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コラム

海外ビジネスの指南役! 小田切社長の連載コラム.27

「海外展開を進めていくうえで、特に現地の人の気質やものの考え方が知りたい」。そんな声にお応えして、海外ビジネスの経験を豊富に持つ(株)サザンクロスの小田切社長が、世界各国の国民性を解説!より良い人間関係を構築することは、ビジネスの大きな成果へとつながるはずです。第27回は、海外の国々における代表的なビジネス習慣や商慣習について、韓国編をご紹介します。

皆様、こんにちは。(株)サザンクロスの小田切武弘です。本誌の2020年9月号から、海外でビジネスを進める際の現地ローカルスタッフへの接し方や、仕事の依頼の仕方、スムーズなコミュニケーションの取り方などにフォーカスしたコラムを連載し、このシリーズでは皆様から特にご要望が多かったタイ国関連のコラムからはじまり、韓国、米国、中国、インド、ロシア、アラブ諸国と連載を続けてまいりました。

2024年5月号からは海外の国々における代表的なビジネス習慣・商習慣について米国、オーストラリア、シンガポール、中国編を執筆してまいりました。今号では読者の皆様から再度ご要望の多かった韓国について述べていきたいと思います。今後はインド、タイ、UAE、トルコ、ドイツ、ロシアを今のところ予定しています(ご要望の国がありましたら、可能な限りお応えいたします)。

はじめに

大韓民国。略して韓国。領土は約10万平方キロメートルで日本の約3分の1、 人口 は約5,156万人となっています。*1 主な宗教はキリスト教(プロテスタント:968万人+カトリック:389万人)であり、それに続く仏教は762万人です。*2

韓国のGDPについては、名目GDPを見ると約1兆6,643億ドル。*3 これは韓国4大財閥(サムスン、現代、SK、LG)で約半分程度を占めている数字です。2023年の韓国の日系企業拠点数は3,003で、2022年の370%である2,194拠点が増えています。*4 また、JETROが2022年度海外実態調査を依頼した情報では、80%以上の製造業・非製造業の在韓日系企業から、今後の見通しについて拡大あるいは横ばいを予想しているとの回答を得られています。*5 経済構造の大企業一辺倒という不確実性や、政治的に不安定な要素はあるものの、依然として韓国は日本企業にとって、進出も展開もしやすい国となっています。

韓国のビジネスや経済は、上記した4大財閥やPOSCOなどの超大企業によってコアが成り立っていると言っても過言ではなく、それらの財閥・企業のその時の経営状況によって全体の経済の調子が左右されがちです。業種の面で見ると、IT産業をはじめ、半導体事業、ゲーム等のコンテンツ産業の他、昨今では医療精密機械産業や介護・福祉事業、保険事業などにビッグビジネスの中心が移ってきています。またそれらの商品を輸出する輸出産業が韓国経済にとっての大きな生命線にもなっています。

①人間関係重視のビジネス

韓国人ビジネスパーソンは企業の規模に関わらず、基本的に良い人間関係を構築し、発展させていくことを大切にしています。儒教の精神が根幹に流れていることもあり、商談の席や宴席では、年長者や上位の役職者に対する敬意を重視します。特にお酒を飲む際は、年長者の正面に向かって飲酒・喫煙をすることや、先に食事に手を付けることなどは礼を失し、ビジネスに悪影響を与えます。これは、韓国企業同士ではもちろん、日系企業や外資系企業にも当てはまります。コロナ禍以降も依然として、食事会や宴席の場はビジネスを進めていくうえで重要なファクターの1つと言えます。

②電子媒体ビジネスの増加

韓国で新たなビジネスで契約書を交わす時は、ページ数も多く、最後のページにサインと社印を押印するだけでなく、各ページに割り印を押したりする独特な契約書作成文化があります。しかしその一方で近年では、大手企業から中小企業まで、契約書作成も押印も管理もすべてノートパソコンの中で行い、ペンやハンコを一切使用しないやり方も一般的になってきました。

また日本ではgoogleやYahooが一般的ですが、韓国では自国産の検索エンジンNAVERが圧倒的シェアを誇り、国内で浸透しています。NAVERを駆使したマーケティングや営業活動はもとより、さまざまな情報を効率的に広範囲から収集する傾向が非常に強い印象としてあります。

