コラム
キャンプやサバイバルに関するアウトドアスクールを主催しているイナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。毎年夏になるとよく見かけるのが、子ども同士や親子連れで虫捕りをしている光景だ。今回はその「虫捕り」をテーマに、とりわけ人気の高いクワガタムシ・カブトムシの魅力から人間と虫との共生まで、実体験をもとに同氏が詳しく解説していく。
◎クワガタムシの魅力について
本連載は「大人のアウトドア考」とタイトルに掲げているが、今回は童心に帰って「虫捕り」について考察してみたい。ご多分に漏れず、私も少年時代はよく虫捕りに出かけたものだ。しかし大人になると、子どもがまだ幼かった頃は親子で一緒に虫捕りに興じたものの、単独で虫捕りに行くような機会はほとんどなくなった。
虫捕りの王道は、何といってもカブトムシとクワガタムシだろう。子どもが参加する体験サイトでもこの2種の人気は非常に高く、予約が取りにくいらしい。私が子どもの頃を思い返せば、未明から親が夜行性昆虫の虫捕りに付き合ってくれた。朝から仕事をしなければならないのに、子どもに付き合ってさぞ大変だったろうと今更ながら感謝の気持ちがこみ上げてくる。カブトムシは昔も今も人気は高いと思うが、私はどちらかというとクワガタムシのほうが好きな少年だった。代表的なところでは、のこぎりのような大あご(ハサミの部分)が特徴的なノコギリクワガタが挙げられる。このノコギリクワガタの中でも大型のものは、湾曲した大あごが何とも芸術的なのだ。私の育った町では「オバケ」と呼ばれていて、友達同士でよく見せ合いをしたものだ。今から考えると残酷な話だが、クワガタムシ同士をけんかさせて遊んだこともある。
亜種まで含めると50種類以上に及ぶと言われる日本のクワガタムシの中で、個人的に最も好きなのがミヤマクワガタだ。ミヤマは「深山」、つまり山奥の意味で、標高が高めの山に生息する。日本では北海道を除き、平地に近い所では見つからないのが特徴だ。私が子どもの頃に住んでいた場所で多く見られたのは、ノコギリクワガタであった。それだけにミヤマクワガタは、私にとって憧れの対象だったのだ。
私がミヤマクワガタに魅力を感じる理由は、何よりもそのフォルムにある。大あごの先の二股に分かれた部分や、後頭部の張り出した部分など、大変ごつごつした感じが何ともよいのだ。
とはいえ、平地に住んでいない虫を山から捕まえてきて飼えるかというと難しいだろう。やはり虫は自然の環境に敏感な生き物だから。
話はそれるが、ここで少しセミにも言及したい。クマゼミは以前、神奈川県では城ヶ島にしか存在しなかったらしいのだが、温暖化の影響なのか、現在では私が住んでいるエリアでも夏にクマゼミの声を聞くことができる。自然の中で生きるということは、それだけ時代環境に左右されるという証左だろう。そうした観点から考えると、人間は自然の中で生き、その一員のはずなのに自然のままに生きていない。それどころか、人間が住みやすいように自然環境をつくり変えて生きようとしている。それは「自然との共生」とは呼べないのでは――そう感じるのは私だけだろうか。
◎年々進化していくペットの餌
実はここ数年、何とか時間をつくってミヤマクワガタを見に行きたいと考えている。“飼う”のではなく“見に行きたい”と書く理由は、飼うことによってミヤマクワガタの寿命を縮めてしまう可能性があるので、自宅に連れ帰るのはよそうと思っているからだ。
ところで皆さんはクワガタムシの寿命がどのくらいかご存じだろうか?クワガタムシやカブトムシは夏にだけ目にすることができる昆虫というイメージが強いが、カブトムシは1年~1年半、クワガタは1年~3年とされており、厳密な寿命は個体差による。また、カブトムシは成虫になってからは越冬しないが、クワガタは成虫のままで越冬するものもいるらしい。
カブトムシの飼育で思い出すのは、昔と今とで餌が違うことである。昔はスイカなどを飼育箱に入れておいたものだが、現在は水分だけでは駄目だということでペットショップには専用のゼリーなどを置いている。ことほどさように、犬や猫なども含めてペットの餌は格段に進化していると感じる次第だ。
ここまではクワガタムシとカブトムシを中心に話を進めてきたが、子どもの頃に私が最も多く行っていた虫捕りは実はセミ捕りだった。小学生の頃は木登りなどをしながら、よくセミを捕まえたものだ。当時はまだ視力がよかったこともあるが、木にいるセミを見つけるスキルはかなり高いほうだった記憶がある。まさに「好きこそものの上手なれ」というわけだ。
ご存じのようにセミの成虫の寿命は極めて短く、日本のセミの大半は地中から出てきて羽化すると一週間程度しか生きられない。そのため、セミにははかない命の虫の代表格のようなイメージがあるが、実はふ化してから地中で7年ほど生きている。地上に出てきてからの日数だけを考えると、その間に卵も産み、子孫を残していくという慌ただしさだ。哺乳類では自分の子孫を自らが育てるといったケースが大半を占めるが、セミは自分の子どもが産まれる前にその命が終わってしまう。それも自然の摂理ではあるものの、はかなさを感じずにはいられない。
◎人間が虫や動物と共生するために
今ではあまり見かけなくなったが、その他の虫捕りとしては、ゲンゴロウやケラなどが挙げられる。ケラは有名な童謡「手のひらを太陽に」の歌詞にも登場するが、今の子どもたちは「そもそもオケラって何?」と思うかもしれない。それほど現在は見かける機会が少なくなってしまった印象を持つ。私が子どもの頃は、田んぼのあぜ道など土のある所ではよく見かけたものだが。推測するに、農薬の使用や水辺の減少などによって、オケラの数は徐々に減っていっているのだろう。
自然界は弱肉強食の世界であり、時間とともにその生態系は変化していくものだ。しかしその一方で、人間に都合のよい動物ばかり保護したり、反対に一方的に害獣を決めたりするのはいかがなものか。
とはいえ、かく言う私もそうしたルールづくりに加担している人間の1人であり、あまり偉そうなことは言えない立場ではある。ただ、むやみな殺生だけは絶対に避けたいと思う。例え、それが一匹の虫であったとしても。
森 豊雪 学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。 ※保有資格 ・NCAJ 認定 キャンプインストラクター ・JBS 認定 ブッシュクラフトインストラクター ・日赤救急法救急員他 ■企業情報 イナウトドア 合同会社 〒238-0114 神奈川県三浦市初声町和田3079-3 ■URL https://www.inoutdoor.work/ @moritoyo1 |