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コラム

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一般向けに広く販売されるようになった2010年頃を境に、急速に認知度が高まった「ドローン」。社会現象とも言えるブームが巻き起こった後、法整備による規制が進むにつれて一過性の熱は収まりつつあるが、そんな今こそビジネスチャンスと考えて多角的なドローン事業を展開しているのが、(株)センシンロボティクスだ。「ドローンによってできること、できないことが明らかになったとき、そこに最適なソリューションを提供するのが自分たちの役目」──そう語る出村社長の視界には、あらゆる業務が自動化された先進的な未来がはっきり捉えられていた。


  

さまざまな産業の隆盛を肌で感じ続けた半生

2016年4月、(株)ブイキューブの新規事業として立ち上げられた(株)ブイキューブロボティクス。同社の代表取締役に就任したのが、出村太晋氏である。同氏の幼少期から現在に至るまでの半生は、まさに数多の産業の隆盛を間近で体感し続けるものだった。

「私は石川県の金沢市で、化学繊維事業を営む家に生まれました。金沢は昔から繊維業が盛んな地域で、自宅の周りにも繊維関係の会社がたくさんあって。家族が食卓を囲む中で、祖父や父は事業の話をしていましたし、好調だった時代も、繊維業が海外生産へシフトして不況になった時代も、全部見てきたんです。そういった環境で育ったので、自分で事業を手掛けることを当たり前のように感じていたのかもしれません。

私自身、1人でいろいろやってみたいという独立心を強く持っていたので、高校進学を機に上京して、1人暮らしを始めたんです。しかし、大学までいわゆる“エスカレーター”で進める学校に入学したことから気が緩み、大学3年生の頃までは勉強に身が入らなくて(笑)。このままではいけないと奮起し、学内一厳しいと評判だったゼミに入って計量政治学を学びました。これは投票行動などを数値化していく学問なのですが、今になって思い返すとマーケティングの考え方に通じるところがあり、この時に素養を身に付けられたのは大きかったですね」

そうして学業を終え、総合電機メーカーに就職した出村氏は、当時ちょうど黎明期に差し掛かっていた携帯電話事業に携わり、世の中が劇的に変化していく様を目の当たりにすることとなる。

「私が電機メーカーに新卒で入社した1995年は、ちょうど携帯電話の通信が自由化され、一般に広く売り出され始めた時期でした。その中で、私は商品企画やマーケットリサーチの仕事を担当し、爆発的な速度で携帯電話が普及する過程を間近で見ることができたんです。そして、通信環境が整い、NTTドコモの『iモード』なども出てきて──テクノロジーが進化するとともに世の中がどう変化していくのかを学べた、貴重な時間だったと思います。

その後、どんな分野でも通用するスキルを磨くべくコンサルティングの会社へ転職し、今度は光ファイバー事業の立ち上げなどに携わりました。そこでも、ADSL時代には不可能だった動画配信や、通信コストの大幅削減といった革新を肌で感じることができて。そうする中で、1つの産業が興り、成長していく雰囲気を敏感に察知する能力が身に付いていったんです」
 

強い魅力と可能性を感じドローン業界へ

その後さらにキャリアアップを重ね、(株)リクルート(現:リクルートホールディングス)に入社して中途採用事業に携わっていた出村氏の運命は、ある人物との出会いをきっかけに大きく動き出していく。

「ある時、Web会員のシステムを用いて会社説明会を行うという新規事業を立ち上げることになり、それを推進する中で出会ったのが(株)ブイキューブの間下社長でした。最初はSNSでたまに連絡を取り合うくらいの縁だったのですが、それからしばらく経った2015年10月頃、一緒に食事をする機会があって。そこで彼から、ドローン事業立ち上げに伴い新会社(株)ブイキューブロボティクスを設立するという話を聞き、翌年1月に社長就任を打診されたんです。