NRI(The Networked Readiness Index)の調査によると2022年の各国IT競争力スコアでは、米国が1位、韓国は9位となり、IT先進国の1つとして位置付けられています。*6 IT関連電子産業は、韓国製造業の30%を占める最重要産業です。

③コンテンツ産業の隆盛

ここ10年余り、韓国ではアニメやゲーム、音楽などの創作物を扱うコンテンツ産業が右肩上がりの好調な業種となってきています。それぞれ素材が違うため作成から配信、輸出まで分業化が進んでいて、主に若年層のフリーランサーや起業家、中小企業などが相互に協力し合い作品をつくり出していく流れが一般的です。そのため今までの韓国独特の食事会や飲み会に代表されるようなビジネス商習慣にとらわれず、独自のスタイルでビジネスを行う方も増加しています。JETRO情報によると、2022年では韓国のコンテンツの輸出額は約133億798万ドルと、韓国の財・サービス輸出全体に占める割合はわずか2%程度でした。*7 しかし、コンテンツ産業とIT産業の結びつきは強く相乗効果を期待できるため、今後10年の予想ではかなり大きく数字が伸びていくと予想されています。

④新たな分野のビジネス

前述したように、韓国のIT産業やコンテンツ作業に携わっている方が若年層になってきていたり、中小企業やフリーランスの割合が増えていたりすることにより、日本とのビジネスにおいても新たな分野での新規関係構築が顕著になっています。
従来のビジネスのように「何か良い製品を製造し、コンペチターとスペックや価格、取引条件などを交渉して成約、そして日韓間での輸出入に進む」というルートの場合、主に下記の手順で展開が進んでいきます。

①製品の品質やパフォーマンスによって価値や価格が決まる
②耐用年数や消耗品度によって次の受発注を行い、ビジネスを継続していく

しかしコンテンツ産業の場合、①では、例えば映画や音楽、有名アイドルの関連グッズなど、おのおのの作品や商品の価値(価格)をどのように、何を基準に決めていくかが不明瞭となります。また、②では同じシリーズを継続していく場合は良いとしても、極論、「一期一会」的なビジネスの流れになる可能性もあるという不安材料があります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。韓国も世代が交代し、それぞれの国の考えや動きが誰でも瞬時にわかるインターネット環境の下、一般のビジネスパーソンも日本人の考え方を理解しているため、当然接し方も変化してきています。日本人である私たちは従前どおり誠実に相互協力の気持ちを持ち、良い関係を継続していけるように対応していくことで、良い流れが続くと筆者は思っています。

日本も新たに首相が変わりましたが、相変わらず円安傾向は進み、国内の物価高騰、賃金の横ばいなどなど、ここ10年特に厳しい経済環境が続いています。日本国内における各企業の経営活動はますます厳しくなり、不透明かつ不安定な企業収益を新たな海外ビジネス活動やその他で増やしていかなくてはならない状況です。微力かもしれませんが、当社として引き続き皆様のお手伝いをさせていただければありがたく存じます。当社ホームページのお問い合わせ欄より皆様のご希望をお聞かせください。
次回はインドのビジネス習慣・商習慣についてお伝えしてまいります。どうぞお楽しみに。

参照:*1「韓国統計庁2023年データ」
   *2「韓国統計庁2015年データ」
   *3「2022年韓国銀行データ」
   *4「外務省 海外進出日系企業拠点数調査データ」
   *5「JETRO 2023年 海外進出日系企業実態調査」
   *6「NRI(The Networked Readiness Index)」
   *7「JETRO 地域・分析レポート 韓国輸出入銀行に聞く」

■プロフィール
株式会社 サザンクロス
代表取締役社長 小田切 武弘

海外志向が強く、学生時代に海外留学を経験。学業修了後は、大手電気機器メーカーや飲料・食品メーカー、総合商社など数社にわたって、米国、インド、韓国、東南アジアといった諸外国に駐在。その中で、海外でのビジネスに苦戦する日本企業の存在を知り、自らのノウハウを提供したいという思いが芽生える。2017年7月7日、企業の海外展開をサポートする(株)サザンクロスを設立した。
 
http://sc-southerncross.jp/

 
 

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