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コラム

編集部のおすすめスポット探訪記 Report:7 セイコーミュージアム 銀座
訪れることでリフレッシュできる、あるいは仕事に生かせるヒントやアイデアが得られるスポットを紹介する連載企画。第7回となる今号では、「セイコーミュージアム 銀座」をご紹介したい。「セイコー」の歴史や創業者・服部金太郎氏の足跡、時計の進化の歴史を伝える同施設の前身は、創業100周年記念として1981年に東京都墨田区太平の工場・精工舎内に設立された「セイコー時計資料館」。当初は時間や時計に関する資料を所蔵する研究者のための施設だったが、その後、2012年に「セイコーミュージアム」へと名前を変え、一般にも公開されるようになった。2020年には金太郎氏の生誕の地、かつ創業の地である銀座へと移転。東京メトロ・銀座駅から徒歩1分というアクセスの良さもあり、外国人観光客、子ども連れと、時計好きに限らず幅広い層が来館するという。同施設の魅力や創業者の人物像、「セイコー」の歴史について、広報担当の宮寺昇氏にお話をうかがった。

 
――まずは「セイコーミュージアム 銀座」様で見られる展示について、概要をお教えください。
 
宮寺 当館では、「セイコー」の歴史や創業者・服部金太郎の足跡、時計の進化の経緯をご紹介しています。地下1階「極限の時間」、1階「はじまりの時間」、2階「常に時代の一歩先を行く」、3階「自然が伝える時間から人がつくる時間」、4階「精巧な時間」、5階「いろいろな時間」、6階「グランドセイコーミュージアム」と、各フロアにコンセプトがあり、それぞれのコンセプトに沿って空間をデザインしているんです。各階ごとに雰囲気がまったく異なるので、常に新鮮な気持ちで展示を楽しんでいただけますよ。
 
――貴社に関してだけではなく、時計そのものの歴史についても知ることができるのですね。
 
宮寺 ええ。時計自体のおもしろさを伝えることも当館の役割なんです。3階では日時計や線香時計など自然の性質を利用した時計や、世界最古の機械式時計と同じ仕組みの鉄枠塔時計、懐中時計などを展示し、時計の進化の変遷がわかるようにしています。また、日本で独自に発展を遂げた和時計もご覧いただけますよ。
 
――非常に興味深いです。「常に時代の一歩先を行く」と題された2階は、創業者・服部金太郎氏の足跡を伝えるフロアとなっています。金太郎氏は時計の国産化を目指して1892年に精工舎を立ち上げ、日本の時計産業の近代化をけん引した人物です。後に「東洋の時計王」と呼ばれるほどの事業的成功を収めますが、宮寺様の目に、金太郎氏はどのような人物として映りますか?
 
宮寺 服部金太郎は、先見性と時計への飽くなき情熱を持った人物だと思います。1913年に「セイコー」から販売された国内初の腕時計「ローレル」が、その象徴だと私は考えているんです。当時、腕時計は一般には広まっておらず、一部の軍人がその存在を知っているのみでした。その中にあって金太郎は「近い将来、日本にも必ず腕時計の時代が来る」と予見して、いち早く腕時計の開発に取り組み、「ローレル」を生み出したんです。誰もやっていなかったことを目標に定め、一心に技術を高めてそれを実現してしまう。金太郎の時代を読む洞察力と強靭な意志の力には感服してしまいますね。2階では「ローレル」など当時の製品に加え、金太郎が残した言葉をパネルにして展示し、足跡や経営者としての精神を伝えています。経営者やビジネスパーソンの方々にとっては仕事に生かせるヒントが見つかるフロアかもしれません。
 
――2階の展示品からは、「常に時代の一歩先を行く」金太郎氏の精神や時計に懸ける情熱がよく伝わってきました。また、貴社は日本初だけではなく、“世界初”の腕時計も生み出していますよね。
 