当時私は、グリー(株)でゲーム以外の新規事業の統括・管理の責任者をしていたのですが、そろそろ自分の力で事業を手掛けたいと思っていた時期だったため、タイミングとしては悪くありませんでした。そして何より、ドローン産業の現状が、私がかつて隆盛を見てきた携帯電話や光ファイバーの流れと非常に似ていることに強い魅力を感じたんです。2015年は、小型ドローンが首相官邸に落下する事件があり、それを機に法整備や規制が進んだ年でした。さまざまな課題が明るみになったことで、ブームに沸いていた人々のドローンへの期待値は次第に下がっていきました。しかし、解決すべき課題が見え、改善に向けて業界内が動き始めるこのタイミングこそ、産業が最も成長し始める転換期なんです。携帯電話も、バッテリー不足や不安定な通信状態により期待値が下がる時期があり、それを経て改良を重ねていった結果、今では誰もが必需品として持ち歩くようになりました。それと同じように、ドローン産業もきっと発展していくと確信したため、リスクを負ってでもその中心地に立とうと、社長就任を決意したというわけです」

かくして、(株)ブイキューブロボティクスの代表取締役に就任した出村氏は、ドローン業界における自らの立ち位置とミッションを明らかにした上で、多角的な事業展開へと踏み出した。

「ドローンは今、大きく分けて2つの方向で進化しています。1つは、ドローンタクシーをはじめとした人間や重量貨物を輸送するための大型ドローン。もう1つは、高精細カメラを搭載し、長時間にわたって飛行して情報を取得する小型ドローンです。

それぞれ日々改良と進化が繰り返されていますが、それは結局のところ『ドローンの機体をどうつくるか』の問題であって、当社はメーカーではないので関わる角度が異なります。では、私たちが何に取り組んでいるかと言うと、『開発されたドローンをより効果的に使用するにはどうすれば良いか』を考え、そこに対して最適なソリューションを提供することなんです」

出村氏はさらに、これから特に注力していく分野として「設備点検」「災害対応」「警備・監視」の3つを挙げ、具体的な事業プランについても語ってくれた。

「当社は自動化・汎用化をキーワードにしており、それによってあらゆる業務の省略化・無人化を目指しています。設備点検の分野ではすでに太陽光発電装置の点検パッケージを展開しており、こちらは点検箇所を定めた後のルート算出からドローンによる点検、異常検出、レポートの作成まで全てを自動で行っています。また、現在は鉄塔のような3次元構造物の点検にも応用できるよう、改良を進めているところです。

災害対応の分野では、南海トラフ地震を想定し、大地震が発生した直後にドローンが津波の状況を自動で確認しに行くシステムや、災害後の状況確認や呼びかけを行うドローンを基地局、消防署、警察署とつないで、リアルタイムで避難指示などの判断ができるツールを開発しています。

そして警備・監視の分野では、ドローンが監視員や固定カメラに代わり、特定エリアを赤外線カメラで死角なく監視するシステムを開発中です。こちらは、作物を荒らす鹿や猪などの害獣対策にも応用できると思っています。近い将来、ドローンが自動であちこちを飛行している日がやってくるでしょうから、それまでにできるだけシステムの質と精度を上げていくというのが、私たちの目標です」
 
 

1. 仙台市、(株)NTTドコモ 東北支社と共同で2018年3月に行われた、「ドローンを活用した津波避難広報の実証実験」の様子。Jアラートメールを受信するドローンによる自動離着陸・自動航行・避難広報の他、遠隔地からの避難呼び掛けも実施された
2. ドローンを用いた太陽光発電施設点検パッケージ「SOLAR CHECK」のサービス提供イメージ。赤外線サーモグラフィーカメラを搭載したドローンによる太陽光パネルの撮影から、画像解析、異常パネル検出および点検結果レポートまでを全自動で行える
3. ドローンの自動離着陸や自動充電に対応する「DRONEBOX」。リアルタイム映像コミュニケーションサービス、画像認識・解析サービスなどとの組み合わせで活用の幅が広がり、さらに本体に組み込まれたコンピューターによる高度な情報処理も可能だ

