コラム
ストレングスコーチ・経営戦略コンサルタントの壁山恵美子氏は、大学院在学中から個人事業主となり、芸能界・出版業界など多くの業種を経験。30歳で転職した上場企業ではスピード出世を果たすなど、さまざまなビジネスノウハウを蓄積してきました。本連載ではそんな壁山氏が「マネジメントのヒント」や「現場でのコミュニケーション術」をお伝えします。第6回目のテーマは、前回のリモートワーク(遠隔)でのマネジメントにおけるコミュニケーションの続きになります。
コロナ禍の状況が半年以上過ぎました。「新しい生活様式」同様に、「新しいワークスタイル」が当たり前のように確立しつつあります。前号までは、コロナ禍の職場でのコミュニケーションについてお伝えしてきました。今回は、最近の実体験からコロナ禍で実施した企業内でのコミュニケーション研修と、教育研修の今後のあり方についてお伝えします。
延期続きだった企業内の教育研修がようやく始動
企業では、何かしらの社会的事象があると、優先順位がどうしても変わってきます。特に、CSR・コンプライアンス・情報セキュリティ・リスクマネジメント・教育研修といったものは、企業としての事業継続に重要な取り組みであるのは理解されていても、実際には予算を削らざるを得ない、もしくは後回しにされがちなのが現実です。私も会社員時代、情報セキュリティのマネジャーを担当し、現在のお取引先様の企業内では、教育研修などの仕事に携わっています。その中で、幾度となく予算が削減、また各部門の年度計画がそのまま遂行できずという経験をしてきました。
今回のコロナ禍においても、教育研修は4月以降延期せざるを得ないという経営判断となった企業が多数でした。そんな状況から、ようやく9月になって、リモートワークと職場に出勤する社員のバランスを構築し、新しいワークスタイルが確立してきて、延期、保留となっていた業務がゆっくりと戻ってきていると感じています。教育研修も、「そろそろやるべき」「ようやく遠隔での研修方法が確立できた」など、さまざまな理由で半年遅れのスタートとなりました。
今までなかった新しい発見
徐々に、リモートでの教育研修が始まったのは嬉しいことです。しかし私の場合、研修テーマが「コミュニケーション」なので、今までどおりというわけにはいきません。事前に担当者と打ち合わせながら、研修のゴールや内容を変えずに開催するには、どうしたら良いか模索する日々を送っています。というのも、リアルでの人と人との会話をメインとした「コミュニケーション」と、画面で顔を見る「二次元=平面」の「コミュニケーション」とでは、同じ「コミュニケーション」であっても違いが多すぎるのです。リモート研修になると、今まで教示していた「コミュニケーション」方法を体感させていく実践ワークが、まったくできません。加えて、従来の時間ではカリキュラムが収まらない問題もあります。通信環境の違いで、一つのリアクションに時間がかかるからです。リアルで行う研修の2~3割程度、多くは5割を削ってカリキュラムを実施しなければなりません。
そうして行った今回の研修では、新しい発見がありました。リアルで感じていた肌感覚で感じ取る、いわゆる「相手の空気を読んで対話する」というコミュニケーションは、リモートでのパソコン画面上を通しての対話では不要かもしれないと思ったのです。不要というよりも、視覚で感じ取るコミュニケーションが、必然的に「できない」といったほうが良いのかもしれません。
ある講習では、通信回線の速度の問題で、画面に顔を表示して全員がつなぎっぱなしにしてしまうと、回線が瞬断してしまうリスクがありました。そこで、受講者の皆様には声だけで参加してもらい、講師のみが投影資料と交互に顔を見せながら話し、講師もほとんどビデオ機能を切った状態にしたのです。すると、後日のアンケートで「講師の映像が流れると、自宅の通信回線が遅延するので講師の顔も不要」という、講師としてはちょっとショックな意見がありました。今まで当たり前だったリアルな研修では、ずっと講師が登壇している状態で、受講者は講師を視覚でとらえながら講義を聞き、実践ワークでは隣席の方やグループ内のメンバーと話し合っていました。一方リモート研修では、相手の顔や目を見て対話するということがないため、視覚から入ってくる情報が遮断されています。受講者側はその方法が「最善ではない」としても、コミュニケーションとして「問題はない」と感じて受講していることが、私としては新鮮な結果だったわけです。
