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コラム

編集部のおすすめスポット探訪記 Report:8 東京ワイナリー
訪れることでリフレッシュできる、あるいは仕事に生かせるヒントやアイデアが得られるスポットを紹介する連載企画。第8回となる今号では、練馬区大泉学園町に根差す「東京ワイナリー」をご紹介したい。同施設は、創業者の越後屋美和(えちごや・みわ)氏が大田市場で仲卸業を営む中、東京の新鮮な野菜や豊かな農地と出合い衝撃を受けたことをきっかけに、「東京にも素晴らしい農家の方々がいて、こんなにも美味しい野菜をつくっているのだということを多くの人に伝えたい。大好きなワインとのペアリングを通じて、同じ土地や空気、太陽を糧に育った食材同士の魅力を発信したい」という思いから、2014年に東京初のワイナリーとして創設された。大泉学園駅から徒歩10分という立地の良さもあり、東京都内はもちろん遠方から来店する客も多いのだとか。今回は都市型ワイナリーのパイオニアとして活動を続ける越後屋氏から、ワインづくりへのこだわりや生産されるワインの特長、将来のビジョンなどについてうかがった。

 
――「東京ワイナリー」さんを運営されるうえで、どのようなテーマを掲げられていますか?
 
越後屋 「その土地の素材をそのまま生かす」というテーマを大切にしています。例えば、野菜は調理すればおいしいのはもちろんですが、そのままの状態であれば素材本来の味わいが存分に楽しめますよね。それは、ワインにおいても同様なんです。私は、一つひとつの作業にかける手間を惜しまないことはもちろん、ブドウにはできる限り手を加えず、飲んだ時にそのブドウが育った土地の風景が浮かぶような、その土地らしい魅力が感じられるワインづくりを心がけています。そうして体にすっと染み込んでいく、日々の生活に気軽に取り入れられるワインをつくりたいと思っているんです。
 
――「東京ワイナリー」さんならではのワインの製造方法や特徴について、ぜひおうかがいしたいです。
 
越後屋 一番のこだわりは、何といってもたくさんのボランティアの方々と共に、一緒に協力し合ってワインをつくり上げるということです。また、機械を使用せず、完全に手作業でつくるという点も大きなこだわりですね。持ってきたそのままの状態のブドウを、人の手でゆっくりと時間をかけてつぶしたり絞ったりすることで、機械で作業を行うよりもやわらかく、複雑で奥深い味わいに仕上がるんですよ。
 
——人の手だからこそ出る味わいがあるのですね。
 
越後屋 はい。当ワイナリーのワインは主に「濁りワイン」や「生ワイン」と呼ばれるもので、無ろ過・無清澄が特長です。フィルターによるろ過をかけず、自然の酵母菌を生かして発酵させています。そうすることでろ過によって取り除かれてしまう、ブドウ本来の皮のうま味や良い苦みが残った味わいに仕上がるんです。現在は練馬を中心とした東京都内で採れたブドウをはじめ、北海道や長野、山形など全国各地で採れたブドウを、信頼する生産者の方から仕入れ、約100種類のワインを生産しています。時期によって販売する種類が違うので、年間を通して常に異なる産地で採れたブドウのワインをご堪能いただけるんですよ。
 
——地域やボランティアの方々と交流をしながらワインづくりをする際には、どのような点を大事にされていますか?
 
越後屋 私はこのワイナリーを運営し、ワインをつくるうえで何よりも「人」との関わりを大切にしています。畑作業や醸造作業に関しては、基本的にSNSから、収穫時期に合わせて不定期で募集を行っています。おかげさまで、お子様連れやご近所の方、中には地方から偶然出張でいらした方まで、幅広い年齢層の方が興味を持ってお越しくださるんです。ワインを嗜む方はもちろん、醸造や発酵、ものづくりに興味のある方など、目的もさまざま。醸造も畑作業も、協力してくださるたくさんの方々とのご縁があるからこそ成り立っています。1人ではできないことを、周囲の方々が支えてくれて―私にとっては、本当に仲間のような存在です。
 
