巻頭企画天馬空を行く
権威とは
自分で磨きあげるもの
「権限は与えられるもん、でも権威は自分で磨いていかなあかんのや」。
これは、「人」をすべての軸に置く大東が、人材育成の上で常に口にしていることだ。同時にそれは、自らに言い聞かせ続けている言葉でもある。
「うちは、店長の裁量によって売り上げが決まる“店長産業”や。決して『餃子の王将』という一つの大きな固体なんやない。一人ひとりが集って店長を中心に店を形成し、その店が集って『餃子の王将』になってる。個性の集合体なんや」。
だからこそ、店長の育成は経営の最優先課題。「言葉遣い、態度、行動、姿勢、人となり、それを磨かないと人はついてこない」という大東の信念から、教育内容は人間性を伸ばす点に重心が置かれて いる。店長とエリアマネージャーに対しては2カ月に1度、合宿研修が行われる。プロの講師を招き、自己啓発とともに、仕事に対する目線の在り方や他者への気配りなどを学ぶ研修では、“気づき”によって、元来持っている性質をより良い方へ伸ばすことが大切にされるという。
「店長が変われば、店は必ず変わる。働いてる人が誇りを持てる店になる。そして従業員が誇りを持って仕事を楽しんでいたら、そこにリズムと勢いが生まれる。それは必ずお客さんに伝わるんや」。
教育に力を入れる分、店の運営に関しては店長に大きな権限を預ける。地域それぞれの店が独自のメニューを展開していることで知られる王将では、「店を盛り上げるために何をするか」はほぼ制約なし、店長の裁量が自由に活かせるシステムとなっている。だが一方、「どのようにするか」は徹底的に管理される。そこに、秩序とダイナミクスが融合したハイブリッドなシステムが完成する。
成果配分制度による
「ありがとう」の伝え方
大東の元には、毎朝9時までに各店舗の情報があますところなく届く。前日の売り上げから人件費、原価、前年対比の数値…。そこで問題点を見つけたら絶対に放置しない。
「メールを開いたその手で店舗に電話をかけるし、メールを見たその足でエリアマネージャーに会いに行くこともある」。 特に、日々の報告の中で営業利益の前年対比が80%以下の店舗があると、店長とエリアマネージャーに会って原因と対策をとことん話し合う。具体策を講じず、ただ「報告」だけをした店長には大東の怒号が飛ぶ。
「何をしよるんや!こうしたい、というおまえ自身の思いはないんか!」
ただ、爆発した後はすぐ「現実」に向き合い、本部としてできる限りのことを行う。コスト効率が悪いと聞けば食材を半額で供給したり、調理人が弱いと聞けば腕利きの調理人を派遣したり。「経営本部の役割は、店長のバックアップ」が大東の信条だ。
「あくまでも最前線にいるのは店舗。お客さんがいて、店長が率いる店舗があり、従業員がいて、取引先がいて、卸業者がいて、その最後の最後に僕らがいる。お客さんという観客の前で、ステージに立って活躍するのは各店舗の従業員なんや。光を浴びたそのステージを、お客さんが喝采しながら見てくれる。店舗の従業員が輝やけば輝くほど、お客さんの満足度も上がる。僕たちはその後方支援をするだけや」。
だからこそ、成果を上げた店への評価はきちんと行う。報奨金による成果配分制度だ。
「報奨金は、本部からの『ありがとう』。どんな立場であっても、『ありがとう』は伝えることが大事やと思う」。
2009年3月期の連結決算で、売り上げ549億円と過去最高の数字をあげた今年は、通常の倍の決算ボーナスを出した。さらに自社の業務をサポートする他の会社の人たちにも、金一封を包んだという。
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