リアルorリモート、今後の企業での教育研修のあり方
相手の顔など視覚情報がなく対話をするということは、動画や映像が当たり前の時代となった現代において、少しだけ過去に戻った感じがしています。要するに、研修を耳だけで聞いて受けるのは、電話をしているのと同じ行為です。もしかすると、これはラジオ学習と同様の感覚ではないでしょうか。このような教育研修となった企業のコロナ禍の研修、今後はどうなっていくのでしょうか。
ここ半年以上、リモートでのセミナーや研修をしていてわかったことがあります。すべての研修がリモート開催することは可能でも、研修の目的の達成という観点では、すべての研修をリモートにはできないということです。しかしながら、実際にコミュニケーションが苦手な受講者にとっては、「顔を出さずにお互いに受講できるので討議がしやすい」という意見が出ていました。そこから気が付いたのは、リモートでの研修のメリットとは、普段コミュニケーションが苦手な人でも積極的にグループワークに取り組める機会を持つきっかけになっているということ。「顔を合わせず、遠隔で、言葉だけであれば話しやすい」。そんな意見を目の前にして、これからは「コミュニケーション」と、概念そのものを再定義する必要があるのだと思いました。リモートで、どこまでより良いコミュニケーションができるのだろうか。そんな疑問も残ってはいますが、新しい職場のコミュニケーションのあり方を模索する機会になっているのだと思います。
今回はここまでです。次回も自分自身の体験や実践を交えて、お話をしたいと思います。
ご質問、ご相談をいつでもメールで受け付けしています。いただいたご質問はできるかぎりコラム内でお応えしていきたいと思いますので、お気軽にご連絡ください。ご意見・ご感想もぜひいただけると幸いです。少しでも皆様のお役に立てるコラムにしていきたいと思いますので、引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。
壁山 恵美子(かべやま えみこ) 株式会社 ブレインスイッチ 代表取締役 YAMA HOTEL & ROOFTOP BAR(ミャンマー/ヤンゴン) Chief Information Officer(CIO) イベント・出版業界を経て、ソフトバンク(株)に入社。情報セキュリティおよびリスクマネジメントを専門分野とするグループマネジャーとして業務に従事。その後、J-SOX、IT統制、システム監査等の経験を経て独立。現在は、上場企業の経営企画部門およびPR・マーケティング戦略などのコンサルティングに携わる。また、中小企業の経営者向けコンサルティングや人材育成の研修カリキュラム開発なども展開。さらに、YAMA HOTEL & ROOFTOP BAR(ミャンマー / ヤンゴン)にてCIOとして人材育成をする傍ら、ミャンマー進出コンサルタントとしても活動。Gallup認定ストレングスコーチとして、組織のマネジャーなどにコーチングおよびコーチング型マネジメント手法を指導している。 ※保有資格 ・Gallup認定ストレングスコーチ ・Tony Buzan公認 マインドマップ・インストラクター ・Peter Walker氏 公認 ベビーマッサージ&ベビーヨガインストラクター ・高等学校教諭第Ⅱ種(公民)免許 URL https://brainswitch.jp/ 個人Webサイト https://kabeyama.jp/ Facebook https://www.facebook.com/kabeyama/ Instagram @kabeyama Twitter @Kabeyama_Emiko 個人事業主様のためのビジネスオンラインサロン 「ビジネス相談室」を開催中。 ご希望の方はメール等でお問合わせください。 |
<< Part5 リモートワークにおける・・・|Part7 自分の「強み」・・・ >>