 
 

「センシン」の中に無数の信念を込めて


2018年6月、同社は社名を(株)センシンロボティクスに変更し、再スタートを切った。全社員に公募を行い、300にも上る候補の中から決めたこの新しい社名には、たくさんの思いが詰まっているという。

「実際に社名を考える前に、自分たちのビジョン・ミッション・バリューを改めてみんなで話し合おうと呼び掛けたんです。すると、「私たちはさまざまな社会課題を解決するために、世界初の試みを先進的に行っている」というところにスポットが当たって。その後、社名の案を出し合った結果、その中に“センシン”という言葉がありました。これは当然、先に挙げた“先進”のことでありつつ、1つの分野を掘り下げていく“潜心”のことでも、物事にひたすら集中して取り組む“専心”のことでもある。そして、“Sense(感知する・理解する)”と“Synchronize(同期させる・共に進む)”を組み合わせた『SENSYN』でもあり、これは当社本来のテーマである共創の概念と、当社のソリューションの基本方針にも掛かっているんです。まさに満場一致で、『これしかない』と決まりましたね」

時代の先を進み続ける──その思いを胸に、出村氏の目はこれから訪れる未来をしっかり見据えている。最後に、会社の今後の展望と自身の夢について語ってもらった。

「私はベビーブームの第二世代で、就職した頃はたくさんの人材に恵まれていましたが、今ではどの業界も人材不足に悩まされています。例えば鉄塔点検の現場では、私よりも年上の職人さんたちが、1本の鉄塔の上に何十人も登って働いているわけです。しかし、彼らもあと5年、10年もすれば引退せざるを得なくなる。とはいえ、ただでさえ危険の伴う高所作業でもあるこの仕事に、果たして若い人たちが率先して就くでしょうか。では、次の担い手はどうなってしまうのか・・・。そんな仕事が、他にもたくさんあると思うんです。そうした後継者不足に直面する前に、ソリューションによって代替できる仕組みを提供していくことが、私たちの使命だと考えています。

サービスのフォーマットに関しても、今はドローンを中心に据えてリアルタイムコミュニケーションや画像認識、外部システム連携などを組み合わせていますが、必ずしも中心にあるのはドローンでなくても良いと思うんです。例えば画像認識の機能を体温測定や行動範囲の把握に応用し、その情報を送る先を遠隔地の家族やデイケアセンターにすれば、1つの高齢者の方々の見守りソリューションが出来上がりますよね。

また私個人としても、常に社会的に意義のある仕事をして、多くのものを形として残したいという思いがあります。まずはこのドローン事業で実績を積み、さらなる事業拡大へとつなげていきたいですね」

(文・鴨志田玲緒)

■プロフィール
株式会社 センシンロボティクス
代表取締役社長 出村 太晋
 
石川県金沢市にて繊維業を営む家庭に生まれる。高校進学を機に上京し、慶應義塾大学卒業後は総合電機メーカーに就職。その後は戦略系コンサルティング会社を経て(株)リクルート(現:リクルートホールディングス)へ入社し、中途採用事業や新規事業立ち上げに従事。さらにグリー(株)へ転職し全社経営管理や非ゲーム事業の統括・管理を手掛ける。2016年4月に(株)ブイキューブロボティクスの代表取締役に就任。2018年6月には、より先進的なロボティクスソリューションの提供と社会貢献を掲げ、(株)センシンロボティクスへと社名変更した。
 
 
■会社情報
〒150-0002
東京都渋谷区渋谷1-8-7 第27SYビル5F
設立 2015年10月
事業内容 産業用ドローン等を活用した
業務用ロボティクスソリューションの提供
URL https://www.sensyn-robotics.com/
 
 

 
 

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