コラム
アウトドアのオリジナルグッズ開発を手がける、イナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。9月1日は「防災の日」。世界有数の災害大国といわれている日本で暮らしていく以上、「防災」の意識は常に持たねばならない。命を脅かす危機にひんしたとき、まずどんな行動をするべきなのか。今回は緊急時において生き抜くための大事なポイントについてお話しする。
◎あなたは災害に備えていますか?
読者の皆さんは「防災」について、普段からどのくらい意識を持たれているだろうか。大きな災害に遭われた経験のある方は、特に意識されているのではないかと思う。(実はこのコラムを書いている今、九州で大変な豪雨災害が起きている。被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます)。私自身、被災地でのボランティア経験はあるものの、自らが避難所生活をするなどの災害に遭ったことはないので、備えは十分ではないと思っている。今回のコラムタイトルにサバイバルと書いたのは、災害時の生き残りも一つのサバイバルと捉えることもできるのではないかと思うからだ。
日本では、各種の災害に見舞われることは決して少なくない。これまで震災や水害などによって被害を受け、そのたびに避難生活を余儀なくされ大変な苦労をされた方も多いと思う。もちろん、被災を教訓に国としても、建築基準法などの法整備や地域でのハザードマップの充実など防災・減災に向けての体制づくりを進めてきている。ただ、やはり大切なのは一人ひとりの備えである。その中でも、「心の備え」が何よりも大切ではないだろうか。
「心の備え」として一番大切にしてほしいのは、「生き抜くことを諦めない」こと。突然襲ってきた非日常的な現実に「そんな気持ちの余裕はない」と思うかもしれない。私は、無人島サバイバルの研修に行ったことがある。水も食料もないときに頼れるのは、自分自身が生き残るという強い意志と、それ以上に一緒に協力していく仲間の存在だ。「自分自身が生き残る」と聞くと、他の人を蹴散らすととられるかもしれない。そんなことをすれば、その瞬間には生き残れたとしても真の意味での生き残りはできないだろう。一人で生き抜くのではなく、多くの方々と生き抜くのだ。そのことを決して忘れてはいけない。
◎3分、3時間、3週間
自分が生き残るために取るべき必要な行動というのは、実のところ絞られてくる。というのも、サバイバル時には必要な優先事項がある。そして、この優先事項が意識できているだけでも、「心の備え」に大きな違いが生まれるはずだ。
具体的に掘り下げていくと、最優先事項は空気(酸素)の確保である。とは言え、よほどのことがない限りは空気のない場所に身を置くことはないだろう。二番目は「体温の維持」である。体温の維持が空気の次ということに驚きを持たれるかもしれない。だが、低体温症や熱中症にかかると人の容体は急変してしまう。適切な体温を保てていない状態では、たったの3時間しか生きられない。それだけ体温を維持することは、命にかかわる重要な項目だ。だから、とにかく体温を維持するために早急に対応を講じてほしい。
そして、次には飲み水の確保だ。人間が水をまったく飲まないで耐えられるのは3日間と言われている。救出関係の報道でご覧になることも多い「72時間」の数字は、これを根拠とし、3日後からは一気に生存率が低くなってしまうことを表す。ただ、完全に孤立しているような状況にでもならない限りは、いずれ給水車などの手配がされるので慌てる必要はない。無駄な体力の消費は避けるべきだ。
食料の確保は、上記3つの問題をクリアした後で行えば良い。というのも、人は水分だけで3週間生き延びることができるからだ。もちろん、激しい運動などをすれば、それだけエネルギーを消耗してしまうので、できるだけ無駄な行動は避けたい。ライフラインが止まるのと、トイレが使用できなくなるケースもあるだろう。これも重大な問題だ。しかし、そもそも食事ができなければ排泄物も少なくて済む。
◎創意工夫で困難を乗り切るべき
非常時の持ち出し袋を用意されている方も多いと思う。急いで避難の必要に迫られたときは雨が強く降っていたり、足元が悪かったり、子どもなどの手を引いて移動しなければならなかったりすることが考えられる。よって、両手をあけるためにも持ち出し袋はリュックサック型が有効だろう。入れておくものは、持ち運ぶことを前提に考えるべきだ。重たいうえにかさ張る水は必要最低限で良いだろう。また、使い道が一つに限定されてしまうものは極力避けたい。例えば、ビニール袋はゴミを入れることもできるし、湯煎での調理にも使える。また、中に枯れ葉など軟らかいものを詰め込んでクッションなどとしても利用可能だ。
非常食は、なるべくおいしく食べられるものを用意しておくことをお勧めしたい。「ローリングストック」という言葉がある。回転という意味の“ローリング”と備蓄という“ストック”が由来で、要するに備蓄していた非常食などを定期的に食べては補充していくという考えだ。食料というものは単に空腹を満たすだけなく、心の癒やしにも大変重要だと思っている。それだけに、おいしく食べられるものを備えておきたいものだ。
このようなことを知っておくだけで、被災時の心構えは大きく違ってくると思う。ぜひ、避難経路の確認はもちろん、いつ避難するかの判断や、自宅で電気のブレーカーを落としたり水道を使わないでみたりなど、ライフラインを遮断した状態での備えを考える機会を設けてみてはいかがだろうか。万が一に備えて各ご家庭での自主訓練をお勧めしたい。
森 豊雪 学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。 ※保有資格 ・NCAJ 認定 キャンプインストラクター ・JBS 認定 ブッシュクラフトインストラクター ・日赤救急法救急員他 ■企業情報 イナウトドア 合同会社 〒238-0114 神奈川県三浦市初声町和田3079-3 ■URL https://www.inoutdoor.work/ @moritoyo1 |