題から目を背けずに善処していったヤッホーブルーイングは、エールビールという武器を引っさげ、まさしく万全の態勢で日本のビール業界に切り込んでいくこととなる。最初は「よなよなエール」だけだった商品のラインアップも、今では10種類以上にまで充実した。
「せっかくお客様が店舗のWebページに来てくれても、1アイテムしかないと他に飲みたい味があったときに、他の店舗で購入するしかないわけです。それでは勿体ないので、お客様が飲みたいビールはある程度、自分たちのページ内で買えるようにできたらなと。そこで最初につくったのが、王道の黒ビール『東京ブラック』と苦みの強い『インドの青鬼』。しばらくはこの3商品で展開していましたが、その後は会社が大きくなるにつれ、ニーズに応える形で増やしていきました。例えば、マーケティングリサーチを重ねた上で“女性をターゲットにしたビールをつくりたい”という目的と“ホワイトエールを売り出したい”という思いが合致してできたのが、『水曜日のネコ』。また、期間限定シリーズの『前略 好みなんて聞いてないぜSORRY』は、当社の“個性派”な部分を支持してくれているマニア向けに、『自分たちの好きなビールを好きなようにつくりました』というコンセプトで製造しています。第一弾から順に、米麹、鰹節、黒糖・・・と色々な風味でつくっていまして、今年は柚子と粗塩仕立てなんです」
個性的な商品のコンセプトやネーミング、パッケージは、これまで多くの人が抱いていたであろう“日本のビール”のイメージを一新させた。それもあってヤッホーブルーイングのビールは、大手ビール会社に比べて10?20歳ほど購買者年齢層が低いのだと言う。また、購買者の女性比率も高い。
「実は、そこまで若者をターゲットに設定しているわけではないんです。『よなよなエール』をはじめ、ほとんどの商品のターゲットは40代の男性ですし、30代を想定してつくったのは『水曜日のネコ』とローソン限定発売の『僕ビール、君ビール。』くらいのもの。でも、蓋を開けてみれば多くの若い層や女性に飲んでもらえている。それはきっと、既存のビールとのコンセプトの違いに加え、味も香りも全く違うバラエティ豊かな商品が揃っているので、自分の好みに合うものを探してもらいやすいからなのかもしれないですね。
ちなみにパッケージは一見するとバラバラですが、全国展開している商品に関しては『和』とか『個性的』『アート性』・・・といったような、9つのガイドラインに沿ってデザインを考えています。それにより、全然違う商品同士でも何となく親戚のように見える、ゆるやかなブランド設計をしているんですよ」
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