コラム
キャンプやサバイバルに関するアウトドアスクールを主催しているイナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。海水からつくった真水で水分を補給する人間にとって、まさしく海は「生命の源」だ。近年、地球温暖化によって海面上昇するなど海の環境も変化している。マリンレジャーのシーズンを迎えた今だからこそ、あらためて海と人間の関係について考えたい。
◎変わることのない海の偉大さ
今年も海水浴やダイビングや釣りなど、海や川など水辺のレジャーを楽しむのに最適の時季となった。そこで今回は、あらためて海について書いてみたいと思う。
地球の表面のおよそ7割は海である。その中で水深200mよりも深い部分を「深海」としているが、水深の平均は3800mなので、海の大半が深海ということになる。魚介類を食し、海水からつくった真水で水分を補給する人間にとって、言うまでもなく、海は生活を支える重要な存在である。
しかし、人間は水中では生きられない。胎児の時は胎盤と臍帯を通じて母体とつながり、酸素や二酸化炭素のガス交換や栄養の摂取、老廃物の排せつなどを行うのに、一度外の世界に触れた瞬間から肺呼吸に変わる。これは本当に不思議なことだ。時折、私はふとこんなふうに思う。われわれ人間が海で生活できないのは、神様が環境を壊させないようにしたからではないのか、と。実際のところ、地上では古来より人間と動物の縄張り争いのようなことが続いているが、海ではそうした事態はほとんど起きていない。それは前述したように、人間が海中で生活できないからであろう。
◎変化を繰り返してきた海の状態
地球が誕生してから約46億年が経過したが、最初から今の形で海が存在したわけではない。初期の頃は現在のような海ではなく、岩石が溶けたマグマに近い状態だったと推測されている。それから2億年ほどの間に地球が冷めて海が誕生したというのが定説だ。しかしその後も、そうした状態が保たれていたわけではない。微惑星などの衝突もあり、海がなくなったり現れたりを繰り返し、安定した状態となったのは38億年前だとされている。その頃に最初の生物が誕生し、近年では人類の起源は30万年前だという説が濃厚だ。
いずれにせよ、地球の歴史からするとつい最近のことだと言えるだろう。地球46億年の歴史をカレンダーで例えることがあるが、それでいうと地球誕生を1月1日とした場合、人類の祖先が地球上に現れたのは12月31日とのこと。この例えからも、人類の歴史が本当に短いということが理解できるはずだ。
◎想像を絶するほど過酷な深海の環境
水の中で暮らすことができない生物である人類だが、昔から深海への飽くなき挑戦を続けてきた。有人潜水艇で海の最深地点を探査する試みとしては、マリアナ海溝(日本の南、フィリピンの東に位置する太平洋にある)で1万927mまで下降したという記録がある。世界で最も高い山であるエベレストが海抜8849mであるから、その深さがどれほどのものかおわかりいただけるだろう。
そして装備などの面からも、その地点に到達するのは山に登るよりもはるかに難しいと私は考えている。もちろん高山を登る場合も、気圧が低くなることによって酸素の供給が必要になるし、極寒の中で体温を保持するための措置も必要だ。しかしそれと比べても、水深1万mとなると、水圧が1000Kg/㎠という想像を絶するほど過酷な環境なのである。その中で生きていける深海生物は本当にすごいと思うし、そうした環境で生まれ育つことで、どんな環境にも適応していけるという生命の神秘にも驚かされるばかりだ。
◎温度に関する深海とエベレストの比較
太陽の光がほとんど届かない深海は、宇宙と同様に真っ暗な世界だ。太陽など恒星からの光が当たっている部分はまだ明るいが、太陽が隠れている夜などは気温が上がりにくい。冬にキャンプをしている際などに日が差した時は温かくなり、日の光のありがたさを感じる経験をした方も多いだろう。そんな時は太陽から熱エネルギーを受け取っているのだと実感する。
では一方で、海水の温度はどのくらいなのだろうか?太陽の光が届いている海面は、その熱を受けて一定の温度を保っている。ダイビングをしたことのある方はおわかりだと思うが、海は深くなるにつれて水温が下がっていく。では、そのままどんどん水温が下がり、深海は凍った状態なのかというとそんなことはない。深海帯では水温はほとんど変化せず、水深3000m以深では水温は1.5℃程度で一定になるのだ。他方、エベレストの頂上付近はマイナス25~35℃になるので、温度だけで比較すると海のほうがはるかに穏やかな環境であると言えるだろう。
◎海からの真水の供給と自然の循環
先述したようにわれわれ人間にとって水は必要不可欠なものだ。海水が蒸発→雲→地表に雨→樹木や土に潤い→川になって海に流れ着き、再び蒸発する――このようなサイクルをこの先いつまで保つことができるのだろうか?
地球温暖化が叫ばれている昨今、サンゴ礁にいる海洋生物もまた変化をしている。確かに言えることは、自然の大きな流れの中では人間は無力だということだ。「自然と共生する」という言葉もよく耳にするが、私見では、「共生」というよりも人間が自然の中で生かされていると考えるほうが正しいと思っている。
地球上にあまた生息する、地上でしか生活できない人間を含めた肺呼吸の生き物たち。われわれは、どのようにすれば水の恵みを受け、自分たちが生きていく場所を確保し続けることができるのか。「水の惑星」とも呼ばれる地球だが、その水の量は地球の体積比でわずか0.13%程度でしかない。イメージ的にはボールが濡れているようなものである。何らかの理由で地球の水が劇的に減ってしまえば、生物は過去に起きたような厳しい環境悪化を被ることになるだろう。もしそうなると、人間の力でどうにかできる問題ではなくなるはずだ。
今回はどうも話がシリアスになりすぎてしまったようだ。今は地球の未来を憂慮する前に、海でのレジャーを楽しみたい。
森 豊雪 学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。 ※保有資格 ・NCAJ 認定 キャンプインストラクター ・JBS 認定 ブッシュクラフトインストラクター ・日赤救急法救急員他 ■企業情報 イナウトドア 合同会社 〒238-0114 神奈川県三浦市初声町和田3079-3 ■URL https://www.inoutdoor.work/ ■X(旧Twitter) @moritoyo1 |