宮寺 はい。「セイコー」は1969年に世界初のクオーツ腕時計「クオーツアストロン」を発売しました。クオーツ時計とは電圧を加えると規則的に振動する水晶の特長を利用した製品で、機械式の時計よりはるかに精度が高いんです。1959年当時の「セイコー」のクオーツ時計は大型ロッカーほどの大きさでした。そこから小型化・実用化を進め、1969年に世界初のクオーツウオッチ「クオーツアストロン」を世に送り出したんです。その後、この開発で得た特許を公開したことで、クオーツ腕時計の技術は世界に広まり、正確な時計を誰もが手頃な価格で手に入れられるようになりました。また、水晶を用いたこの技術はパソコンやスマートフォン、自動車など幅広い産業で活用されているんですよ。
 
――貴社の生み出した技術が、産業全体の発展に大きく寄与したのですね。「ローレル」「クオーツアストロン」と並んで2014年に機械遺産に認定された「初代グランドセイコー」についても教えていただけますか?
 
宮寺 1960年に販売された「初代グランドセイコー」は、世界レベルの精度基準に準拠してつくられた初めての国産腕時計です。「世界に通用する高精度な腕時計を生み出す」という志のもと誕生したブランド「グランドセイコー」は、正確さ・美しさ・見やすさといった時計の本質を高いレベルで追究し続けてきました。2024年4月に、6階にオープンした「グランドセイコーミュージアム」では、「初代グランドセイコー」をはじめ、歴史的なモデルや貴重なモデルを約100点展示し、ブランドの進化の歴史をご紹介しているんです。「グランドセイコー」の腕時計からは、「匠」とも言うべき日本の時計職人の高い技術や、四季折々の自然を愛する日本人の美意識・精神性が伝わると思います。そういった「グランドセイコー」ならではの魅力をぜひ、感じていただきたいです。
 
――私も拝見しましたが、美しい時計の数々に目を奪われました。実現に高い技術を要する凝った意匠や製品から感じられる「風格」はスマートウオッチにはないものですよね。
 
宮寺 そうですね。私は、アナログウオッチには情緒的な価値があると思っています。身に着ける人にとって、腕時計は体の一部のような存在です。それほど近い距離で人生の苦楽を共にするのが腕時計なんです。修理をしながら長年身に着け、共に時を重ねていくとそのぶん、腕時計に対する思い入れも深くなります。腕時計は時刻を確認するためだけの「道具」ではない、不思議なプロダクトなんです。
 
――実際におうかがいして、貴館はそのような腕時計の魅力、あるいは時計のおもしろさに気付くきっかけになる施設だと感じました。
 
宮寺 ありがとうございます。私たちは今後も創業の地・銀座で、時計の歴史、時計産業の発展をけん引してきた「セイコー」の努力・奮闘の歴史を発信してまいります。そうすることで、時計や腕時計というものの真の価値を皆様にお伝えできれば幸いです。
 

 
 

取材・文:坪井 萌子
写真:坂本 隼

 

Focus!
「セイコーミュージアム 銀座」では、「ローレル(写真左)」、「初代グランドセイコー」、「クオーツアストロン(写真右)」など、「セイコー」が生み出した歴史的モデルの実物を展示。展示品にレプリカはほぼなく、当時使用・販売された「本物」の時計が展示されている。1500年頃の機械式時計から、近年発売された「グランドセイコー」まで、豊富な展示品をそろえながら入館料は無料。重厚な時計の歴史に気軽に触れられる点も当施設の大きな魅力だ。
 
 
 
広報担当
宮寺 昇
 
慶應義塾大学卒。1984年服部セイコー(現セイコーグループ)に入社以来、主に商品企画業務に携わる。香港、パリ、ロンドンの海外事務所に駐在し海外の腕時計クリエーション業務に関わった後、デザイン部を経て、海外広報業務に従事。2018年から「セイコーミュージアム 銀座」勤務。
 
セイコーミュージアム 銀座
【所在地】〒104-0061 東京都中央区銀座4-3-13 セイコー並木通りビル
【営業時間・入館料】10:30~18:00 / 無料
【定休日】月曜日・年末年始
【URL】 https://museum.seiko.co.jp/

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