コラム
「海外展開を進めていくうえで、特に現地の人の気質やものの考え方が知りたい」。そんな声にお応えして、海外ビジネスの経験を豊富に持つ(株)サザンクロスの小田切社長が、世界各国の国民性を解説!より良い人間関係を構築することは、ビジネスの大きな成果へとつながるはずです。第26回は、海外の国々における代表的なビジネス習慣や商慣習について、中国編をご紹介します。
皆様、こんにちは。(株)サザンクロスの小田切武弘です。本誌の2020年9月号から、海外でビジネスを進める際の現地ローカルスタッフへの接し方や、仕事の依頼の仕方、スムーズなコミュニケーションの取り方などにフォーカスしたコラムを連載し、このシリーズでは皆様から特にご要望が多かったタイ国関連のコラムから始まり、韓国、米国、中国、インド、ロシア、アラブ諸国と連載を続けてまいりました。
2024年5月号からは読者の皆様からご希望いただいていた、海外の国々における代表的なビジネス習慣・商習慣について、米国、オーストラリア、シンガポール編を執筆しました。今号では読者の皆様から依然ご要望の多かった中国について述べてまいります。今後韓国、インド、タイ、UAE、トルコ、ドイツ、ロシアを今のところ予定しています(ご要望の国がありましたら、可能な限りお応えいたします)。
はじめに
中華人民共和国、略して中国。国土面積は約960万㎢で日本の約26倍あり、人口は約14億人です。*1 2021年からの人口減少を皮切りに、中国国内の不動産業界の不況や、中国政府の民営企業に対する政府の諸規制強化、先進国市場への参入力の鈍化などにより、2023年の実質成長率はコロナ禍の終息時期まで落ち込みました。その後は反動もあり高まりはしたものの、2013年頃から現在にかけての流れを通して見ると明らかに右肩下がりの状態になっています。*2 また、名目GDPは世界トップレベルではありますが、購買力平価換算における1人あたりの名目GDPは約17,000ドルと世界77位ほどになっています。*3 インドやベトナム、タイといったアジア諸国の発展や日中間の政治的な要因にも伴い、中国に投資する流れが弱くはなってきています。しかし、「他に代替国がまだ見つからない」、「既に中国とのビジネス関係を構築しているので大きな骨子は変えられない」と現状判断している企業もまだあります。民族的には漢民族が総人口の約92%を占めており、その他には55の少数民族が存在しています。また、多宗教の国であることも特徴です。今回は、そうした中国の商習慣やビジネス習慣について、筆者なりの見方からまとめてまいります。
①面子が重要
中国人のビジネスパーソンと仕事をする際に最も気を付けるべき点は、どんな時でも相手の面子をつぶさないということです。相手の話を冷静に笑顔で聞き、現在の仕事のことや立場についてまずリスペクトの気持ちを言葉に表すことで、相手から拒絶されることなくビジネストークを進められます。特に相手の家族関係や交友関係については、まだ相手についてよく知らない段階から否定的な言動を慎むようにしたいです。また、中国のビジネスパーソンが部下や同僚、友人、取引先などの人たちと同席している場合は、そのビジネスパーソンの会社や商品、サービスについて十分に話をうかがってから、必要に応じて自分が求めているビジネスの可能性について、相談ベースで粛々と相手を立てて話すことで、良い話の流れができていきます。決して面子をつぶさず、また相手に逃げ道を閉ざした形でネガティブな話し方をせず、いかに自分のペースで話を進めていけるかを考えつつビジネスを行うことが肝要です。
②地域別の商習慣特性
以下では、中国のさまざまな地域で商談を繰り返してきた筆者の経験をベースに、大きく3つの地域に分けてそれぞれのビジネスパーソンの傾向をまとめます。中国の北の沿岸部近くの地域(青島、煙台、天津、北京、大連)のビジネスパーソンは往々にして人情に重きを置き、食事やお酒を共にして友好関係を築きつつビジネスを進める傾向にあります。上海とその近郊の中部沿岸部の地域のビジネスパーソンは、高学歴で海外ビジネスに慣れていることもあり、売り手・買い手として数字を常に意識して素早く計算を行い、合理的かつストレートにビジネスを行う傾向があります。南部沿岸部近くの地域(広州、深セン、香港)のビジネスパーソンは大手製造業の関連企業が多いせいか、あくまで商品の品質や価格などの具体的な情報を重視し、ビッグビジネスを無駄なく迅速に進めていこうとする傾向があります。
