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Challenge+(チャレンジプラス)

コラム

海で遊び、学ぶ ~自然を感じて共に生きるということ~
便利さを極めながらも、自然と人との間に距離が生まれた現代社会。自然と共にあった生活が失われつつある今、海との触れ合いの中でより良い生き方を学び、人間力を育んでいく活動に取り組んでいるのが、(一社)海の学校である。創設メンバーの1人であり、プロサーファーとして幼少期から海で生きてきた堀口真平氏は、スポーツの枠組みを超えて、サーフィンと社会との接点をつくるべく奮闘している。同氏の活動と、「海に遊び、海に学び、海に生きる」という理念を発信していくコラム。

波に乗るということ

まず「波に乗る」ということについてお話しします。

波というのはエネルギーです。そのエネルギーを捕まえ、乗って楽しむのがサーフィンなのですが、波を捕まえるのはなかなか難しい。いかに良いライディングができるかは、波を捉える作業、『テイクオフ』にかかっていると言っても過言ではありません。また、波を捉えるという作業を細分化すると、とても深く、内容の濃いものになります。

うねりのエネルギーの合わさるところと逃げるところ。波がせり立つ場所と緩む場所。パッと見ただけではなかなかわかりませんが、重要なのは「エネルギーの集まるところを見極める」ということです。まずはその場所に居ること。そして、エネルギーの動き、方向やスピード、タイミングなどに的確に合わせるということ。もしあなたがその場所とタイミングが見え、エネルギーの動きを予測できれば、波に乗ることはそんなに難しくないかもしれません!

この方程式をどのようにビジネスに置き換えていくかを、今回は一緒に考えていきましょう。

何事も始まりが肝要

良いタイミングで波に乗り始められると、その後の作業が断然やりやすくなります。やりやすい、というのは、失敗する可能性が低いとも言えますよね。良い状態で波をキャッチし、ライディングを始める。これはとても大切なことで、私の父(元プロ、69歳、2024年現在現役サーファー)ともよく話をするのですが、父は常々「テイクオフがすべてだ」と言っています。それがないと、その後もない、ということです。「まず波に乗る。ライディング内容はその後だ」と。極端な話かもしれませんが、初めが肝心ということですね。

良いライディングに危険は無いです。きれいに乗って、プルアウト(ライディングをきれいにやめること)ができれば楽しいサーフィンですが、波を食らったり、ライディング中に転ぶと危険が生じます。良いポジションから波に挑戦する、ということが大切になってきますね。そのタイミングで乗ったからこそできることもあります。良い波を良いところから捉えて、ライディングを始める。そうすれば最大限エネルギーを生かした内容に持っていける可能性が高くなるということです。

海を知り、波を知り、そして己を知る

リスクマネジメントはとても大切なことで、特に大きい波の日に海に入る時には必須の要素です。どうやって入って、どこからどの波にどのようなラインで乗るか、そしてどうやって海から上がってくるか。そこまで考えて、初めてその日の海に入る資格を持つと私は思います。なぜなら、出口戦略の無いビッグウェーブサーフィンは危険だからです。

若い時は根性試しだとか“ノリ”で通用するレベルの海にしか入っていないため、何とかなることもあるでしょう。しかし、それは運が良かったり、海のレベルが低かったりして助かっているだけで、本当の大きな波の日には命の危険があり、一発アウトになります。そうならないためにもリスクを知り、波を食らう可能性を最小限に抑え、かつ良い波に乗るチャンスは逃さない準備と心構えが基本であり重要なのです。

大きな波に乗れるということは、心構えができているということだと思います。その波が来た時に最大限に自分の力を発揮させ“ALL IN”できるかどうか。その日、その瞬間まで積み上げてきた自分自身の感覚、そしてその波に対しての今のポジションとタイミングを信じて、全力でその時に必要なことができるかどうかが成功の鍵です。

ここで1つ、注意点があります。それは「迷い」です。迷いとは、そこに自分の全精力を注げていない状態です。そんな状態では大事を成すことはできません。私は、何事も迷った時はすぐにやめるように心がけています。一瞬の判断が生死を分ける状況で迷いが生じると非常に危険です。ビジネスにおいても、自分の中に迷いがあるならやめましょう。自分自身を信じられるまで準備をして、物事(私にとっては波や海)を自分が納得するまで観察し、良い波が来るまで待つのです。

待ちに待ったその日が来た時には、120%仕上がった状態で挑んで、確実に乗れるくらいの自信とやる気で行けば、間違いなく良い波に乗れるでしょう。しっかりとした心構えができている時は、不思議とケガをするリスクも抑えられるものです。良い状態で挑めば良い結果がついてくる――そんなサイクルを日頃の生活にも取り入れていきたいですね。

ハイリスク・ハイリターン

ビッグウェーブに乗るということ自体がハイリスクであることは間違いありません。しかし、リスクを恐れてやめるべきかと聞かれれば、答えは「ノー」です。そこで得るものが大きいからこそ、挑戦することに意味があり、自分自身を磨くことにつながります。人が生きる喜びの中の1つに“自分磨き”があると私は考えています。これは何のスポーツ・ビジネスでも共通することでしょう。その「道」を極限まで突き詰めることで、自分自身とその活動の限界が見えてきます。その壁を少しでも超えることで“自身への挑戦”と“達成”という喜びが生まれ、その過程で学べることを含め“そこでしか得られないもの”になるのです。

サーファーの間ではよく「やればわかるさ」という言葉が交わされます。これは本当にそうだと思います。1本の波に乗ったことで人生が大きく変わるなんてこともあります。あの時あの波に乗っていなかったら、今の私はいないだろう――小説のような話ですが、例えば普段は波の流れが見えないように、注意深く観察し続ければ、大切な物事というのはすぐそばにあるのかもしれませんね。

堀口 真平 Shinpei Horiguchi
 
Professional surfer。1982年8月25日生まれ。和歌山出身、ハワイ在住。プロサーファーの父を持ち、幼少期からハワイでサーフィンを続け、試合や取材で世界各国を飛び回る。自身の経験や、サーフィンの素晴らしさを伝えるべく、ブランドイメージの向上や、より良いstyleの在り方を提案する自然派ビッグウェーブサーファー。これまでに数々のサーフィン雑誌の表紙を飾る。2018年に(一社)海の学校を設立。ハワイパイプラインで行われる「Da Hui Backdoor Shootout」 大会でチームジャパンのキャプテンも務め、今なおサーフィンの探求を続ける。
 
2000年 xcel pro(sunset beach Hawaii )7位
2001年 Hansen Energypro(pipe line Hawaii) 13位
レッドブルTaifu ビッグウェーブイベント参加
 

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