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コラム

海外ビジネスの指南役! 小田切社長の連載コラム.24

「海外展開を進めていくうえで、特に現地の人の気質やものの考え方が知りたい」。そんな声にお応えして、海外ビジネスの経験を豊富に持つ(株)サザンクロスの小田切社長が、世界各国の国民性を解説!より良い人間関係を構築することは、ビジネスの大きな成果へとつながるはずです。第24回は、海外の国々における代表的なビジネス習慣や商慣習について、オーストラリア編をご紹介します。

皆様、こんにちは。(株)サザンクロスの小田切武弘です。 本誌の2020年9月号から、海外でビジネスを進める際の現地ローカルスタッフへの接し方や、仕事の依頼の仕方、スムーズなコミュニケーションの取り方などにフォーカスしたコラムを連載し、前回のシリーズでは皆様から特にご要望が多かったタイ国関連のコラムから、韓国、米国、中国、インド、ロシア、アラブ諸国と連載を続けてまいりました。

前号では、海外の国々における代表的なビジネス習慣・商習慣について米国編を執筆しました。今号ではオーストラリアについて述べてまいります。さらに今後は、シンガポール、中国、韓国、インド、タイ、UAE、トルコ、ドイツ、ロシアを今のところ予定しています(ご要望の国がありましたら、可能な限りお応えいたします)。

①効率的で速い意思決定

オーストラリアの企業では、他社とビジネスミーティングを行う際、決めるべき内容や案件について裁量を持っている人が、直接その場で速やかに決定を下していく場合が多いです。したがってほとんどの日本企業のように、いったん会社に持ち帰って上司などの判断を仰ぎ、後日あらためて連絡するというやり方を取ると、その新規ビジネスが成立しなくなる可能性が高くなります。オーストラリアでは、米国や中国、日本のようにどの業種でも世界的な大企業が存在せず、売上高利益率を伴う堅実な企業経営が求められるため、ビジネスチャンスを逃さずに、迅速で効果的な決定力と行動力が必然的に重視されるのです。

②明確な職務分担と責任範囲

欧米やシンガポールなどの企業では、明確で緻密な職務範囲記述書(Job description)と職務権限範囲(Scope of authority)が決められ、会社のトップから一般社員までがそれにのっとり、日々の業務を行っています。それは、オーストラリアにおいても同様です。だからこそ①で述べたように、対社外ミーティングの場合はその内容決定にふさわしい担当者が出席する場合が多いのです。

また、どのスタッフも自身の業務範囲と職務責任範囲を明確にしており、それを超える部分が出てくる場合には、自分の仕事ではないと主張することもあります。日本のビジネスパーソンからするともっと臨機応変に対応してほしいと思いがちですが、実は欧米の先進国からすると白黒を明確化することは当然で、日本のような考え方をすることの方が理解に苦しむと思われてしまいます(どちらが良いか悪いかの議論ではありません)。

③利益最優先で考え判断する

オーストラリアの場合、どのような業種、企業であっても社内会議をする目的は明確です。利益を最優先し、各部署の課題に向き合うことを強く意識して会議を進めていきます。実際に筆者が同席したいくつかの案件では、中・長期的な利益と短期的な利益を明確に分けて議論を進めていくことが良く理解できました。

④ロジカル重視の社内会議

オーストラリアの客先ミーティングでは、初めて会う相手であれば最初は名字で呼び合いますが、すぐにお互いをファーストネームで呼び、大変フレンドリーな雰囲気をつくることから始めます。社内会議であっても、上司や会社のトップに対してもファーストネームかニックネームで呼び合っています。反対に、上司や会社のトップも部下に対して平等、対等というスタンスで接しています。これは欧米でも同様ですが、感覚的には欧米以上かもしれません。また、社内会議では、皆が口に出して主張し合い、ロジカルに問題点を克服したり、新たなチャレンジのための議論を行います。しっかりと利益予測が立てられるような議論に関しては、認められることが多いです。