——土日祝日には、ワインと一緒に多彩な料理を楽しめるランチ&昼呑み営業をされているとか。
 
越後屋 はい。「野菜に合うワイン」というコンセプトのもと、練馬を中心に都内で採れた野菜をなるべくそのまま使用しています。ガレットやサンドイッチ、各種おつまみ盛り合わせといった、季節ごとに旬の野菜が楽しめるメニューをご用意しているんです。例えば夏には枝豆やトウモロコシなどの野菜を、採れたてで新鮮な状態のままお楽しみいただけます。9月頃は皮のやわらかい地元のイチジクを生ハム巻きにしてご提供していて、それが「高尾」という品種でつくられた優しい味わいのワインなどととても相性が良いんです。
 
——その他に、9月頃に展開される限定イベントや商品、メニューなどがありましたら、ぜひ教えてください
 
越後屋 9月はちょうど収穫の時期なので、収穫イベントなどを開催しています。人数を限定しての開催にはなってしまいますが、畑の様子を見るには絶好の時期なので、ぜひお越しいただけると嬉しいですね。また、ワイナリーのほうでは、タイミングが合えば「赤ちゃんワイン」という商品をお出ししています。赤ちゃんワインは発酵途中で、アルコールが出始めた頃合いの新鮮なワインのこと。すっきりとした甘みがありつつ、ジュースのような感覚で飲めるので、アルコールが苦手な方にも大変人気なんですよ。
 
——会社の経営とワインづくり、二足のわらじで大変なことも多いと思います。
 
越後屋 ブドウの栽培にしてもワインの醸造にしても、すべて自然相手のものなので予期せぬ事態に対処しながらの作業になってしまいます。逆に言うとそれが大きな魅力であり、やりがいになっていますね。移り変わる天気に合わせて収穫時期を調整するなど、日々試行錯誤をするおもしろさがあります。また、自分自身がやりたいことを常に発信することで、いろいろな方とのご縁をつなげていきながら1歩ずつ挑戦を続ける姿勢も大事にしています。
 
——今後は、どのような展望や目標を思い描かれていますか?
 
越後屋 「東京ワイナリー」が、この練馬という地で末永く愛されるものであってほしいという願いがあります。最終的には、会社で1つの大きな農地を持つことで地域の農地を守りながら、その横で販売場ができたらいいなと思っています。そして自社の畑で練馬ならではのブドウをつくり、それが私の代から引き継がれていっても、次の代、また次の代と残っていってくれたら幸せです。その願いを実現するために、今後も「日常に寄り添うワイン」「気軽に飲めるワイン」をつくり続けます。そしていつまでも、醸造や収穫の工程を多くの方に体験してもらい、つくり手の思いを感じていただけるような施設でありたいですね。
 

 
 

取材・文:木村 祐亮
写真:坂本 隼
画像提供:東京ワイナリー

 

Focus!
越後屋氏は、地域の農家や料理店と連携し、練馬の魅力を発信していく「ねりまワインプロジェクト」も展開。3ヶ月に1度の周期で、ブドウの新芽摘みやワインのお披露目会など、皆で農作業や醸造作業を行ったり、完成したワインや収穫した野菜を味わったりすることで、その食材・土地が身近に感じられるイベントを開催している。誰でも参加可能で、イベントの詳細は定期的にHPやSNSで発信。その活動が認められ、複数の賞を受賞している。

代表
越後屋 美和
 
1976年生まれ、神奈川県横浜市出身。玉川大学農学部卒業後、大田市場で野菜の仲卸の仕事に就く。そこで練馬産キャベツの甘さに驚き、「高尾」のブドウに魅了されたことで一念発起。2年間の修業を経て、2014年9月、練馬区大泉学園町に「東京ワイナリー」を設立した。
 
東京ワイナリー
【所在地】 〒178-0061 東京都練馬区大泉学園町2-8-7
【アクセス】大泉学園駅より徒歩10分
【営業時間】11:00~17:00
【定休日】水曜日
【URL】 https://www.wine.tokyo.jp/

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