一歩を踏み出したい人へ。挑戦する経営者の声を届けるメディア

Challenge+(チャレンジプラス)

巻頭企画天馬空を行く

サブウェイに関わる全ての人を
ファン化する

 日本サブウェイ株式会社 代表取締役社長 伊藤 彰氏まず伊藤が着手したのは、インナー向けのブランディング強化だった。ディズニーランドのように、従業員全員が1つの旗印の下で仕事をすることに誇りを持てるような意識統一を行っていきたい。それが伊藤の願いでもあったのだ。

「オーナーだけでなく、アルバイト、またアルバイトを卒業した人たちも全て含めて、『サブウェイで働く、または働いていた意義』というものを感じなければ、お客様に対する空気の違いを生み出せない。つまり、何のためにサブウェイで働いているのか、その意識付けを強くしようと考えたのです」。

サブウェイには「イートフレッシュ」という全世界共通の用語がある。これはお客様の目の前で、フレッシュなものを提供するということをワンワードに込めたフレーズであり、全世界の店舗や本部でのタグラインとなっている。ところが、これが日本ではなかなか浸透しなかった。そこで伊藤は2007年から教育改革を実施。1年もの時間をかけて、ワークショップを開いたのだ。その教科書になった、注目すべきブランドブックがある。

「サブウェイに関わる全ての方々に、『何のためにサブウェイで働くのか』を共有してほしいと思い、ブランドブックを作りました。『I♥SUBWAY』という表題です。ここで言う『I』は従業員一人ひとりの主観です。それはアルバイトでも同じ。アルバイトのAさんが、サブウェイを好きになるためには、何が必要なのだろう?どう向き合うと、仕事を好きになれるのだろう?そして仕事で困ったときには、何をよすがにすればいいんだろう?そういうメンタルのコンセプトをしっかり詰め込んだ絵本作りの一冊です」。

なるほど、絵本風のブランドブック「I?SUBWAY」をひも解いてみると、サブウェイのサービスに関するきめ細やかな姿勢が描かれている。あくまでも姿勢であり、テクニックではない。サブウェイはどういう空間であり、どんなサービスを提供し、オーダーメイドのサンドイッチはそのときそこでしか作ることができない唯一無二のものである云々・・・。

「私の持論ですが、人を管理するものはルールや社則かもしれませんが、人を結び付けていくには理念が必要です。会社が確固たる理念を持っており、その理念がどれだけ従業員に浸透しているかがブランディング成功の裏付けになる。サブウェイでは、創業当時からかなりの人が入れ替わってきました。結果、会社に残り続けた幹部クラスと、店舗を担当する若い社員に二極化されてしまい、その中間層がいなくなってしまっていたんです。そこを育てることは大事ですが、同時に店舗も200、300、500、1000と数が拡大していくわけですから、いつまでも私が現場で旗を振ってやっていけるわけでもない。つまり全ての人材を包括する、『理念』という旗頭がどうしても必要だったんです。この『I♥SUBWAY』はまさにそうしたもので、極端なことを言えば、私や役員たち幹部に代わって会社を牽引してくれるものであるかもしれない。ここに書かれた理念は、まさにサブウェイブランドの中核をなすものですからね」。

戦後、高度経済成長期を迎えていた時代は、一般的に組織は一部の優秀な人材が牽引することで成り立っていた。舵取り役さえしっかりしていれば、船は前へ進んでいたのだ。しかし、時代は大きくうねり、変わる。個々の人材がよりブラッシュアップされた存在にならなければ、細分化された顧客のニーズや地域性に応えきれない。こうした情勢を先読みするかのように、ブランドブック「I ?SUBWAY」の最後には、サブウェイのチェーン理念が記されてある。

「端的に言うと、環境に配慮すること、全ての人々の心身の健康に貢献すること。これがファーストフード業界における、サブウェイならではの文化ではないかとまとめてあるんですよ。この理念をもとにして、企業としての戦略を組み立てた結果、『野菜のサブウェイ』というフレーズが浮かび上がってきたんです」。

1 2 3 4