コラム
キャンプやサバイバルに関するアウトドアスクールを主催しているイナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。キャンプや登山などアウトドアを始めるにあたって、服装選びに悩んでいる人は多いのではないだろうか。今回は、普段着との違いや実用性などいくつかポイントを挙げながら、アウトドアを安全に楽しむための服装選びについて詳しく解説する。
◎アウトドアでは服を汚さないほうがよい
野外での活動に参加する際は、「汚れてもいい服装でお越しください」と言われるのが一般的だ。確かに、室内と比べると野外における活動では汚れる可能性が高い。しかし私は、野外だろうと服装を汚さないのが基本だと考えている。例えば、私が過去に製造現場で作業をしていた頃は「作業着が汚れるのは仕事が下手だからだ」と言われていた。もっとも、これは作業内容にもよるのだが、「汚さない」のが基本だったのだ。現在行っているアウトドア活動においても、これは注意している事柄の1つである。もちろん、今でも泥まみれになって遊ぶのがアウトドアのおもしろさだという考えもあるだろうし、実際それに関してはケースバイケースだろう。
「服装を汚さないのが基本」と前述したが、では絶対に汚さないのが正解かというと、必ずしもそうは言い切れない。ただ私見を述べると、各人が持っている野外用の衣服の枚数には限りがあるはずだし、また服装は自分の身を守るための大切なものであるから、極力汚さないに越したことはないだろう。
◎アウトドア用の衣服の種類
では、アウトドア(特にキャンプや登山など)の際に身に着けるものというとどういったものがあるだろうか?具体的には次のようなものが挙げられる。
靴、ゲイター、アンダーウェア、パンツ、ベースレイヤー、ミッドレイヤー、ベースレイヤー(タイツ)、インシュレーションウェア、レインウェア、靴下、帽子、手袋などである。
自然の中における服装の役割はとても重要だ。現代は、屋内に関しては空調がしっかりしている空間が多く、衣服が果たす役割を実感できる場面は昔に比べると少なくなってきている。もちろん、天気予報を見ればその日の暑さ寒さはわかるのだが、日常生活においてそうした気温の中で長時間過ごすことはさほど多くはない。
他方、キャンプ(テント泊)の場合はストーブなどを入れない限り、風の影響を除くと外気温とほぼ同じである。そうした点を踏まえ、ここからは、先に挙げた中で被りものや履きものを除いた衣服類を中心に、自分の経験を交えて書いてみたいと思う。
◎レイヤリングについて
アウトドアの時の衣服は、上着を脱いだり着たりすることで温度調整ができるようレイヤリング(重ね着)が基本とされている。特に登山では高低差だけでも外気温は変化し、一般的には標高が100m高くなるごとに0.6℃下がると言われる。加えて体を動かすことによる体温上昇もあるので、随時衣服を脱いで調整するといった案配だ。これがキャンプとなると標高差はないが、温度調整には同じ方法が有効である。
◎命を守ってくれるウール素材の服装
服の素材は日々進化しており、高機能な化学系繊維なども世に多く出ている。私が子どもの頃は、速乾性のTシャツのようなものはなかったと記憶している。Tシャツといえば綿(コットン)素材が主流であった。綿の素材はその先端の形状が丸みを帯びているため、柔らかくて肌触りの良いのが特徴だ。また吸水性も高いため、汗を吸い取ってくれるというメリットがある。反面、その吸水性の高さがあだになり、乾きにくいことがデメリットにもなってしまっている。特に野外では、綿製の下着は体温が奪われやすいので注意が必要だ。私自身、以前は綿のTシャツを着用することが多かったのだが、最近は冬のキャンプなどではウールの素材のものを多用している。
ウールは羊毛素材をもちいているものが多い。毛と毛の間に空気を多く含むので、その空気の層に断熱効果があり実に暖かい。暖かい日に着ていると汗ばんだりするものの、綿とは異なり乾きやすいのも重宝している理由だ。着たまま乾かせるといっても大げさではないだろう。それに加えて、臭いも生じにくいという特長がある。キャンプをする場合は、1日・2日は着替えないというケースも珍しくない。ウールの衣服だと、そんな時でも脱臭効果によって不快感なく過ごすことも可能なのだ。
私がウール素材を好む最大の理由は、前述したようなメリットが自分の命に直結すると考えているからである。生き残りを懸けたいわゆるサバイバルな環境の時、体温維持は極めて優先順位が高い。それだけに服装にはこだわりたいところだ。
ここまで述べてきたように、私はウールを愛用してはいるが、当然ながら欠点もある。個人的に思うウールの最大の欠点は「虫食い」だ。羊毛という自然素材のために、虫に大変好まれるのだろう。実際、私もそれなりに被害に遭っている。具体的にどのような虫かというと、代表的なものとしては、ヒメカツオブシムシなどの幼虫が挙げられる。体長1㎝に満たないものの、目に見えないほどでもないので何とか被害を防げないものかと思っているのだが、帰宅後に十分な洗濯をしたり防虫剤を入れたりしていても食われて穴が開いてしまう。
もう1つ、ウール素材の服装の欠点を挙げるとすると、雨が降っている場合だろう。当然ながら、雨に濡れた際にも体温低下は防がなければならないが、その場合はウールが有効とは言えないのだ。自然素材であるウール。それを虫が好むのは仕方のないことだとは理解しつつも、できる限り、お気に入りの服に穴が開くのは防ぎたいものだ。
ここまで書いてきたように、ウール素材の服の最大の特長は防寒である。しかし今年の夏も、いつもの綿のTシャツの代わりにウールのシャツで過ごすのも、それはそれで快適なのではないかと考えている。
森 豊雪 学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。 ※保有資格 ・NCAJ 認定 キャンプインストラクター ・JBS 認定 ブッシュクラフトインストラクター ・日赤救急法救急員他 ■企業情報 イナウトドア 合同会社 〒238-0114 神奈川県三浦市初声町和田3079-3 ■URL https://www.inoutdoor.work/ ■X(旧Twitter) @moritoyo1 |