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コラム

企業経営の黄色信号が灯った時―その際の注意点

どんなに順風満帆な企業であっても、将来事業の業績を悪化させていく可能性のある要因は必ず存在するもの。それらは経済、マーケット、地政学的なことなど外部の事象に起因するものと、各企業の内部に原因があるものとに大別できる。この連載では、内部的な要因で企業業績を将来悪化させていく可能性のある事象を、「企業経営の黄色信号」と呼んでいく。それを踏まえて、「CONCERTO」の代表で経営アドバイザーの荻野好正氏が、定性的な面と財務的な面からのアプローチで、経営者として気を付けるべきことや、いかに企業の「黄色信号」を認識していくべきかについて解説する。第3 回は、主に財務・経理に関する企業経営の黄色信号について論を展開していく。

本連載はこれで3回目になります。毎回お読みいただいている皆さま、ありがとうございます。今回は、財務上の課題・問題についてお話ししたいと思います。財務というと数字に関することと思われるかもしれませんが、財務数値に具体的に現れてくる黄色信号については、第5回目にお話しします。今回は、財務・経理に関連する社内の体制、定性的な部分での黄色信号についてです。

社内の計数管理について

どこの会社でも、仕組みの違い、その頻度・濃淡はありますが、社内で売り上げ見込み、管理会計、原価管理、年次予算の策定、予実管理、決算の見通しのレビューなどは必ず行われています。社長がすべての財務数値を詳細まで把握して会社経営をやっておられるところもありますが、やはり管理部署、経理部署などがそれぞれの現場から報告されてくる数値をまとめさせ、それに基づき全社の経営の現状などを、各社それぞれのやり方でレビューしていくというのが通常です。

まずポイントになるのは、毎月決められた日程できちんとこれらの管理報告がなされているか、になります。

例えば、翌月の10日までに月次決算の報告をあげると決まっているのに、いくつかの部署の報告が遅れてしまうとか、報告すべき一部の数値がまとまらないといったことが理由で、ずるずると報告が遅れていくというようなことはありませんか?そのようなことが起こっているとしたら、最初の黄色信号とみなしましょう。社内の各部署が期日までに緊張感を持って報告を上げることを徹底させることが肝要です。報告が想定していた以上に時間がかかるのにはいろいろな理由がありますが、概してよくない状況に流れていくことが多いと思います。

社内報告数値のフィルター

各部署から報告されてくる財務数値に変なフィルターがかけられていないですか?現場、子会社、工場などから出てきた数値が、あまりに現実とかけ離れているようなことはないでしょうか?例えば、業界の状況が厳しいにもかかわらず、いつも好調な売り上げ数値が報告されているとか、必ず予算に限りなく近い利益が報告されているとか、売り上げは大きく減少しているのに利益は予算通りだとか。このような時には、報告されている数字にどこかでフィルターがかけられていると疑ってみるようにしてください。

不正ということにはなっていなくても、ルールのグレーゾーンを使って現場責任者の都合の良い報告になっていないか?フィルターがかけられていると感じたら、これは大きな黄色信号と認識すべきです。経営者の勘は当たるものですから。

投資効果について

どこの会社でも、大きな金額の設備投資、先行投資などのプロジェクトに取り組むことがあります。このようにリスクにチャレンジしているプロジェクトの効果のレビューは企業にとってとても重要なことです。どこの会社でも月次または数ヶ月ごとにそのようなプロジェクトの状況を報告をさせる仕組みを持っています。ただ、これらの報告の内容については、実際のプロジェクト部隊は熟知しているが、経営者は詳細がわからないというケースもよくあることです。

このような投資効果の報告では、報告者にかなりの自由度があるため、ともすればプロジェクトをやっている人間は自分に都合の悪い情報を含めずに報告します。これが長く続くと、プロジェクトの後半になって、それまで報告していなかったネガティブな要因が顕在化し、最終段階に挽回することができずに、大きな損失が出てしまう、ということはよくあります。報告を聞いてちょっとうまくいきすぎているなと感じた時、これも黄色信号なのです。

「プロジェクトの実行は現場に任せる、ただしそのチェックはきちんとやる」という趣旨で、「Trust&Double Check(信頼して再確認)」を実行する。このダブルチェックの部分が肝要なのです。

借入金の膨張

プロジェクトの実施、新規の設備投資、M&A、運転資金などで借入金を増やすニーズはどこの会社でもあり、レバレッジを効かせる(てこの原理を効かせる)ことによって会社の成長を達成しようとすることは素晴らしいことです。

通常は資金の調達は財務部門が金融機関からの借入、もしくは資本調達によって行われますが、これら資金を活用する工場、子会社、事業部などの現場の人々に、そのプロジェクトでどれだけの資金を使っているという認識が希薄になっていませんか?事業部門に、借りたお金は返さねばならないという意識がありますか?借入金の返済なんかお構いなしと言った風潮が、プロジェクトを推進している部署に出始めたらこれも黄色信号であると考えてください。

キャッシュフローについて

日本ではいまだに損益計算書(PL)を中心に業績をモニターする会社が多いようです。営業利益あるいは純利益でいくらもうかったから業績好調とみなすということがままあります。しかし、本当の会社業績を示す指標は何かといえば、利益ではなくキャッシュフロー(CF)なのです。

なかなか難しいことかもしれませんが、経営者の皆さんには、PLの利益とともにCFを合わせて見るようにしていただきたい。PL上の利益が何ヶ月か連続しているにもかかわらず、CF、特に営業キャッシュフロー(OPCF=Operating Cash Flow)がいくつかの期間で赤字になっているようなことがあれば、即黄色信号とみなして、原因究明をしていただければと思います。

読者の皆さまの中には、「CFはあまりなじみがない」という方も多いかと思いますが、ぜひとも、経営者の方には会計学の基礎になる財務3表=PL、BS、CFの仕組みはきちんと理解しておいていただきたい。規模の小さな会社では、日繰り(毎日の現金収支と現金残高の管理)、月次資金管理などの資金繰りの検証(いわゆる直接法CF)をやっておられるところが多く見受けられますが、もう一歩進めて財務3表から導かれるCF(間接法)をご覧いただきたいのです。

この中でのOPCF、および設備投資などの出費や投資などの収支をみる投資キャッシュフロー(ICF=Investment Cash Flow)、その2つの合計のフリーキャッシュフロー(FCF=Free Cash Flow)を必ずご覧ください。これらの推移をレビューすることにより、事業の黄色信号はより簡単に、早く見つけることができます。ぜひとも試していただきたいと思います。

今回は、財務関連の定性的な観点から企業経営の黄色信号の見つけ方についてお話しいたしました。次回は、組織、人事、コミュニケーションなどに関してお話ししていきたいと思います。

■著者プロフィール
荻野 好正

おぎの よしまさ / 大阪府出身。伊藤忠商事(株)にて30年間勤務、曙ブレーキ工業(株)で15年間の役員勤務を経験。その後、海外を含む企業勤務・経営を通じて得られた企業経営のノウハウを中小企業、スタートアップの企業経営者に伝授することを目的に、企業経営者へのアドバイザリー業務を「CONCERTO」(個人事業)として立ち上げた。中小企業、ベンチャー企業の強化こそが日本経済を立て直す原動力になると信じる。静岡大学工学修士、米国シカゴ大学MBA。
 
CONCERTO
〒100-0005
東京都千代田区丸の内2-2-1岸本ビルヂング6F
https://c-concerto.com/

 
 

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