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Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

消費者との綿密な
コミュニケーション

この考え方には、ほかにも多くの例がある。例えば、無印良品の傘。見ると、持ち手に穴が開いている。この穴にしるしをつけるだけで「私の傘」をつくりあげるのだ。これによって、公共の傘たての中でも自分の傘が行方不明にならない。

華美なデザインによる個性付けではなく、穴をあけるというインテリジェンス。そこに「これでいい」を諦めに結び付けない洗練したセンスが生まれる。少し視点を変えてみる─それが無印流というわけだ。そして、無印良品のさらなるこだわりは、そうしたエッセンスを消費者とのコミュニケーションの中で伝えていくということ。そのコミュニケーションのあり方がおもしろい。

「このオーガニックコットンシャツはインドの綿を使っています。どうしてインドの綿なのか?実は、かつてインドの綿農家の方たちは、多くが農薬で肌がただれてしまっていたんです。でも使う人は、そのことをほとんど知りません。私たちはそこにいる人たちを守りたいから、農薬を使用せずに生産できる仕組みを一緒に作り、インドの綿農家の方々に栽培をお願いしているんです。無印良品として、商品にポップをつけて宣伝することは流儀ではありません。でも、そういうモノを選び取っているんだという生活者の視点になったとき、モノの背景をもっともっと伝える必要はあると思っているんです。こうした想いがありますから、私たちは商品のPRという手法を使わない、別の方法でお客様とコミュニケーションを取ろうと考えました」

その方法が、「くらしの良品研究所」というサイトだ。このサイトは端的に言うと、意見の集合地と言える。要望、感想を集って対応をオープンにするほか、日々の生活に関するアイデアを顧客と共に考えていくというスタンスで運営されている。例えば先のオーガニックコットンシャツの例でいうと、「これはこの国で生産をします。でも綿はインドの農薬を使わない土地でできたものを使いたいので、こういう価格設定にします」というストーリーを公開する。そこに顧客のリアクションが加わり、検討や議論の題材になっていく。

「全部の商品は無理でも、愛用してもらい、リピートしてもらうことが大事ですから、Webサイトに開発の実態を挙げ、お客様とコミュニケーションを図りながら、商品を展開していくつもりです。もう1つ、電話やメールで頂くお声については、「声ナビ」というシステムをつくって社内で解析をしています。ここで取り上げられたものは常に商品部が会議をもって検討して、対応する。そして、個人宛に会社としての対応をお戻しするだけでなく、『みんなに見てもらったほうがいい』と思える案件は、Webに載せてオープンに対応を検討、さらなる議論に発展させています。また、店舗でお客様から直接頂いたご意見は、「顧客視点シート」に自分の意見とともに記して本部にあげてもらいます。それに対して本部の社員は返答する責任を持っています」

無印良品が創る
未来のカタチ

顧客に対して、徹底したコミュニケーション哲学を持っている無印良品。それは、青山で1店舗目を立ち上げた30年前から、国内は370店舗以上、海外では20ヶ国の地域で、160店舗以上を構えた今でも変わらない。その哲学を持って、無印良品はどのような未来を具現化していくのか?

「一言でいうと、『競える会社』です。『競争』という言葉を見てください。この『競』という字は、諸説はありますが、昔の象形文字では人間2人が並んで走っているところから変化した漢字とも言われています。そして『争』は、昔の中国では棒のようなお金を使っていたので、それを2人の人間が手で取り合う、つまり奪い合うという絵から変化した漢字です。

スポーツに置き換えると分かりやすいでしょうね。陸上とか水泳などは、言わずもがな『競』。対して、だいたいの球技は1つの球を奪い合うわけですから『争』。何が違うかというと、相手のミスを自分のチャンスに変えるのが『争』。人との競争でありながら、自分との戦いが主軸で人のシェアを奪おうとはしないのが『競』。もし全ての企業が『争』ならば、極端な話、最後には1社しか残りませんよ。

そういう市場原理が富の格差を生んでいることは、今のご時世、間違いないことでしょう。今の世の中は、政治だけでは変わらないと思うんです。だからこそ、その『変えてゆく』という役割を中小企業が担っていく。それができるのが中小企業なんですよね。ですから、私たちは無印の価値観をどう具現化しようかとは考えていないんです。いろんなタイプが共存していい。それをお客様が自由に選ぶだけですから。そのかわり、自分が『この会社は、このようなビジョンとフィロソフィーをもって社会に貢献します』と決めたら、ぶれない軸をもって、それだけをやり抜けばいい。無印良品、そして(株)良品計画は、そのような考え方をもって世界で『競』える、持続可能なグローバル企業になっていこうとしています」

金井氏が考えている持続可能なグローバル企業。それには大きく分けて3つの核があるという。1つは、経済の仕組み。一部の富裕層と多くの貧困層をつくり出す現在の社会構造を変えてゆけるような仕事をすること。

「まだまだモノは簡素にできるはず。シャーペンの芯は5cmありますよね。でも、最後の1 cmは使えない。だったら、7 cmにするという考え方、発見が重要です。1/5より1/7のほうが小さいから、それだけロスが減りますよね。カッターナイフも、一つひとつの折れ幅を8掛けにしたらどうでしょう?人口がこれだけ増えていく中で、資源を20%落としていければ製造コストもその分、安くなる。そういう意味でのデザイン、モノづくりを考えています」

そして2つ目が、地球環境や自然を想い、それを維持していくための貢献活動。3つ目が現地化だ。例えば、中国においては中国人のマネージャーや社長を任命し、現地人にオペレーションしてもらうための準備を進めていく。

「そのうえで、土着化したいんです。例えば欧米ブランドなどは、世界中の主要な都市の富裕層が多く住まう街へ出店するときは、どの地域でもあまりブランドイメージを変化させず、そのまま出店していると思います。しかし、私たちは無印良品という概念をそこに持ち込んで、その地域に合わせたモノづくりをしたいんですよ。そういう会社の目標を持ちつつ、最終的に多くの方の共感を集めながら、収益の面でも世界レベルにまで成長することが、無印良品の目指す先です」

くりかえし原点
くりかえし未来

無印良品は、こうした考えを「くりかえし原点、くりかえし未来」というフレーズの中に込めて発表している。需要が先んじて供給を準備した時代と、圧倒的に需要とは関係なく生産が進んでしまう今の消費社会。製品は、時代と共に永劫的な良品でいられるかどうかは分からない。変わる商品や要素もある。しかし、こうした概念を消費者と共有し、“くりかえし”考え続けてきた歴史やスタンスが、今、ビジネスだけでなく社会的課題にメスを入れるだけの急先鋒になろうとしている。

「『くりかえし原点、くりかえし未来』という考え方で、お客様が商品や無印良品そのものを見ていてくだされば、そして、私たちがそれに真摯に向き合い、対応し続けてさえいれば、商品は自ずと社会にとって意味ある“良品”として、価値を維持できるのだと思います」

金井氏の言葉が、来るべき新しい消費社会への予言となれば、近未来の企業はまるで別次元の高みにたどりつけるのではないだろうか。

(取材/2012年1月13日)

株式会社 良品計画

代表者 代表取締役社長 金井 政明
所在地 〒170-8424 東京都豊島区東池袋4-26-3
設立 1989年6月
資本金 67億6,625万円

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