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コラム

目の前の助けることのできる命を救いたい ~愛護活動で知るペットに対する想い~

人の生活に深く関わり、時にペットという領域を超えて“パートナー”として人生を彩ってくれる「犬」。たくさんの人に愛される存在である一方、その陰では捨てられて保健所送りになったり、ペットショップの繁殖場で不要とされたり、人間の都合で殺処分されてしまう個体が数多くいる。当コラムでは、トリミングサロンを運営しながら保護犬活動に力を入れる(特非)Happy Wan の原弥千代氏が、保護犬活動の実態や支援の必要性についてリアルな情報を発信していく。

(特非)Happy Wanの原弥千代と申します。2022年9月号からコラムを担当させていただいております。2回目にあたる今回は、当団体が2020年11月に行政の依頼を受けてレスキューした犬についてお話しさせていただきたいと思います。

レスキューした経緯

2020年11月、行政から依頼がきたこの子は、収容時から軽度の心疾患と聞かされていました。このまま施設にいると治療されずに命を落とす可能性が高かったため、私たちがレスキューをすることにしたのです。

いきなり知らない人に知らない施設へ連れて来られたのに、この子は怯えることもなくずっと明るい表情で尻尾を振っていて、その姿が今でも忘れられません。伸びきった毛に覆われていた姿が映画『スターウォーズ』の人気キャラクター「チューバッカ」に似ていたことから、「チューバ」と名付けました。トリミングをしている間もずっと笑顔でした。翌日に医療機関で検査等を受け、結果は軽度ではなく重度の心臓病(僧帽弁閉鎖不全症)と診断され、詳しい検査を行うなら専門医療機関を紹介するとのことでした。その時点で医療費が高額(全てを合わせて150万円以上)だとわかっていたので、とても悩みました。

手術を行う決断

12月初旬、知り合いに相談すると「悩んでいる時間はない」と資金集めを協力してくれることになり、すぐにSNSで募金の呼びかけをすることができました。それと同時に医療機関の紹介をお願いし、予約が取れたのが12月25日。専門の獣医師の診断は、僧帽弁閉鎖不全症も重度で、いつ肺水腫を起こして亡くなっても不思議ではないレベルとのこと。さらに絶対安静の『余命3ヶ月』と宣告されました。この手術は執刀できる獣医師が少なく、予約しても3ヶ月以上先になるということでしたが、その時点で予約できるのは2021年3月以降。手術日までこの子の命が持つのかという不安が、毎日のように付きまといました。

順調に進んだ募金活動

12月初旬に呼びかけを始めた募金活動は、たくさんの方が拡散・募金してくださったおかげで、わずか1ヶ月ほどで目標金額に近づき、当団体の活動費も支出できるほど集めることができました。手術費用の目途はついたものの、皆に支えられている命を失うわけにはいかないという思いが日に日に募り、携帯酸素や心肺蘇生など、万が一の事態にも備えていました。

チューバの幸運

2021年の新年早々から検査通院が始まり、1月16日の診察時に、急きょ21日に手術の枠が空いたと知らせを受けました。予約待ちの中から、緊急性の高い子として優先的にチューバが選ばれたのです。手術が決まって嬉しい反面、枠が空いたのは他の子が手術に間に合わずに亡くなったからだと思うと素直には喜べませんでしたが、これもチューバの幸運だと思い、手術をお願いすることにしました。手術当日の緊張感はすさまじく、6時間以上かかる大手術が終わったと連絡がきたのは22時過ぎでした。すぐに面会へ行き、術後でぐったりしているチューバと再会。退院するまで毎日面会に行きましたが、術後翌日には、チューブを付けられている状態でも自分の足で立ってご飯を食べていて、人間では考えられいほどの生命力にただ驚かされました。術後の合併症もなく、順調すぎるほど経過良好で、1月29日には元気に退院となりました。行政引き出しからすべてが順調過ぎて、本当にチューバは恵まれた子でした。術後も1ヶ月、3ヶ月、半年···と検査は続きましたが、最終的にご家族募集を開始できるまで復活しました。

新しい家族との出会い

当初は3月に手術を行い、桜の咲く季節に新しい家族のもとへ旅立ってもらう流れを想定していましたが、募集開始から1ヶ月が経過してもご家族が見つからず、ゆっくりと素敵なご家族からのお問い合わせを待っていました。そんな折、当施設があるトリミングサロンのお客様のお姉さんがご来店され、「チューバを家族に迎えたい」と志願してくださったんです。先住犬のトリミングで毎月ご来店されていて、チューバをずっと応援してくださっていた方のお一人なので、チューバと一緒に喜びました。卒業まで何回も面会に来ていただいているうちに、チューバの気持ちはスタッフからあっという間に離れ、“お姉さんLOVE”状態になってしまったため(笑)、当初は術後3ヶ月検診後の4月下旬を卒業日として予定していましたが、3月20日に新しい家族のもとへ旅立ちました。

11月に当施設に来てから、心臓に負担がかからないよう絶対安静を続けていたので、自由に感情を表現して走り回っている姿は感動の一言でした。

命を守るということ

2022年7月に1年半検診があり、先生から「もう心臓に問題はなく、普通の子と同じように生活しても大丈夫」と言われたそうです。チューバが完全復活しました。飼い主に捨てられて「余命3ヶ月」を宣告され、崖っぷちにいたチューバが、保護からわずか4ヶ月で大手術を乗り越え、新しい幸せをつかめたのは、チューバが幸運の持ち主だったからだと今でも思います。

あの時手術を決断していなかったら、きっと今はこの世から消えていたたった1つの小さな命を、たくさんの方の力で助けることができました。ただ、その原因をつくったのも同じ人間です。命には小さいも大きいもありません。これからペットを家族に迎えようと思っている方は、その命を生涯守れるかを自身に問いかけ、家族全員で守り抜く覚悟を持ってほしいです。このコラムを読んでいただき、ペットを家族に迎える覚悟が1人でも多くの方に伝わることを願っています。

■プロフィール
原 弥千代
 
甲子園球場のショップに販売されていた犬用の服に一目ぼれし、犬を飼い始める。絆を深めいつも一緒にいたいと思うようになったため、不動産会社を退職し2010 年にトリミングサロン「dogparadise Cocoe」をオープン。3店舗まで事業を拡大する。2020年には(特非)Happy Wan を設立し、大阪府枚方市を拠点に犬の保護活動をスタート。トリミングサロンの店舗スペースを活用した保護を行いつつ、多くの人に「自分にできる範囲での支援」を呼びかけ、着実に活動の幅を広げている。

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