コラム
「道」としてのサーフィン
はじめまして。(一社)海の学校(ウミガク)の初代校長、堀口真平です!このたび、『COMPANY TANK』さんにてコラム連載の機会を頂戴したこと、感謝いたします。当コラムでは、経営者の方や子育て中の方に、私の活動やその背景にある思いをお伝えしていきたいと考えております。第1回目は、私の根本にある「サーフィン道」と、「ウミガク」を始めた経緯についてお話しいたします。
さて、私は幼少期から父の影響で海と関わり生活してきました。そのやってきたこととは「サーフィン」です。近頃ではオリンピック種目に選ばれ、脚光を浴びる機会も増えましたが、私が子どもの頃はサーフィンを一生懸命やっていると、近くのおばちゃんたちに「また遊びにいくのかえ?」と笑顔で言われたことをよく覚えています。
また思春期になると「サーフィンをやっていて良いのかな?勉強は?仕事は?」と思い悩んだ時もありましたが、大人になった今は、とにかくサーフィンをやっていて良かったと思います。なぜなら、私はサーフィンのおかげで、多くを学ぶことができたからです。柔道や茶道、剣道など、さまざまな「道」がありますが、私にとってはサーフィンこそが「道」であり、学びの場であり、生きる道なのです。
「道」――そこからはたくさんのことを学べます。人としての在り方や、自らの行いにより自分自身を磨き、鍛え上げる術。その過程で感じたり学んだりしたことも、人が生きていく上で大切な能力を与えてくれます。
例えば、「良い波に乗る」ということを分析してみましょう。はるか遠くから来る波の気配を感じたり、その波の動きを予測したりして、良い波に乗る。自然の動きを読み取り、自分自身を的確な場所に置き、的確なアプローチでテイクオフする――簡単に言えば、「必要な時に必要なことをする」ということです。では、その必要なこととは何か。まずはそれを理解することが大切ですよね。何をして良いかわからないと、どちらに進んで良いのかも、動くべきか動かないべきかもわかりません。
人間社会で「良い波に乗る」というと、ビジネスに成功したり、人とうまく付き合ったり、人に優しくしたり、されたり。そういうことを思い浮かべる方が多いでしょう。海でも同じで、横にいる人に波を譲った時には、その人は笑顔で沖に帰ってきて「次はあなたね」という雰囲気を出してくれます。逆に、人のライディングの邪魔をしてしまった時には、変な目で見られたり、空気が悪くなったりします。
必要なことを見極め、的確に行う。そして、チャンスを見つけてそれに乗る!――サーフィンも仕事も、根本原理は同じように感じますね。一寸先を見極めるためのセンスを磨くこと、そして自然と仲良く、上手に生きていくことができれば、理想的な生き方になるのではないかと思います。
「ウミガク」について
私は、サーフィンを「競技」としてだけでなく、先ほどお話しした「道」として多くの方に知っていただきたいと思い、2006年に当時のサーフィン仲間だった桜井正夫と佐久間洋之介と3人で、この「海の学校」を始めました。2018年3月には一般社団法人となり、神奈川県平塚市を中心に全国各地でイベントを開催できるようになっていきました。右も左もわからない状態から、多くのご賛同者のご協力をいただきながら一歩ずつ前進し、ここまで続けることができたと思います。
「ウミガク」では、サーフィンや、ひいては生きること自体が、自然・海と共にあることであるという理念に基づき、「生態系と環境保全」「海の危険教育(安全管理スキル育成)」「マリンスポーツ振興」「人間力とコミュニティ」の4つを柱としたさまざまなアクティビティを行います。例えばビーチクリーン活動では海洋ゴミがどこから来るのかを学びつつ、環境と共に生きる心を育んだり、救急救命体験では海況や気象の連動パターンを学びながら、災害時に役立つ危機管理の力を育んだり。もちろん、サーフィンを中心に実際にマリンスポーツの楽しさを体験することもできます。それらの活動を通して、時に危険と隣り合わせになる自然の中で、同じ体験を分かち合い助け合うことの大切さや、人間力を育んでいきたいと考えているのです。
私たちがサーフィンを始めた頃と今とでは、サーフィンを取り巻く環境は大きく様変わりしました。当時はスポーツとしての認知もそれほど高くありませんでしたが、2020年に東京オリンピックの正式種目に選ばれたことで、今では注目を集める競技になったと感じます。ただ、今後さらにサーフィンを進化させていくには、「競技」や「勝ち負け」という枠組みを超えて、社会・人・生活の役に立つ存在になっていく必要があります。試合の勝ち負けではなく、サーフィンの素晴らしさによって仕事が生まれていく世の中を目指して、着実に歩んでいきたいです。