コラム
「海外展開を進めていくうえで、特に現地の人の気質やものの考え方が知りたい」。そんな声にお応えして、海外ビジネスの経験を豊富に持つ(株)サザンクロスの小田切社長が、世界各国の国民性を解説!より良い人間関係を構築することは、ビジネスの大きな成果へとつながるはずです。第17回は、日本のビジネスパーソンが海外赴任した後に起こすべきアクションについてご紹介します。
皆様、こんにちは。(株)サザンクロスの小田切武弘です。本誌の2020年9月号から、海外でビジネスを進める際の現地ローカルスタッフへの接し方や、仕事の依頼の仕方、スムーズなコミュニケーションの取り方などにフォーカスしたコラムを連載しております。
前号に引き続き、今号でも現地に着任してからの留意点と、海外出張を含め、海外赴任する前に日本でどのような準備をしていくことが大切であるかを、総集編的に述べてまいります。海外出張を含め、海外に赴任しそれぞれの国や地域でビジネスを上手く回し、成功させるのは楽なことではありませんし、魔法や特効薬もありません。
さて、海外ビジネスを成功させるためには、実は海外に向かう前、日本にいる時がキーになるいくつかの要素について前号でお伝えしました。今号ではそれぞれの国や地域に着任した後に大切となるポイントに絞って見ていきましょう。
① 語学
日本にいるうちに英語や訪問国の母国語をある程度学習しておくことが理想であると前号で申し上げましたが、現地に着任したら語学の学習は終了、などと思っていてはいけません。「現地の新しい生活や自分の新たな任務に一刻も早く慣れる必要があるから語学は後回しでいい」と、日本人駐在員の方々が言っているのを数え切れないほど聞いてきました。しかし、「語学」を後回しにし、おろそかにしてしまった方々は、ほとんど全員と言って差し支えないほど、駐在生活を充分に楽しめず、ご自身の任務遂行にあたっても限定的かつ実りの少ないビジネス対応しかできていなかったのです。少しずつでも構いませんから、英語と現地の母国語については定期的に勉強できる環境を整え、家庭教師や語学学校などを活用することを強くお勧めします。
② 業務と会社情報について
経営者層になられる方、工場の管理者的な立場になられる方、技術開発の責任者になられる方、市場開発・営業の責任者になられる方、経理・財務責任者になられる方、人事・総務部門の責任者になられる方など職位や担当業務範囲の違いはあると思いますが、共通して言えることはご自身の業務範囲の仕事について再度、見直しをかけること、またそれについて英語で説明ができることが重要になります。当然、ご自身の会社の日本本社や現地の関連会社の会社情報について確認し、必要に応じてこれも英語で説明できなければなりません。
ここで大切なことは、国内ではご自身の業務に関してスペシャリストであれば、それなりに良かったのですが、海外駐在員の場合にはスペシャリストであることに加え、ジェネラリスト、オールラウンダーとして知識を持つことも求められるということです。会社や工場を管理・運営していくための経営知識、ローカルスタッフの皆さんに気持ちよく一生懸命に仕事をしていただくための公平感、公明性を伴った人事処遇のルールづくり、生産管理、在庫管理、新規顧客開拓、安定的な営業収益と利益確保のための戦略立案と実際の行動、財務・経理管理···等々、基本的な知識を一通り持っておくようにしましょう。
③ 性格・キャラクター
日本の本社から選ばれて代表者として赴任をする人物であるからこそ、ローカルスタッフの方や、現地企業の方、日系同業他社の顧客からは、日本にいた時以上に厳しい目で見られることになります。常に明るくさわやかで、胸を張って正々堂々と振る舞いましょう。あらゆることに目を見張り、気配りを行い、時間や約束をきちんと守ること。国によっては時間に対して寛容な国もありますが、他人はさておき自分自身はしっかり計画を立てて行動し、その積み重ねで信頼を勝ち取っていくべきです。
ビジネスにおいて、商談の内容や時間の約束をする際には細やかなコミュニケ―ションが求められます。小さな誤解が重なるだけで、相手から不信感を抱かれるリスクがありますし、海外では言い訳も通用しません。成功は成功、失敗は失敗なのです。
ご自身の性格やキャラクターについても、現地到着後も常に見直し、軌道修正できるような冷静な一面を持たなくてはなりません。このように書くと「何でも完璧にしなければいけないのか」と身構えられる方もいるかもしれませんが、完璧な人間などいないのですから、安心してください。むしろ重要なのは、気を張る部分と抜く部分をセルフコントロールし、バランスを取りながら仕事と生活をしていくことです。
④自国と駐在する国の知識
本項目に関しては、特に赴任地に着任後、常に最新の国の政治、経済、為替・金融などの情報を定期的に確認することがまず基本となります。着任した国の日本大使館や領事館、日本人会、商工会議所などからは正確な情報が得られるので活用しましょう。また、どうしても忘れがちになってしまいますが、現地の法律、商慣習、特に人事処遇面での法律は必ず最新情報を確認しておくことが重要です。
⑤趣味を持っておくこと
文化教養的なものでも、スポーツでも何でもいいので、仕事以外で自分が楽しめて没頭できるような時間を確保することは上述したバランス感覚を持つ意味でも極めて重要となります。日本人会や商工会議所、あるいはご自身が住まわれているアパート内でも、同好サークルなどのコミュニティの案内は必ずあるので見逃さないようにしましょう。
私が知る海外で一生懸命仕事されて、成功を収めていらっしゃる方の多くは、休日になると新たに友人になった仲間たちとハイキングに行ったり、陶芸教室に行き素晴らしい焼き物をつくったり、ゴルフをして互いに競い合ったりと、充実した日々を送っていらっしゃいます。何か1つのことに集中して取り組み、そのことを楽しみながら成長できるようになると、それが仕事でも良い方向へ作用して好循環が生まれていくのです。
⑥まとめ
いかがでしたでしょうか。海外赴任をした後にうまく仕事を回し、快適に生活するためにどのようなアクションを起こせばよいのかについて、書き記してみました。
これらのことを実践すれば良好な海外赴任生活を送れるようになると思いますが、それでも、日本で生活していると見えてこない文化や考え方の違いはありますし、それらに大きなストレスを感じてしまうこともあるでしょう。ですが、日本と比べて良い・悪いという側面だけで考えず、国の違いを受け止めて、理解していくことが大切になります。
次号からは、実際に海外で仕事をしたり生活したりしなければ分からないポイントについて、2回に分けてお伝えしていこうと思います。これは、今まで私が手がけてきた海外赴任の手引書やセミナーでも、ほとんどお伝えすることがなかった内容です。おもしろいお話ができると思いますので、どうぞお楽しみに。
※海外赴任前のビジネス英語研修や国際教養研修等をご検討されていらっしゃる場合、あるいはご希望の企業・団体様がいらっしゃる場合には、ぜひ当社ホームページのお問い合わせ欄よりご希望をお聞かせください。
株式会社 サザンクロス 代表取締役社長 小田切 武弘 海外志向が強く、学生時代に海外留学を経験。学業修了後は、大手電気機器メーカーや飲料・食品メーカー、総合商社など数社にわたって、米国、インド、韓国、東南アジアといった諸外国に駐在。その中で、海外でのビジネスに苦戦する日本企業の存在を知り、自らのノウハウを提供したいという思いが芽生える。2017年7月7日、企業の海外展開をサポートする(株)サザンクロスを設立した。 http://sc-southerncross.jp/ |