コラム
キャンプやサバイバルに関するアウトドアスクールを主催しているイナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。アウトドアで手がける料理には特別な味わいがある。中でもたき火での料理は格別なもの。そこで今回は、たき火で行う料理のコツとその醍醐味について、アウトドアに関することならすべてに精通している同氏が丁寧に紹介していく。
◎最初に火おこしの準備を十全に行う
たき火での料理を楽しむためには、最初に火おこしの準備が必要だ。まずはある程度風通しの良い場所を選び、乾いた小枝や細い木の枝を集める。着火剤としては市販のものもあるので、それらを使用するととても楽に点火できるだろう。
だが、たき火を自然物だけで行いたいというこだわりがあるのなら、集めた小枝だけで点火を楽しむのも一興だ。点火の道具は種々あるが、初心者の方にはライターやマッチをお勧めしたい。とはいえ、最近ではマッチそのものを使う機会自体、限られているかもしれないが・・・自然の中で最初に火をおこす際にマッチを用いるというのは、得も言われぬ体験になるに違いない。
◎火の強さには細心の注意が必要
火がおこせた後は、その火の強さを調整することが肝要だ。当然のことながら、火力が強すぎると料理が焦げてしまうし、反対に弱すぎると火が通らない。家庭で行うガスの調整のようなことができると望ましいが、慣れるまではそう簡単にはいかないはず。煙が出ている時にそれを消すためにはどうすればよいかを知るためにも、まずはたき火の温度の目安を知ることが必要だ。
一般的に、点火してから継続的に燃焼させるためには260℃以上必要とされている。ちなみに、燃焼している時の温度は400℃程度。お湯を沸かしたりお米を炊いたりするには炎が立っているほうが良く、また、炙ったり網焼きをしたりする場合には熾火(おきび)という炭のような状態になっているほうが良いと言われている。そうした状態にするためには、火の加減をどう調整すればよいかを事前に研究しておくと、調理の時に楽になるだろう。
◎鉄製の調理器具を勧める理由
調理の際は熾火が適していると書いたが、それは特に焼き物をつくる場合のことである。焼き物を炎の出ている状態の時に網などで焼いてしまうと、煙やすすの匂いが食材についてしまうため、無煙燃焼である熾火が向いているというわけだ。
ただ、調理器具を用いての調理であればその点は無視してもよいだろう。では、たき火の時に向いている調理器具とは何か?個人的な見解で言えば、それは断然、鉄製の調理器具となる。概して、キャンプなどで使う調理器具にはアルミ製のものが多い。アルミは放熱性が良いのに加えて軽量であるためにバックパックに入れての移動が楽で、人気を集めている。
その点で比較すると、鉄製の調理器具は重量感があることは否めない。代表的なものとしてはスキレット(鋳鉄製の厚手フライパンのようなもの)や、より大きなダッチオーブンなどが挙げられる。重さに関するそのようなデメリットはあるが、鉄製の調理器具をお勧めしたい大きな理由は蓄熱性の高さにある。
例えばダッチオーブンは材料の鉄も厚いので、その熱で調理がスムーズに進む。厚めの鋳鉄製の鍋を使用すると「煮る」「蒸す」「焼く」など、ほぼすべての調理に対応できる――これが「鍋が勝手に調理してくれる」とまで言われるゆえんだ。ふたも重いので内部が圧力鍋のような効果を生み、熱や水分を閉じ込めやすく、水の沸点も上がり、肉を煮てもホロホロに仕上げられるなど、美点は多い。
その反面、鉄鍋は「さびやすい」という理由から敬遠されることがある。しかし見方を変えると、器具そのものを長い時間を費やしてじっくりと「育てる」という側面を持っているので、愛着もひとしおだろう。調理に使った油などが内側にしみこむことによって、焼き物をしてもこびりつきにくくなる点も嬉しい。
鉄というと、どうしてもさびやすくてメンテナンスが大変というイメージが強いが、洗ってよく乾かすことを怠らなければ比較的維持は容易だ。洗うといっても、内側にできた油の被膜がはがれてしまうため、いわゆる食器用洗剤などは使わない。もし専門的に使いたいのなら、細かく割った竹の一端を束ねた「簓(ささら)」という道具を使って水もしくは温水などで洗い流すとよいが、そこまでしなくても、たいていの場合はたわしで事足りる。
付言すれば、私はいつも念のためにバージンオリーブオイルなどを薄く塗っているので、こちらもぜひ参考にしてもらいたい。
◎非常に重要なたき火の後片付け
さて、おいしいたき火料理に舌鼓を打った後は、調理器具の片付けとたき火の後始末という大事な仕事が待っている。鉄鍋を使った場合は、できるだけ早めに塩分などを落としておこう。方法はお湯で温めて、たわしなどでこすり落とす。こびりついてしまった食材は焼き切るのも1つのやり方だ。普通の鍋であれば空だきはご法度だが、これが鉄鍋となると話は変わる。もし油があれば、その後に軽く塗っておくとメンテナンスに良いだろう。
たき火そのものの後片付けも、とても大事だ。弊誌の読者の中には、キャンプをしている際に草などに火が燃え移って火災が起きたといった類いのニュースを見たことがある方も少なくないのではないかと思う。そうした事態を避けるためにも、たき火の後片付けには真剣に取り組みたい。「火」というものは、ほんのわずかな隙をついて簡単に広がってしまうものなのだ。
「火」は私たち人間にさまざまな恵みを与えてくれる存在ではあるが、ひとたびその牙をむけられると、とてもじゃないが太刀打ちできない。そのことをしっかりと認識し、使用時も含めて消火・後片付けはしっかり行うように心がけたい。
もし、あなたが既にキャンプを経験している方であれば、次のキャンプの際に一品でもいいのでたき火での調理に挑戦するのも楽しいのではないだろうか。
森 豊雪 学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。 ※保有資格 ・NCAJ 認定 キャンプインストラクター ・JBS 認定 ブッシュクラフトインストラクター ・日赤救急法救急員他 ■企業情報 イナウトドア 合同会社 〒238-0114 神奈川県三浦市初声町和田3079-3 ■URL https://www.inoutdoor.work/ ■X(旧Twitter) @moritoyo1 |