③儒教文化がベースの考え
すべての地域に共通しているのは、儒教文化に大きく影響を受けているため、血縁関係や地縁関係を最も重視するという点です。自分で会社を設立・運営していく場合、親、兄弟、親戚と一族で会社の実権を握るケースがほとんどです。また、自社のビジネスにとって有利になるような地元企業や地方政府官僚との人脈構築も大切にしています。見知らぬ人や血縁関係のない人とのビジネスは、いつでも切られる可能性があると言ってよいでしょう。
④ビジネスパートナーとして
中国人が国内、海外の空港施設等のソファーを大人数で独占したり、平気で列に割り込んできたりなど、自分たちのことしか考えていないと思うような言動を取る人は珍しくありません。これは、ビジネスのうえでも大変気を付ける必要があります。一言で中国のビジネスパーソンといっても、しつけの丁寧な家庭で育った高学歴の人から、あまりマナーの良くない人まで、多様な方がいらっしゃいます。そのため、日本人ビジネスパーソンとして誠実なビジネス関係を構築しようとする場合には、やはり良きパートナーに恵まれること、またそのような方を選ぶ目が重要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。地域によってさまざまな文化があり、特性も大きく異なる中国人ビジネスパーソンを一くくりにすることは困難です。しかし、その場での決断と現金決済を好み、長期的な見方というよりもその場その場の売上を優先して行動する中国人ビジネスパーソンと、安定的かつ長期的なビジネス関係を構築していこうとする日本人ビジネスパーソンとは大きな隔たりがあります。そうした状況においても、長きに渡って良好なビジネス関係を継続しているケースも多く見てきています。私たち日本人ビジネスパーソンは、常に相手に対して誠実に、友好的でリスペクトを絶やさず、できることを1つずつ積み重ねていく姿勢が大切であると思います。
前号、前々号でもお伝えしましたが、コロナ禍を境に中国経済の発展は急減速し、金価格高騰や基本的な円安傾向が継続していることにより、特に日本経済の流れにも大きな影響を及ぼしています。また、次期米国大統領選の結果によっては、日本経済にとどまらず、世界経済の潮目が変化する可能性もあります。日本国内における各企業の経営活動は厳しくなり、当然先細りする収益を海外ビジネス活動で増やしていかなくてはならなくなっていくでしょう。ここで会社の経営や方針、方向性を根底より見直しを図ることが急務であると、筆者は強く感じています。 海外進出だけではなく、国内経営方針や海外スタッフ候補の育成、人事管理処遇について実質的な見直しを図るタイミングでもあるので、ご検討・ご希望の企業・団体様がいらっしゃる場合には、引き続き当社ホームページのお問い合わせ欄よりご希望をお聞かせください。
次回は韓国のビジネス習慣・商習慣についてお伝えいたします。どうぞお楽しみに。
参照:*1 外務省公式ホームページ 中華人民共和国 – 中国基礎データ
*2 中国国家統計局
*3 JETRO2023年度海外進出日系企業実態調査
株式会社 サザンクロス 代表取締役社長 小田切 武弘 海外志向が強く、学生時代に海外留学を経験。学業修了後は、大手電気機器メーカーや飲料・食品メーカー、総合商社など数社にわたって、米国、インド、韓国、東南アジアといった諸外国に駐在。その中で、海外でのビジネスに苦戦する日本企業の存在を知り、自らのノウハウを提供したいという思いが芽生える。2017年7月7日、企業の海外展開をサポートする(株)サザンクロスを設立した。 http://sc-southerncross.jp/ |