コラム
「海外展開を進めていくうえで、特に現地の人の気質やものの考え方が知りたい」。そんな声にお応えして、海外ビジネスの経験を豊富に持つ(株)サザンクロスの小田切社長が、世界各国の国民性を解説!より良い人間関係を構築することは、ビジネスの大きな成果へとつながるはずです。第4回は、前回に引き続き韓国人についてお話しします。
皆様、こんにちは。(株) サザンクロスの小田切武弘です。前号では、韓国でビジネスを行う際に留意しておきたい韓国人の特徴・気質について取り上げました。今回はそれを踏まえ、円滑にビジネスを進めるためにそれぞれの気質をどのように捉えて対応するべきなのか、どうすればお互いをリスペクトし合い、友好関係を深めつつ仕事ができるのかについて、私の考え方を申し上げたいと思います。
①仕事上における上下関係について
韓国では儒教の教えと、男性の場合には20歳前後で兵役の義務があるため、社会における上下関係がはっきりしていることを前号でお伝えしました。上位職の人にはもちろんのこと、自分より年長の人には敬意を持って接することが基本中の基本です。例えば、「年下の上司と年上の部下」という関係性の場合、立場的には上である上司も部下に対して丁寧な言葉使いで接する必要があります。これは日本でもある程度は同じなので、イメージしやすいかもしれませんね。もちろん、会社の方針に沿って業務を遂行することがビジネスの目的ですから、言わなければならないことや注意することがある時には、落ち着いて冷静にコミュニケーションを取らなくてはなりません。特に、日本人が現地法人の代表者で、年上の韓国人が役員である場合には、注意深く対話するべきでしょう。
日本人の上司は、日々笑顔を絶やさず自身の業務にまい進したり、他の社員より早く出社したりと、仕事に対する真摯な姿勢を見せると、自然と韓国人の部下と良好な人間関係を構築することができます。自ら胸襟を開き、物事の判断や決定を下す前に十分にコミュニケーションを取るように心がけていれば、その温かい気持ちは必ず伝わります。また、そのことにありがたみすら感じてくれる人が多いということも、私は韓国ビジネスを通じて体験してきているので、ぜひ実践してみてください。
②超学歴偏重社会
韓国の学歴社会は、かつての科挙制度の考え方を今でもそのまま引き継いでいるように感じます。勉強をして他の人より良い点数を取り、良い大学に行き、良い成績で卒業し良い仕事に就くこと。これがエリート人生の基本的な流れとなっており、余程の教育改革が起こらない限り、良くも悪くもこの風潮は続いていくでしょう。
そんな韓国におけるビジネスは、同じ大学を卒業した先輩、同期、後輩、あるいは同じ兵役の部隊や入隊年といったコミュニティを中心に回っていくケースが多いです。極端な言い方をすれば、仕事は組織で進めていくというより、人との横のつながりで進めていく傾向があります。故に、韓国人の方たちは面子やプライドを守ることを非常に重要視し、エリートの方であるほどその姿勢は強くなるのです。
私たち日本人が、この点を十分に想定し、納得したうえで彼らと向き合う際には、仕事における自分の信念、ポリシーを持ち、それを上手に表に出しながら相手に理解してもらうことが重要です。韓国人の超エリートの方は、幼少期から勉強一筋で歩んで来たぶん、中には社会人としてのコミュニケーションが苦手な方もいらっしゃいますが、相手へのリスペクトを忘れずに「自分はこういう考え方なんだ」ということを伝えられると、プライドを傷付けることなくビジネスを回せるはずです。
③ 仕事に対するスピード感
韓国における仕事に対するスピード感は、「過程」がともかく早く、ひときわ「成果」に重点を置いていることが多いと前号でお話ししました。特に、何か新しいビジネスを始めようとするときほど、この傾向が顕著になると私は考えています。
もちろん、仕事がスピーディであるに越したことはありません。むしろ韓国人のビジネスパーソンからすれば、日本人は会社の意思決定までに気が遠くなるほど時間がかかり、仕事も遅いと見られているかもしれません。しかし、韓国にも「サムスン」や「現代」といった大手企業があり、そこでの意思決定は日本同様、時間をかけて行われています。では、どこで風土の差が出ているのかと言うと、会社規模の分布です。韓国には一部の大手企業と、個人がオーナーである多数の小規模企業が存在し、その間となる中堅企業があまりありません。そのため、フットワーク軽く成果を追い求める小規模企業によって、素早い意思決定の雰囲気が醸し出されているのです。
大切なことは、私たちが韓国企業と何か新しいビジネスを始めたり、新商品を開発したりする場合には、予め検討項目やクリアすべき課題を列挙し、共有しておくということです。どれだけスピード感を持って仕事をしても、前のめりになって見切り発車をし、不良品ができあがるようなことになっては本末転倒ですから、落ち着いて話を進めていくようにしましょう。
③せっかちな一方で、時間にはルーズ
韓国人のビジネスパーソンは、仕事に対してせっかちな気質を持っている反面、時間にはルーズなところがあります。逆に日本人は時間を守ることへの意識が強いため、5分程度の誤差ならともかく、約束や会議に15分以上遅れるようなことがあれば、気持ち悪く感じる方が多いでしょう。しかし、韓国でビジネスを行う際には「時間のルーズさはある程度いたし方ないことだ」と懐を深くして、歩み寄る姿勢を見せることも大切だと私は考えています。特に相手がバイヤー側の立場であれば、たとえ時間に遅れてきたとしても、不快感を露骨に表すようなことは避けたいところです。
時間に対する意識の差を埋める最も効果的な方法は、リマインドをしてあげることです。待ち合わせや会議の1時間か2時間前までに直接、電話をしてスケジュールの共有をしておく。手間に感じられるかもしれませんが、このたった1つの作業で遅刻は激減するので、ぜひ試してください。
⑤ 契約書に対する考え方
韓国は儒教の教えに影響された「徳治主義国家」であることを前号でお話ししました。つまり、法的な拘束力が日本と比べると弱いのです。本来、ビジネスを行ううえで契約書は最重要書類ですが、韓国では契約納期までに製品が出荷されなかったり、資金がショートしたりという状況が発生した場合、契約書を反故にされてしまうケースも往々にしてあります。自分たちの立場を守るためにも、全額かどうかはケースバイケースとして、基本的には入金確認後にアクションを取るスタンスを崩さないことと、取り消し不能信用状での決済にすることが、韓国でビジネスを行う際の最良の落としどころだと思います。逆に、掛け売りは最大限回避することを推奨します。
まとめ
いかがでしたでしょうか? 今回お話しした内容は、他の国とのビジネスにおいても応用できるかと思います。国際ビジネスを進めていく際には、まずはこちら側が胸襟を開き、真摯な姿勢で信頼を積み重ねつつ対応していくことが基本です。
次回は海外ビジネスの1つの柱となる、アメリカ人気質とアメリカでビジネスを行う際に留意すべきポイントについてお話ししてまいります。どうぞお楽しみに。
株式会社 サザンクロス 代表取締役社長 小田切 武弘 海外志向が強く、学生時代に海外留学を経験。学業修了後は、大手電気機器メーカーや飲料・食品メーカー、総合商社など数社にわたって、米国、インド、韓国、東南アジアといった諸外国に駐在。その中で、海外でのビジネスに苦戦する日本企業の存在を知り、自らのノウハウを提供したいという思いが芽生える。2017年7月7日、企業の海外展開をサポートする(株)サザンクロスを設立した。 http://sc-southerncross.jp/ |