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Challenge+(チャレンジプラス)

コラム

海で遊び、学ぶ ~自然を感じて共に生きるということ~
便利さを極めながらも、自然と人との間に距離が生まれた現代社会。自然と共にあった生活が失われつつある今、海との触れ合いの中でより良い生き方を学び、人間力を育んでいく活動に取り組んでいるのが、(一社)海の学校である。創設メンバーの1人であり、プロサーファーとして幼少期から海で生きてきた堀口真平氏は、スポーツの枠組みを超えて、サーフィンと社会との接点をつくるべく奮闘している。同氏の活動と、「海に遊び、海に学び、海に生きる」という理念を発信していくコラム。

 

循環形ビジネスについて

最初に、自然の循環についてお話ししたいと思います。1番わかりやすいのは「水」です。海の水が蒸発して雲になり、雨となり、川となって生き物の喉を潤してから海へそそぐ―これは皆様ご存知ですね。このように水は循環しているものだからこそ、どこかでプラスの影響を与えれば回り回って水を飲む私たちに返ってきます。マイナスの影響についても同様です。地球の自浄作用があるとはいえ、自然界に無いもの、化学で産み出されるものは、自然界では長期にわたって残り続けるため、近年の人類の社会活動の排泄物は、地球にとっては重すぎる負担になっていると感じます。環境保全に対して「100点」で生きることは難しいですが、人類の在り方として、地球のきれいな水に感謝し、きちんと管理するような行動が、今必要とされているのではないでしょうか?

以前、私は「パプアニューギニアサーフィン観光大使」を務めておりました。パプアニューギニア政府は観光業を盛り上げたいと考える一方、隣国・インドネシアのバリ島などを見て「行き過ぎた観光業はゴミの山を生むだけだ。いくらお金を生もうと、あのようにはしたくない」という思いも持っていました。そこで、持続可能な観光業(サステナブルツーリズム)を掲げ、もともとある自然を生かし、かつ壊さず、高めるような方針を打ち出したのです。広大な海岸線を有するパプアニューギニアは素晴らしい波があるので、サーフィンも観光プロジェクトの1つとして選ばれました。そして、日本から私を含めた2名のプロサーファーが招待され、パプアニューギニアの波や自然、旅について撮影し人々にお伝えしました。波に乗るだけなら、自然は壊されず、旅人は喜びます。旅人が喜べば、宿も飲食店ももうかり、税金も取れます。何より良かったのは、「村に入れる人数を制限する」という政策でした。そうすることで、いろいろな物事がコントロールしやすい状態になり、ゴミ問題や仕事の取り合いなどが起こらず、皆が気持ちよく働ける環境ができていたと感じました。

重要なのは、何が大切なのかの順番を間違えないことと、そのために「欲」の上限を決めるということです。

お客さんを100人獲得すれば、そのぶんもうかるかもしれない。しかし、コントロールが利かず、汚れや乱れが生じ破滅に向かってしまう――それならきれいな状態を保ちながら20人のお客さんを招くほうが良い。それが、「最後の楽園」と言われるパプアニューギニアで学んだ考え方でした。利益の最大化よりも、持続可能なビジネスモデルづくり。海をきれいにすれば自然とお客さんが来る。こんな考え方が広まれば、地球も喜んでくれるかもしれませんね。

海と調和

サーファーの考え方をシンプルにすると、「波に乗りに、海へ行く」「楽しむために、自分の状態がより良くなるために、海へ行く」となります。もしそこで争い、波を取り合えば、たとえ良い波に乗れたとしてもメンタル的にはよろしくない状態になってしまうでしょう。これはハワイに住んで思ったことなのですが、ハワイアンの方々が波を譲ってくれる根本の心の持ち方、「人を高めることにより自分も高まる」という1つの極意がここにあると思います。ちょっと先の未来で気持ち良くいるために、今気持ち良くいた方が良い。だから、相手の波を取ったりせず、お互い気持ち良くサーフィンするのです。

サーフィンとは、海や波との調和です。自然と調和することで人の生き物としての深い部分が目覚めだし、深い喜びや感動を覚えるのです。私たちはさまざまな感情、喜怒哀楽があり生きています。そこに訴えるものはいろいろありますが、その中でも生き物の根源である「水」に触れることは重要です。現代社会で生きている人間にとって不足している水との触れ合いが、サーフィンにはあると感じます。

お金持ちの方も、何かの分野でチャンピオンになった方も、大人も子どもも、何のために生きているのかといえば、「楽しさ」や「幸せ」を感じるためだと思います。もちろんそこは十人十色ですが、必ずしも「お金があるから幸せ」とは言えないですし(もちろんあったほうが良いし、生きるうえでなくてはならないものと理解しておりますが)、お金のために生きるのではなく、その先のことに焦点を合わせるのが重要です。

話が長くなりましたが、サーフィンに置き換えるなら、「良い波に乗ったらもちろん楽しいし幸せだけど、人の波をぶん取ったり、気持ち良くサーフィンできない人よりも、平和に楽しくやる人のほうが、幸せの総量が大きいと思う」ということです。

気持ちよくその場を生きるためには、「調和」が必須です。地球規模で考えると、誰かがどうせゴミをポイ捨てするから、私はゴミ拾いしなくて良いや、ではなく、根本的に良い気持ちを持って行動する。

今、このコラムを読んでいる皆様にはぜひ、「誰もが楽しく」「幸せの総量」という考えを持ってビジネスに取り組んでいただきたいです。それが、持続可能な社会の実現につながると思います。きっと回り回って、自分も良い波に乗れるはずです!

堀口 真平 Shinpei Horiguchi
 
Professional surfer。1982年8月25日生まれ。和歌山出身、ハワイ在住。プロサーファーの父を持ち、幼少期からハワイでサーフィンを続け、試合や取材で世界各国を飛び回る。自身の経験や、サーフィンの素晴らしさを伝えるべく、ブランドイメージの向上や、より良いstyleの在り方を提案する自然派ビッグウェーブサーファー。これまでに数々のサーフィン雑誌の表紙を飾る。2018年に(一社)海の学校を設立。ハワイパイプラインで行われる「Da Hui Backdoor Shootout」 大会でチームジャパンのキャプテンも務め、今なおサーフィンの探求を続ける。
 
2000年 xcel pro(sunset beach Hawaii )7位
2001年 Hansen Energypro(pipe line Hawaii) 13位
レッドブルTaifu ビッグウェーブイベント参加
 

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