コラム
「海外展開を進めていくうえで、特に現地の人の気質やものの考え方が知りたい」。そんな声にお応えして、海外ビジネスの経験を豊富に持つ(株)サザンクロスの小田切社長が、世界各国の国民性を解説!より良い人間関係を構築することは、ビジネスの大きな成果へとつながるはずです。第1回はタイ人についてお話しします。
国民気質を学び、
相互理解を深めよう
皆様、こんにちは。(株)サザンクロスの小田切武弘です。「COMPANYTANK 2020年5月号」まで、2年余りにわたって「海外進出成功への道」と題し、さまざまな切り口から皆様の船頭役となるべく日本から海外へのビジネス展開におけるコラムを連載してきました。連載期間中、ローカルスタッフへの接し方や、仕事の依頼の仕方、スムーズなコミュニケーションの取り方などのお問合せを継続的に受けてきました。
そこで新連載コラムでは、皆様から多く寄せられた、それぞれの国のローカルスタッフといかに信頼関係を構築して、ビジネスに良い影響を与えることができるかというようなアドバイスを行っていきます。企業として一番大切な「人」との関わり合いの部分をうまく回せるか否かが、海外ビジネスを成功に導く最も重要なポイントの一つです。少しでも皆様のお役に立てればと思います。
なお、本連載コラムにおいては、それぞれの国民気質についての良し悪しを述べたり、批判をしたりするような意図は一切ありません。あくまで日本人と似通っている点、あるいは異なる思想や習慣を尊重し、相互理解を深めるべく論じていくことが大きな目的です。また、一口に「○○人」と言えども、老若男女、生い立ちや教育、住んでいる環境でも人それぞれ違います。あくまで最大公約数的なくくりであることをご理解ください。
意外に知らない?
日本とタイの密接な関係
第1回は、皆様からの要望が最も多かったタイ人気質について考察していきます。日本とタイ両国の交流はとても盛んです。いくつもの日本企業がタイに進出し、多くの日本人が仕事をし、生活をしています。日本の外務省が発表している海外在留邦人数・進出日系企業数の調査結果(平成30年要約版)を見ても、平成29年10月1日現在、タイにおける日経企業の拠点数ならびに、長期滞在の日本人(永住者を除く)の数は、世界で4番目に多いことがわかるわけです。
とは言え、両国の国民性は、あまり似通っていないと思われます。ここから言えることは、日本にいたときと同じような感覚や言動でビジネスを行えば、さまざまな誤解や行き違いから、タイ人スタッフとの間に多くの問題点が噴出しても不思議ではないということです。
では、タイ人と円滑なビジネスを行うためには、どうすればいいのでしょうか。その答えを探るためには、まず相手を知ることが大切です。ビジネスに関わる際の主なタイ人気質について、以下いくつか列挙しました。
① 仕事の進め方
ビジネスシーンでよくある、何か期日までに与えられたテーマで報告書を提出してもらうことを想定してみましょう。日本人の場合、提出日から逆算して、いつまでに何を調べ、何をするか考えて作業を進めるのが通常の手順です。さらに言えば、まず報告書のおおまかな骨子とストーリーを固めていき、必要に応じてノートにメモを取り、重要事項や予定を記入、定期的に進捗状況などのいわゆる「報・連・相」を上長に行います。
一方でタイ人の場合、日本人が持っている几帳面さや細かさの部分は、あまりないと思われます。彼らは頭ではいろいろと考えを巡らせてはいるものの、ノートに細かく作業予定や重要事項はもちろん、普段からメモを書き込むことはほとんどありません。なぜならば、途中経過やストーリーはともかくとして、期日までに完成していれば良いという部分を重要視しているからです。よって、タイ人スタッフは決められた期日ギリギリで報告書をつくり上げる場合がほとんどでしょう。
② 時間に対する捉え方
バンコク市内ではBTS(BANGKOK MASS TRANSIT SYSTEM)というバンコク高架鉄道と、MRT(MASS RAPID TRANSIT)という地下鉄が交通の要になっています。多くのビジネスマンが通勤手段として利用しており、概ね定刻どおりに運行しているような状況です。ただ、バンコク市内を走るバスやタクシー、あるいは自家用車で移動する場合、それとは事情が異なります。というのも、朝夕のラッシュ時間帯はもちろん、最近は昼間であっても慢性的に渋滞が発生している状況です。この点は日本の交通状況と似ていますよね。皆様だったらどうしますか?おそらく、渋滞する時間をあらかじめ計算に入れて、早めに事務所や自宅を出る方が多いかと思います。
ところが、①でも触れましたように、タイ人は時間を逆算するような習慣はあまり持ち合わせていません。また、たとえ時間に遅れてきても謝罪の言葉はあまり聞きませんし、そもそも遅れそうな場合に事前連絡が来ることもほとんどないです。
③ 叱り方
筆者の体験談をご紹介します。かつて会社員時代に、自分のミスで失敗を起こし、他の社員のいる前で上司から大声で怒鳴られたことが何度かありました。そのときはどうして自分が怒られているのかを考え、今後どのようにすれば良いのか、あれこれ改善策を思い浮かべながら上司の前で頭を下げたものです。自分が怒られていることが周りの人からすべて見られているので、恥ずかしい気持ちになりましたし、当然プライドはずたずたになりました。ただ一方では、「この悔しさをバネにして、もっと頑張ろう」と、奮起する良い機会だったとも思っています。
タイ人スタッフに対して、公衆の面前で恥をかかすなどその人のプライドを傷つけるような叱り方は、決してなさらないことが懸命でしょう。なぜなら、タイ人は極めてプライドが高いからです。男女を問わず、自分は他人からどのように見られているのだろうか、ということに常に気を使っています。
④ 転職に関する考え方
昨今、日本でも以前ほど会社に対する深い忠誠心を持つ人や、終身雇用にこだわる人は少なくなってきました。とは言え、まだまだ大多数の方が、今いる会社でキャリアを積み上げて定年まで迎えたいというふうに思っていることも事実です。今の自分は良い会社で仕事ができて幸せであり、他の社員や、違う会社で働いている自分の大学時代の友人たちが果たして毎月いくらもらっているのかということは、それほど気にしていません。
一方でほとんどのタイ人は、転職を繰り返していくことで自身の給与面でのスキルアップと経験値、ポスト上昇を狙う気持ちを絶えず持っています。同僚との給与の相違や、他社の給与水準を常に意識していて、自分の考えや条件に合う場合には、スパッと転職をする傾向が強いです。
いかがでしたか。考え方や、会社や仕事に対する捉え方にずいぶん違いがあったかと思います。まだまだタイ人気質の特徴はあるものの、今回はここで終えます。
次号では、今回紹介した4つの代表的なタイ人気質を踏まえ、どのように考え、どのように対応していけばより相互理解ができ、お互いの信頼感や友情が高められるか。そして、会社としてより発展していける重要な部分になるのかを中心に展開していきます。どうかお楽しみに。
株式会社 サザンクロス 代表取締役社長 小田切 武弘 海外志向が強く、学生時代に海外留学を経験。学業修了後は、大手電気機器メーカーや飲料・食品メーカー、総合商社など数社にわたって、米国、インド、韓国、東南アジアといった諸外国に駐在。その中で、海外でのビジネスに苦戦する日本企業の存在を知り、自らのノウハウを提供したいという思いが芽生える。2017年7月7日、企業の海外展開をサポートする(株)サザンクロスを設立した。 http://sc-southerncross.jp/ |