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コラム

通算600勝の名手が語る 競輪界の魅力、 目指す明日

本気になれば誰もが目指せる世界

――競輪選手は、もともと他のスポーツをしていて、そこから転向してくる人も多いと聞きます。他競技から参入するハードルは高くないのでしょうか?
 
高谷 「自転車」という乗り物は、ほとんどの人が子どもの頃から接しているものですよね。極端な言い方をすれば、「“ママチャリ”に乗れること」の延長線上にある究極形が「競輪選手になること」なので、本気でやりたいと思えば、誰でも目指せる世界だと思いますよ。また、純粋な身体能力が反映されやすい競技であるため、元プロ野球選手や陸上選手、モーグル、スピードスケートの選手など、他競技からの転向が多いのも事実です。中でもスピードスケート出身の選手は、競技の相性が良いのかものすごく強くなることがありますね。プロスポーツとしては平均寿命が長く、私のように50歳を過ぎても続けられるという利点がありますし、出場機会も必ず与えられ、かつ自分の自由時間も確保できるという非常に恵まれた環境が用意されているので、これから「競輪選手になりたい」と思う人にはぜひ勧めたいですね。私自身、もう30年以上選手をしていますが、いまだに飽きることがありませんから。
 
――長く競技を続けられる中で、マシンの進化を感じられることはありますか?
 
高谷 はい。以前は型にはまった感じでしたが、今はどの選手も、自転車の寸法やサイズの研究をしていて、規格に収まる範囲でどうやって推進力を生み出すか、力学的な部分を追求していますね。例えば、フレームの長さ1つ取っても、2mmにするのか3mmにするのか、そのわずか1mmの違いで、競輪選手はペダルを漕いだ瞬間に、その重さや推進力の差を感じられるものなんです。パイプについても、硬さや厚さで20種類ほどある中から組み合わせて、自分にとってベストな車体をつくっていきます。探求心があればどこまでもやれますし、明確なゴールはないですね。だからこそ、マシンのことはもちろん、若い選手たちには自分がどういう選手になりたいのか、何を目標にするのかといったビジョンも大切にしてほしいと思っています。
 

競輪界の明日を見据えて

――高谷さんは現在、日本競輪選手会の青森支部長も務めていらっしゃいます。競輪界をさらに盛り上げていくために、どんなことが必要になるとお考えでしょうか。展望をお聞かせください。
 
高谷 最近はコロナ禍の影響もあって、無観客で行われるレースも多くなっています。深夜に行われるミッドナイト競輪や、逆に早朝に行われるモーニング競輪なども、ネットや電話で投票して車券を買うことができる。そうして無観客でも商品が売れるというのは、売り上げ的には良いことなのかもしれませんが、やはり本当に競輪を盛り上げていくためには、お客様がたくさん入った会場で、選手たちが良いレースをする必要があると私は思っています。選手たちは皆、超満員の中で走りたいという思いを抱えているものです。時にヤジを飛ばされることがあっても、それだけ本気で見に来てくださっている人の前で走りたい。そして認められたいという気持ちがあるのだと思います。そうじゃなきゃ、私たちは「ただ自転車が速い人」の集まりでしかなくなってしまいますから(笑)。
 
――現在、競輪界には優秀な若手選手で競い合う「ヤンググランプリ」、優秀な女性選手で競い合う「ガールズグランプリ」が開催されています。それらと同じように、ベテラン選手同士で競い合う「オールドグランプリ」が開催されたとしたら、走ってみたいと思いますか?
 
高谷 それはおもしろそうですね!何十年と競輪選手をしていても、なかなかタイトルに手が届かないという人もいるでしょうから、そうした選手たちに活躍の機会が与えられるのは素晴らしいことだと思います。もし開催されて私が選出されたならば、ぜひとも走りたいです。20年、30年と車券を買ってくださっているお客様も盛り上がってくださるかもしれませんし、そうすればきっと集客にもつながるはず。協会の方にもぜひ動いていただいて実現することを期待しています。
 
――2022年2月には通算600勝という偉業を達成されました。この先、選手としてどのように歩んでいこうと思われているか、お聞かせください。
 
高谷 コツコツとできることを積み重ねる中で、ここまでくることができました。以前、私が得意としていた「先行逃げ切り」は、競輪の王道とも言える戦法で、それで走れる気持ち良さは何にも代えられないものです。50歳を過ぎ、かつてのように先行を続けるのは難しい部分もありますが、見てくださっているファンの方たちが私にどんなレースをしてほしいと思っているのかはわかっているので、簡単に諦めるようなことをせず、隙さえあれば先行する気持ちで、これからもレースに臨みたいと思っています。何度でも言いますが、競輪選手はお客様あっての存在ですから、お客様が求めるレースを体現できるよう、努力することが大切なんです。そして、そんな私たちの息遣いや、レース中の駆け引きを、ぜひ生で見ていただきたい。声援もヤジも、私は大歓迎ですので、競輪場へ足を運んでいただけたら幸いです。
 

(取材:2022年5月)
取材/文:鴨志田 玲緒
写真:竹内 洋平

 


競輪選手
高谷 雅彦
1971年、青森県出身。父の勧めで競輪選手になることを志し、日本競輪学校第67期生として1991年にデビュー。同年5月には静岡競輪場で初勝利を挙げる。先行しつつも体力を温存し、終盤に加速して逃げ切るスタイルで勝ち星を積み重ね、S級や特別競輪でも結果を残す。2022年2月には現役選手で5人目となる通算600勝を達成。また現在は日本競輪選手会の青森支部長を務め、競輪界の未来を明るいものにするべく、集客などさまざまな面で貢献している。

 
 
 

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