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巻頭企画天馬空を行く

株式会社 エスパルス 代表取締役社長 竹内 康人


竹内 康人
株式会社 エスパルス
代表取締役社長
2005年に清水エスパルスの筆頭株主である鈴与(株)より(株)エスパルスに出向、営業本部長を務める。2010年の早川前社長退任に伴い代表取締役に就任、地域に根差し、世界に羽ばたくクラブづくりを推し進めている。

カンパニータンクでは、これまでに8000を超える企業を取材させて頂いてきた。その中で、多くの経営者が口にする言葉が「地域社会への貢献」「地域経済の活性化」である。日本経済が行き詰まりを見せる中で「地域主権」という言葉がしきりに叫ばれていることからも窺えるように、現在の日本を覆う閉塞感を打破するには大都市圏ではなく、各地域の力が必ずや必要になる。
今回は地域のシンボルとして日本、そして世界で戦わんとする、プロサッカークラブ「清水エスパルス」を運営する(株)エスパルス・竹内康人社長にお話を伺った。地域に根ざし、大きく成長を遂げようというプロサッカークラブの舵取りを担う氏の言葉には、地域における企業経営の様々なヒントがちりばめられている。

インタビュー:俵 敦 文:東川 亮 写真:田中 正清

サッカーを通じて感じる「非日常」

清水エスパルスは1992年のJリーグ発足と同時にリーグに加入した、通称「オリジナル10」と呼ばれるサッカークラブの1つである。サッカー処として名高い静岡県清水市(現:静岡市清水区)をホームタウンに構え、市民クラブとして発足した清水エスパルスは、1997年に迎えた経営危機を機に、地元の大企業である鈴与(株)の支援の下でエスパルスの運営母体を一新、現在に至っている。2010年末に(株)エスパルスの代表取締役へと就任した竹内社長は、鈴与の人間として、そして(株)エスパルスの一員として、そんな紆余曲折を見聞きし、肌で感じてきた人物だ。

「清水エスパルスは、サッカー処である清水にJリーグチームを立てるべく、様々な関係者の尽力によって生まれたクラブです。一時はJリーグバブルの崩壊を受けてクラブ運営の危機を迎えましたが、鈴与だけでなく、たくさんの地元企業、そして30万を超える署名を集めたサポーターの力で立て直すことができました。現在、ホームスタジアムであるアウトソーシングスタジアムは盛況を見せていますが、それも全ては地元の人に支えられているからこそ。清水エスパルスは地元の人々の力を中心として、成り立っているクラブなのです」

企業は、サービスや商品を販売し、対価を受け取ることで経営が成り立っている。サッカークラブにおける商品と言えば、言わずもがな、サッカーだ。

「サッカークラブの原点と言えば、何と言ってもホームゲームです。クラブを健全に運営していくためには、ホームゲームに1人でも多くの方に足を運んで頂かなくてはいけません」

竹内社長は2005年に営業本部長という立場で(株)エスパルスに参画して以来、チームの強化に関わること以外の全てに携わってきた経験を持っている。その時の経験を以て、地域住民にスタジアムへと足を運んでもらう様々な施策を打ち続けている。

「例えば、『地域交流応援シート』というサービスがあります。これは私の前任の早川(早川巖前社長・現特別顧問)が始めたもので、地域の皆様に往復のシャトルバス付きチケットを格安で販売し、スタジアムに足を運んでもらおうというものです。早川は地元の方々にスタジアムに足を運んで頂くため、業務終了後に静岡市内に70以上ある自治会を1年かけて回り、タウンミーティングの場を設けて意見を集めていました。『地域交流応援シート』もその中で出た意見を元に生まれ、定着したサービス。地元には、今までサッカーを観たことがない、スタジアムに行ったことがないという人もまだまだたくさんいます。そのような方にサッカーとの接点を設けることで、スタジアムに足を運んで頂く。そこで感動や興奮、非日常を感じて頂くことが、『また来たい』という想いにつながるのです」

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エスパルス、3つの基本理念

清水エスパルスは、名実共にサッカー処・清水において、サッカーにおけるヒエラルキーの頂点に立つチームである。だからこそ清水エスパルスは、清水のサッカーに携わる全ての人にとって憧れのチームでなければならない。

「清水のサッカー熱は本当に高いです。シーズン中ともなれば、どこに行っても清水エスパルスの成績の話題が出ます。それだけ高い期待をかけられるに相応しいチームであるために、エスパルスでは3つの基本理念を掲げています。エスパルスの原点はこの基本理念に集約され、チームスタッフ全員が共有意識として念頭において活動しています」

3つの基本理念は、以下の通りだ。

1:スポーツを愛する人々に支えられる地域のシンボルとして、夢を創造しつづけます
2:サッカーを通じて多くの人々と感動をわかちあい、地域スポーツ文化の発展に寄与します
3:正々堂々と情熱をもって戦い、地域の誇りとなる最強のチームを目指します

いずれもプロサッカークラブにとっては大切なことであり、3項目は全てが密接にリンクしている。最強のチームを目指し、夢や感動を与え、地元のスポーツ活性化を図る。これらが成されることによって地域が盛り上がり、結果、プロスポーツクラブにしか成し得ない地域貢献が実現される。地域のクラブとして、エスパルスの果たす役割は大きい。
また、近年エスパルスでは小野伸二、高原直泰、小林大悟といった日本代表や海外のサッカークラブで活躍した地元出身選手を獲得している。これも、エスパルスの理念に基づく施策の1つだ。

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「彼ら3人は地元出身でありながら、様々な事情もあって地元であるエスパルス以外のクラブに加入し、プロサッカー選手となりました。しかし、彼らには地元に恩返しをしたいという気持ちがあった。クラブとしても彼らのような実力と経験を併せ持つ選手を獲得することで若い選手に良い影響を与えるだろうし、さらに言えば、地元のサッカー少年たちにとっては地元出身の大スターのプレーを間近で観られる機会が生まれることにもなる。もちろんプロサッカー選手である以上、実力が伴っているのは大前提ですが、その上で彼ら個々人とクラブ、そしてサポーターや地元の方の想いが合致して、エスパルスに加入してもらっています」

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