コラム
キャンプやサバイバルに関するアウトドアスクールを主催しているイナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。今回のテーマは、キャンプの1つの形として、昨今人気が高まっている「車中泊」だ。これまでアウトドアに関してさまざまな考察を行ってきた同氏が、キャンプで車中泊をする際の注意点から災害時における有用性まで、独自の視点で幅広く解説する。
◎車でのキャンプはいかにして可能になるか
以前、このコラムで「キャンプにはキャンピングカーという選択肢がある」といった趣旨の文章を書いたことがある(2020年5月号「移動する家、キャンピングカー」)。実際、キャンピングカーはそれなりの装備もあり、また快適でもあるので、私も憧れているキャンプのスタイルの1つだ。
最近、友人が軽キャンパー(軽自動車ベースのキャンピングカー)を購入したことを知った。「いいな」とは思ったものの、私にはその選択肢はない。新車であれば、たとえ軽キャンパーであったとしても200万円以上はするものなのだ。やむを得ず、私は自宅の車を車中泊仕様のものに変更しようと思い立った。「車中泊」とは読んで字のごとく「車中に泊まること」であるが、通常の車では、シートを倒して1部の車を除いては完全に平らな状態(フルフラット)をつくるのは難しい。これは通常のキャンプでも同様だが、寝る場所が凸凹していては寝苦しいことこの上ない。重要なのは、いかにして車内に快適に寝ることができる平らなスペースをつくるかということである。
ちなみに、我が家の車はいわゆるワンボックスタイプのような長い車体ではなく、「SUV」と呼ばれるスポーツ用多目的車で、シートも2列だ。トランクスペースを図ってみたところ、横幅1000mm、奥行き800mm、高さ900mmであった。これでは当然ながら、トランクスペースに寝るわけにはいかない。シートを倒してみたものの、フルフラットにはならないので、その状態で前列のシートを前に移動してみると奥行きが1800mmまで確保することができた。これなら私の身長でもギリギリ横になれる。以前は助手席を倒して足元に物を置き、少しでも平らになるようにしていたが、やはりそれでは不十分だ。なぜそこまで平らな状態にすることにこだわるのかといえば、それは健康に関わってくるからである。
多くの方は「エコノミー症候群」という言葉を一度は聞いたことがあるのではないかと思う。飛行機で長時間移動する際に、エコノミークラスのようにシートが平らにならない座席で、長時間座ったり眠ったりしていると、足の血管などに血栓ができてそれが肺にまで回ってしまい、最悪の場合は命の危険にさらされるというものだ。その危険性を回避するためにも、ゆったりと良質な睡眠をとるべく、フルフラットにはこだわりたい。
◎災害時の避難手段としての車中泊
人によっては、「せっかくのキャンプなのに車で寝るなんてもったいない」というご指摘もあろうかと思う。もちろん、私もキャンプ場ではテントなどに泊まっているので、基本的に車は移動・運搬のための手段として使用している。しかし、野外で睡眠をとる際に怖いものがある――それは「雷」だ。雷だけは本当に危険だし、何よりも怖い。これまでの私の経験から言えば、雷は予想外の時に発生することもままあるのだ。車はそのような際の避難場所として使うこともできる。車があれば、安心して夜を過ごすことも可能になるだろう。
その他に車は、災害時の寝泊まり場所にすることもできる。私が現在携わっている「(一社)72時間サバイバル教育協会」は、全国の小学生以上の子どもたちを対象に、「子どもたちに災害時でも生き抜く力を!」といったコンセプトでサバイバルマスター講習を展開している大阪を拠点とした団体だ。その代表である片山誠氏の著書に『車バイバル! 自分で考え、動くための防災BOOK』(出版社:博報堂ケトル)がある。「車バイバル」というのは車とサバイバルをかけ合わせた造語だそうだが、何ともユニークなタイトルではないか。本の内容は、車を活用した防災知識などに関するもので、「車中泊」のことも取り上げられている。
私は自分の車を車中泊仕様にするために板と枠を用いて平らなスペースをつくったが、この本にはそれとは異なる方法で平らにする記述があるのだ。それは、特別なものを購入せずとも、普段から使っているようなもので事足りるということ。私は、防災に対する準備を行う際には、こうした片山氏のような考え方は必要だと思っている。もちろん防災グッズの使用を否定するわけではないが、意外と身の回りのもので済んでしまうことも多いのだ。
◎EDCを準備することの重要性
防災のために、もう1つ備えておきたいものがある。それはEDCである。EDCとは、「Everyday carry」(毎日持ち歩くグッズ)の略で、万が一の事が起きた際に対応できるように日頃出かける時には必ず持って行くようなもののことだ。もっとも、何でもかんでも持ち歩かなければならないとなると誰でも嫌になってしまう。それでは、例えばどのようなものを携帯しておけばよいのだろうか。
まずは、外出時に災害に見舞われた時のことを想定し、必要最低限のものを備えておく必要がある。そのために、どれくらいの期間そのEDCで対応するかなどをじゅうぶんに考慮したうえで、準備に取りかかりたい。例えば、それが帰宅するまでの半日間を乗り切るためのものなのか、あるいはもう少し長い時間に対応するものなのかなどによっても準備する内容は変わってくるはずだ。仮に、出社時に地震に遭遇し、帰宅困難になってしまったとしよう。通勤時にはそれなりの大きさのバッグを持っている人が多いかと思うが、そうしたバッグの片隅に入る程度のものでよい。肝要なのは、帰宅困難になった際に必要となるものをあらかじめ想定し、それを準備するということだ。災害時は非日常的な状態であるため、自分の想像力を働かせることが非常に重要になってくる。
実際に東日本大震災では多くの帰宅困難者が出た。当時、多くの人は徒歩で帰宅していたが、かろうじて停電を免れている地域でも自動販売機の飲料はすべて売り切れだったことを今でもよく覚えている。また、休憩のために解放された施設は人で溢れていた。そんな状況の中で自助するためには何が必要なのか。ぜひ、皆さんが各自で想定したものを準備していただきたい。かくいう私も、車中泊仕様にした自分の車に EDC を載せておくつもりだ。
もちろん、災害は起きないに越したことはないが、世界でも有数の地震多発地帯でもある日本で暮らすためには、どうしても備えは必要だ。そうした認識のもと、あまり特別なものを準備するのではなく、日用品をうまく使って備えたいものである。
それでは、車中泊仕様にした愛車にEDCを載せ、試乗を兼ねた旅に出るとしよう。
森 豊雪 学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。 ※保有資格 ・NCAJ 認定 キャンプインストラクター ・JBS 認定 ブッシュクラフトインストラクター ・日赤救急法救急員他 ■企業情報 イナウトドア 合同会社 〒238-0114 神奈川県三浦市初声町和田3079-3 ■URL https://www.inoutdoor.work/ @moritoyo1 |