コラム

キャンプやサバイバルに関するアウトドアスクールを主催しているイナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。春の訪れとともに自然が目覚める今の時期は、アウトドアスポーツを始めるのに最適な季節だ。キャンプやグランピングをはじめ、近年盛り上がりを見せているアウトドアについて、心理的な効果や持続可能な楽しみ方など、多角的な視点で考察する。
◎自然との触れ合いがもたらす心理的な効果
現代社会では、多くの人が日々のストレスやプレッシャーにさらされています。仕事や学業など忙しいスケジュールに追われる中、心身の健康を維持することは近年ますます重要になっています。そしてそのような環境において、アウトドア活動が私たちの心と体に与えるリフレッシュ効果が注目を集めているのです。今回は、自然の中に身を置くことがいかに私たちを癒やし、活力を取り戻す助けになるのかを考察します。
まず、アウトドア活動はストレスを軽減する効果があると言われています。都市部の騒音や人工的な環境から離れ、自然の中で過ごす時間は、私たちの脳にリラックス効果をもたらします。ある研究によれば、森林や緑地に身を置くことで、「ストレスホルモン」と呼ばれるコルチゾールのレベルが低下し、心拍数や血圧の数値が安定するとのこと。また、自然の中で過ごすと、セロトニンやエンドルフィンといった「幸福ホルモン」の分泌が促進され、ポジティブな気分を高める作用があるとされています。さらに自然環境は、アメリカの環境心理学者であるカプラン夫妻が1980年代初頭に提唱した「注意回復理論」によっても説明されるように、疲弊した注意力を回復させる効果を持っています。例えば、仕事や勉強で脳を酷使した後、山や海、川などの自然の中にいると、心地よい景色や静けさが脳を休ませてくれるのです。また、それによって認知機能が改善され、創造力や問題解決能力が向上するという研究結果もあります。
その他、よく挙げられる例として、たき火などによる癒やし効果があります。自然界は、たき火の炎、木々のざわめき、波の打ち寄せる音など人為的でないもので満ちていて、これらのリズムは不規則であり、そのことが癒やし効果を与えていると言われているのです。そして、そのような環境の中にいることによって脳がアルファ波を出し、リラックス状態になるとされています。
◎身体的なメリット
アウトドア活動は、運動不足の解消にも効果的です。例えば、ハイキングやサイクリング、キャンプでの活動などは、全身を使った運動を促します。平坦な道を歩くだけでも筋肉を動かすので、心肺機能を向上させる助けとなるのです。さらに、屋外で行う運動はジムや屋内での運動よりも「楽しい」と感じる傾向があり、継続的に取り組む動機づけにもなります。
また、アウトドア活動中に日光を浴びることでビタミンDが生成されます。ビタミンDは骨の健康に必要不可欠な栄養素であり、免疫機能を高める効果もあるのです。さらに、適度な日光浴は質の高い睡眠へと導くメラトニンの分泌を調整し、夜間の睡眠の質を向上させる助けにもなります。
2020年から流行した新型コロナ感染症の影響により、新しい生活様式「ステイホーム」が推奨されました。それにより、外出機会が極端に減ってしまった方も少なくないでしょう。当時、「免疫機能を低下させないためにも日光浴をしましょう」とマスコミが提唱していました。私自身は外での仕事が中心なので日光浴ができていましたが、一部の友人などは外出機会を減らしていたことを覚えています。その影響で、自然の中で免疫力を高める機会が減っていたことは間違いありません。
◎社会的なつながりを深める場としてのアウトドア
アウトドア活動は、家族や友人の他、新しい仲間とも一緒に楽しむことができます。自然の中で同じ体験を共有することは、人間関係を深めることにつながります。一緒にテントを張ったり、たき火を囲んで話したりすることで、日常ではなかなか得られない深い絆を築くことができるのです。たき火に関しては、コミュニケーションを促進する効果もあるとよく言われています。実際、たき火を囲むと自然に人と人の距離が縮まります。先述したたき火の癒やし効果によりリラックスした気持ちで会話ができるので、本音で話し合えるような雰囲気が醸成されるのです。人はたき火の前では正直になると言われているので、職場の上司や同僚たちと普段言えないことを本音で話せる良い場にもなり得るかもしれません。
アウトドアでの活動は、デジタルデバイスから距離を置くよい機会にもなります。スマートフォンやパソコンに依存しがちな現代人にとって、デジタルデトックスの時間をつくることは、リアルな人間関係づくりや自己と向き合う時間を持つことにもつながるはずです。
私は以前、無人島に行く機会がありましたが、その時は普段の生活と比べてデジタル機器に触れる場面が激減しました。私が若い頃はそれが当たり前でしたが、時代の変化に伴い、いつのまにかデジタルツールにまみれた毎日になりました。仕事相手といつでも連絡が取れる便利さと引き換えに、常に拘束されているような感覚に陥ってストレスが増えている人も多いのではないでしょうか。
◎持続可能なアウトドアの楽しみ方
アウトドアを楽しむ際には、自然環境を保護する意識を持つことも重要です。自然を尊重しゴミを持ち帰る、植物や動物を傷つけないなど、環境への配慮を心がけることで、次世代にも豊かな自然を残すことができます。また、例えば地元のエコツーリズムに参加することで、地域社会に貢献することも可能になるでしょう。アウトドア活動は、心身をリフレッシュさせるには理想的な方法です。自然の中でリラックスし、体を動かし、仲間との絆を深めることで、ストレスの軽減や、生活の質を向上させることが期待できます。忙しい生活の中でも、意識的に自然と触れ合う時間を設けることで、私たちはより健康で充実した毎日を送ることができるはずです。
さあ、今度の週末はデジタルデバイスを置いて、自然の中でリフレッシュしてみませんか?

森 豊雪 学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。 ※保有資格 ・NCAJ 認定 キャンプインストラクター ・JBS 認定 ブッシュクラフトインストラクター ・日赤救急法救急員他 ■企業情報 イナウトドア 合同会社 〒238-0114 神奈川県三浦市初声町和田3079-3 ■URL https://www.inoutdoor.work/ ■X(旧Twitter) @moritoyo1 |