それに順調に仕事ができるようになると、優秀な社員はステップアップとして転職をしていくため、人の出入りも頻繁です。オーストラリアには終身雇用や年功序列といった慣習がないので、社員も自分が稼ぐ方法を常に考え、ある程度短期的な視点で業務を成功させようと考えています。

⑤顧客との食事会について

オーストラリアのビジネス習慣として、顧客との食事会や飲み会はほぼありません。これは、オーストラリアでは賄賂にあたるためです。たとえ商談成立後に食事会をする場合でも、先方との間で割り勘になります。日本のように、会食や接待を経費で落とすことができない仕組みにもなっています。また、値が張るお土産なども多くの場合、賄賂として認定されてしまいます。このあたりは同じ先進国との比較の中でもオーストラリア独自のシステムです。

⑥好ましくない言動や行為

社内・社外問わず、オーストラリアのビジネスミーティングでは、年齢や学歴、所有資格などを相手に聞いたり、自分から過度なアピールをしたりすることは、慎むことが肝心です。これは④で触れたように、お互いをリスペクトして対等に向き合うことから大きく逸脱する可能性が高いためです。また、日本やドイツと同様に、時間厳守が当たり前です。特に客先ミーティングに遅れることは、よほどの緊急な理由がなければ相当ネガティブに捉えられてしまいます。交通渋滞などの理由も同じく、後ろ向きな印象を与えてしまうでしょう。

⑦食料自給率の高さについて

オーストラリアの食料自給率は、毎年世界1位から2位を維持しています。ちなみに2020年の農林水産省のデータによると1位はカナダで(カロリーベース221 / 生産額ベース124)2位はオーストラリア(173 / 110)、重量別(砂糖類362%、小麦226%、なたね229%、牛肉251%)、3位はアメリカ(115 / 92)。日本は(38 / 58)で先進国中最下位です。*1
また1人あたりのGDPを見ると、2022年ではオーストラリアが$52,265。日本は円安の影響もありますが、$34,064でG7中最下位です。日本人は欧米の経済や企業動向には注目しますが、意外と注目されないオーストラリアの底力は相当なものと思ってよいでしょう。

⑧日系企業・有名企業

外務省海外進出日系企業拠点調査によると、2022年10月時点で846社の日系企業の拠点がオーストラリア全土にあり、日本人駐在員数は94,942人となっています。航空会社ではQantas航空や、その子会社であるJETSTARが知られています。また小売のWoolworths Groupや資源のBHP、金融のWestpac、通信のTelstraなども世界的に有名な企業です。これらの企業は給与水準が高く、年間休日数も120日以上あります。

いかがでしたでしょうか。コロナ禍を境に、円安、金価格高騰、中国経済発展の急減速、中東の政治不安など、世界各国の状況が著しく変化しています。この状況下では、人材の確保と教育、育成が最重要課題となります。会社の経営や方針、方向性もここで根底から見直しを図ることが急務です。海外案件だけではなく、国内営業や人事管理処遇についても効果的な見直しを図るよいタイミングなので、ご検討されていらっしゃる場合、あるいはご希望の企業・団体様がいらっしゃる場合には、引き続き当社ホームページのお問い合わせ欄よりご希望をお聞かせください。

次回はシンガポールのビジネス習慣、商慣習についてお伝えしていきます。どうぞお楽しみに。

参照:*1農林水産省2020年世界の食糧需給の動向
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/attach/pdf/adviserr3-5.pdf)

■プロフィール
株式会社 サザンクロス
代表取締役社長 小田切 武弘

海外志向が強く、学生時代に海外留学を経験。学業修了後は、大手電気機器メーカーや飲料・食品メーカー、総合商社など数社にわたって、米国、インド、韓国、東南アジアといった諸外国に駐在。その中で、海外でのビジネスに苦戦する日本企業の存在を知り、自らのノウハウを提供したいという思いが芽生える。2017年7月7日、企業の海外展開をサポートする(株)サザンクロスを設立した。
 
http://sc-southerncross.jp/

 
 

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