コラム
アウトドアのオリジナルグッズ開発を手がける、イナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。今回のテーマは、干潮時に、干上がった岩場や潮だまりにいる海の生き物を観察したり、それらと触れ合ったりする「磯遊び」だ。海の近くで暮らし、しばしば磯に足を運んでいる同氏が、磯遊びを楽しむためのポイントや注意点を解説する。
◎磯ではさまざまな生き物が見つかる
季節は夏真っただ中。今回の「大人のアウトドア考」では、磯遊びを取り上げたい。子どもの頃はよく磯遊びをした方も多いと思うが、大人になるとなかなかそうした機会も少ないのではないだろうか。子どもや孫と一緒にというのであればまだしも、大人だけでの磯遊びともなると極めて稀だろう。
しかし、私は自宅が海の近くにあるので磯にも時々足を運んでいる。海水浴を楽しむなら砂浜のほうが良いと考える方も多いと思うが、磯に行くとそこは生き物の宝庫だと感じる。地球全体の約7割が海であるのだから、自分が見ている磯などはそのごく一部でしかないだろう。
だが、そんな小範囲の磯においてもさまざまな生き物が見つかるのだ。子どもの頃であればカニやヤドカリを発見して小躍りしたものだが、大人になった現在ではそれぞれのカニの種類に興味を持ったり、「果たして食べられるのか」といった関心がわいたりするなど、もしかしたら、生き物に対する興味の持ち方が少し変わってきたかもしれない。
◎揺らぎと癒やし
約3億6千年前に初めて魚類から進化して人間の祖先が生まれたとされている説があるように、生物の進化を語るうえで海は切っても切り離せない。海を見ると何となく気持ちが落ち着くのはそのためだろうか。波の音や木の葉が風で揺れる音など、自然界の音や光は「1/fゆらぎ」と言われ、一定のようでいて実は予測できない不規則なこの揺らぎに、人は心を癒やされるという。
磯に行けば波の音が聞こえるし、水面の揺らぎが見える。潮だまりにいるイソギンチャクの触手が波に揺られるのを見るのも私は嫌いではない。これが本当に飽きないのだ。
昨今のキャンプブームで、たき火を眺める大人は増えている。火の揺らぎも水面と同様に見ていると心が癒やされるために人気なのだ。「キャンプといえばまずたき火」という方も少なくないようで、かくいう私もその1人かもしれない。「イソギンチャクなどを見ても心癒やされない」などと言わずに、ぜひ一度じっと見てほしい。バブルの頃を知っている方であれば、豪華な部屋には水槽がつきものだったことを記憶しているだろう(もちろん、今でも趣味で水槽を置いている方は大勢いらっしゃると思うが)。
個人的には自宅で海水魚の飼育をしたいのだが、面倒くさがりの性格のため水の管理などをできる自信がない。そのぶん、磯での水生生物の観察が他の人よりは好きなのは、おそらくそのこととも関係しているのだろう。
都会の海は透明度が少ないので、いま一つ磯遊びを楽しめないが、千葉県の小浦海岸や保田中央海岸、神奈川県の横堀海岸や大浜海岸など、少し街から離れるだけでかなりきれいな海と出合えるものだ。ぜひそのような海で、きれいな潮だまりや、波打ち際の岩についたイソギンチャクのゆらゆらとする姿を目にしていただきたい。
◎波打ち際を照らし出す謎のもの
今年の春先、とある島を訪れていた時のこと。深夜、一緒にいた方から「見ておいたほうがよいものがある」と呼ばれ、海岸に行ってみると、岩に打ち付ける波が青白く光っている。それはものすごい数で、小石の海岸までおよそ200~300mくらいの範囲にまで及んでいた。暗闇の中で光る虫、夜光虫(プランクトン)である。小石の海岸を歩くと、足跡とその周辺が青白く浮かび上がり、何とも不思議な光景を目にすることになった。きっと、海岸に打ち上げられていたのだろう。
夜光虫は刺激を受けると発光する。写真にも収めたが、フラッシュなどで明るくしてしまうと、残念ながらその魅力はまったく伝わらない。それくらい幻想的だったのだ。明るい所で見ると、夜光虫が大量発生したことで生じた赤潮だったのだが・・・。
暗闇の中に浮かび上がる青白い光――なんとも幻想的である。ちょうどその海は周囲に明かりが少ないために、それがよりいっそう際立って見えた。波打ち際が青白く光っている浜を歩くと、足跡とその周りも同様に光る。なんとも不思議な光景だ。
もうおわかりだと思うが、打ち上げられた夜光虫が人間に踏まれた刺激で発光するのである。それを知った仲間の1人が海に石を放り投げたところ、石の落ちた場所は波紋が青白く光っているのが見えた。それで私たちは楽しくなってつい、いくつもの石を海に投じるなど、初めて出合った夜光虫で存分に楽しませてもらった。ただ翌朝起きてみると、昨夜赤潮だった海面はすっかりきれいになっていたので、そう考えると非常に貴重なめぐりあわせだったのかもしれない。
◎磯遊びを楽しむための注意点
ここまで書いてきたように、磯遊びは楽しいものなのだが、転倒や波には気を付けたい。磯は思いのほか転倒しやすい場所なのだ。ぱっと見は乾いていて平気なように思えても、海藻などが付着している時はその下が湿っていたりして、運動靴などでは滑ってしまうのだ。
転倒した際に怖いのは、手をついた拍子に岩に付着しているマガキなどの貝のとがった部分で手を切ったりしてしまうこと。このような傷はなかなか治りにくく、ずきずきと痛む。楽しい遊びの時にこうした事態が起こると一気に楽しい気分が冷めてしまうので気を付けたい。
また、波にも注意しよう。何回かに一度、大きな波が訪れて思いがけず海に放り出されてしまう危険もあるからだ。どんなアウトドアも危険と隣り合わせであり、楽しむためにも最低限の安全対策は理解して遊びたい。
この夏は童心に帰って、ヤドカリを捕まえてみたり、イソギンチャクの触手が波に揺らぐ姿を眺めたりして、日頃の疲れを癒やしてみてはいかがだろうか。
森 豊雪 学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。 ※保有資格 ・NCAJ 認定 キャンプインストラクター ・JBS 認定 ブッシュクラフトインストラクター ・日赤救急法救急員他 ■企業情報 イナウトドア 合同会社 〒238-0114 神奈川県三浦市初声町和田3079-3 ■URL https://www.inoutdoor.work/ @moritoyo1 |