コラム
昨今の「キャンプブーム」の影響もあり、アウトドア業界は大いに賑わいをみせている。プライベートの充実が、仕事の活力につながることは、多くの識者からも説かれていること。そこで、アウトドアのオリジナルグッズ開発を手掛ける、イナウトドア(同)の森豊雪代表による、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラムをスタート。初回のテーマは「秘密基地」。ある土地を手に入れた代表が、童心に返って夢中になった基地づくりの顛末とは――。
こんにちは。イナウトドア(同)の代表を務める森豊雪と申します。「躍進企業応援マガジンCOMPANYTANK」2019年3月号に対談記事を掲載してもらい、2019年7月号からコラムの連載を担当することになりました。まずは、簡単に自己紹介いたします。
私は高校卒業後、エネルギー関連の製造業に37年間勤め、2018年に退職して現在の会社を立ち上げました。アウトドアは趣味で嗜んでいた程度で、人脈があったわけでもありません。そんな中でスタートした会社でした。このことを知った方には、いつも驚かれます。あと数年で還暦というところでの転身でしたから、無理もないですよね。でもせっかくの人生なのだから、これまでに経験したことのない世界で自分を試してみたかった──。今は新鮮な気持ちで日々を送れています。
◎ 秘密基地で遊んだ少年時代
さて本題に入りましょう。秘密基地についてです。今回、なぜこのテーマを選んだか。コラムを本誌に書かせて頂くにあたって、日々忙しくしている経営者の方々に、少しの清涼剤にでもなればという願いを込めての選択でした。楽しんで頂ければ幸いです。
皆さんは秘密基地と聞いて何を思い浮かべますか?「特撮番組の戦隊ヒーローものに出てくる」と思う方もいるかもしれません。それとは別に、「子どもの頃によくつくって遊んだよ」という方も大勢いると思います。そんな私も子どもの頃、近所の山中にある岩陰などに秘密基地づくりをした1人です。
私が子どもだった昭和40年代、日本は高度成長期を経て、安定成長期に移行しつつありました。とは言え、生活水準は今のようなレベルではなく、玩具も今のように高価ではありませんでした。
当時、私は自分でこしらえた秘密基地に出掛けては、鍋に入れたスナック麺を、ロウソクを使って茹でたらラーメンにならないかと試したり、廃棄されている機械を拾ってきて、なんとか動かせないかと分解してみたりしていました。決して裕福な家庭の子どもがするような遊び方ではないけれど、常にワクワク感がありました。
◎ 土地を購入。秘密基地をつくろう
2014年頃のことでした。街中でとある不動産屋の広告掲示板が目に入り、それとなく眺めていると、思わず言葉が出てしまいそうな、心躍る売り地を見つけました。その数日後には不動産屋さんに案内してもらい現地に。そこで目の当たりにしたのは、まさに篠竹の原生林かと思うほどの場所。足を踏み入れることも容易ではありません。
それだけに、この土地を切り拓けば竹に囲まれた秘密基地ができると確信したんです。一方の不動産屋さんは私に、「こんな土地を買ってどうするのですか?」と売り手らしからぬ質問をしてくる(笑)。私は答えました。「マイキャンプ場、それか秘密基地です」。不動産屋さんは驚き、内心では変なお客さんだと思っていたに違いないでしょう(笑)。
私はそんなことはお構いなしに、竹をかき分けて竹林に入っていきました。不動産屋さんは「入るのは初めて」とのこと。竹林の内部は日が差し込まないため、立ち枯れしている竹もあり、それを手で折りながら道をつくりました。その頃には自分の気持ちは完全に固まっていましたね。自分の土地であれば、子どもの頃とは違って公共の場を使うのではないから、誰にもとがめられずに秘密基地がつくれる──。考えただけでウキウキしてきました。
私は程なくして不動産屋さんと売買契約を締結。その土地を晴れて自分のものにしたのです。それ以降、私は暇さえあればそこに通い、竹を切り続けました。初めのうちはノコギリを使っていましたが、約500坪の土地にびっしりと生えた竹を全て切るには、あまりにも効率が悪い。そこで、エンジン式の刈り払い機も導入しましたが、これが大正解でして。気持ちよいほど効率的で、無心になって竹を切り続けました。
それにしても、竹を切るだけの作業がどうして楽しいのかと疑問をもたれる方もいるでしょうね。自分にもはっきりとは分かりません。ただ思うのは、自分の秘密基地が出来上がっていく様を、竹を切り倒すたびに実感できたからではないかということです。
密集した竹の林の中に人が1人通れるだけの道をつくり、突き当りには、ソロキャンプができる程度の空間を設けました。そこから見上げると、竹に囲まれた視界の先に、空がはっきりと見える。林の中からきれいな空を見上げられるのは、私のつくったその空間だけ。今までの苦労が吹っ飛び、満たされた気持ちになれた瞬間でした。
◎ 天然のビオトープ
その後は、カブトムシの幼虫のすみかをつくろうとか、小さな池をつくってタガメやミズカマキリなどの水生生物を住まわせようなどと、生物の住む空間、ビオトープをつくるためのさまざまな妄想をしました。もともとこの土地は、海で繁殖して陸地で生きるアカテガニとサワガニが一緒に生息しているような不思議なところでした。私はここでビオトープを完成させたら、賑やかでとても素敵だろうと、想像をめぐらせて楽しんでいたのです。
2019年春、我が秘密基地を訪れると、少し水はけが悪い土地だったため、水溜りができていました。排水させるために水の通る道をつくろうと考えつつ、ふと水溜りを覗くと、そこには水面を移動する無数のアメンボ、そして水中にはたくさんのオタマジャクシが泳いでいるではないですか。労せずしてビオトープができていたのです。ビオトープは人間の手の入っていない自然な状態がもっとも望ましいものです。だから、そのままにしておくことにしました。自然の力を借りて、我が秘密基地は手を掛けずに育ってくれそうです。
大人が楽しめる秘密基地。馬鹿げているようではありますが、大人になると失ってしまいがちな、ワクワクする瞬間を取り戻すひとつのきっかけになるかもしれません。皆さんも、童心に返って遊んでみてはいかがでしょう。
森 豊雪 学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、自然保護のボランティア活動に注力している。 ※保有資格 ・NCAJ 認定 キャンプインストラクター ・JBS 認定 ブッシュクラフトインストラクター ・日赤救急法救急員他 ■企業情報 イナウトドア 合同会社 〒238-0114 神奈川県三浦市初声町和田3079-3 ■URL https://www.inoutdoor.work/ @moritoyo1 |