コラム
「さあ、現実を超えた体験へ。」
ゲーム業界に革新をもたらすVR技術の今
25万人を超える総来場者数を記録した、日本最大の総合ゲーム展示会・東京ゲームショウ2017。今年のテーマ「さあ、現実を超えた体験へ。」に相応しく、VR(バーチャルリアリティ)に関する新たなデバイスやサービスの数々には、最も注目が集まっていた。ゲーム業界に革新をもたらすVR技術の今をお届けしよう。
デバイスの多様化や技術の進歩によって、変化の著しいゲーム業界。9月21~24日の4日間にわたって開催された東京ゲームショウには、過去最多に迫る国内外の609企業・団体が結集し、総来場者数は25万人以上を記録した。中でも、来場者から最も熱い視線を集めていたのは、VR技術だった。
そもそもVR・バーチャルリアリティとは、仮想現実、人工現実感と訳されるもの。ヘッドホンや映像を映すHMD(ヘッドマウントディスプレイ)などの機器を着用し、聴覚や視覚を刺激することで、コンピュータでつくられた人工的な空間に身を置いているような感覚を体験できる技術のことである。元来、人工的な空間でプレイを楽しむゲーム業界とは親和性が高く、各社が仮想空間をいかに現実の体験へ近づけ、プレイヤーを熱狂させることに心血を注いでいるかという様子がこの展示会でも伝わってきた。
リアル性が鍵となる中で(株)フォーラムエイトが紹介していたのは、リアルタイムでの時間、天候を映像に反映できる「UC-win/Road」。高度なドライブシミュレーションができるこのシステムを使った鉄道ゲーム「鉄道運転士VR」も展示されており、ゲーム業界への応用による可能性の高さが感じられた。
オンライン対戦に新たな体験をもたらしていたのが(株)南国ソフトである。視線追跡型HMD「FOVE」を使ってプレイする「The Outer Foxes」は、相手の心理を読んで進めるゲーム。検知した視線や瞬きがゲーム内のキャラクターに反映されるため、現実で対戦しているかのように相手の様子を窺えるのだ。
そのように入り込む環境をリアルに近づける企業もあれば、デバイスの操作性をリアルに近づける企業も見受けられた。H2L(株)が開発した「First VR」は、手持ちのスマートフォンに取り付けるだけで気軽にプレイができるHMD。そのコントローラーは筋変位センサーを内蔵し、腕や手の動きを検出することで直感的な操作を可能にしている。ゲーム用コントローラーを使うよりも、さらに仮想空間に没入できるだろう。
聴覚や視覚に訴えかけるだけでなく、嗅覚までも仮想空間へと誘うデバイス「VAQSO VR」も出展されていた。これは市販のHMDにセットすることで、料理の匂いや銃の硝煙の匂いなどがゲームと連動して発生。強弱の変化や切り替えも自在で、今後は対応ソフトの増加に合わせて匂いの種類も多様化させるそうだ。
リニューアルして今年から規模を拡大していた「e-Sportsコーナー」では、8つの競技タイトルが熱戦を繰り広げていた。e-Sportsとは、対戦型ゲームを使った競技のことで、反射神経や状況判断能力、チームの連携が必要となる。日本ではまだ馴染みが薄いが、世界で広く親しまれているスポーツだ。中でもJPPVR(株)は、VRを用いる「VR・eSports」に力を注ぐ。同社はコンテンツ制作・筐体販売だけでなく、「VR・eSportsアジア大会」の企画運営も手掛け、他国に遅れを取っている日本でのe-Sportsの普及に努める。ゲームセンターやイベント会場などに設置するというVRゲーム筐体もユニークなものばかり。バイク型のマシンはゲームに合わせて傾いて風も発生、ジャイロマシンは速いスピードで自在に回転─いずれも、仮想世界にのめり込んでしまうシステム・デバイスとなっている。
今回の開催はアジア・ヨーロッパなど海外からの出展も多く、その数は全体の半数を超える317の企業・団体に及んだ。中国のTQ INTERACTIVEが紹介していたVRゲーム筐体は、機関銃を模したコントローラーを操作するものや、ライドマシンに乗ってプレイするものなど、斬新なスタイルを取っていた。オランダ王国大使館は、家庭用ゲーム機やパソコン、スマートフォンなど、多様なデバイスに応じたゲームの数々を出展。海外からの来場者や報道関係者も随所で数多く見受けられ、この展示会が世界に向けての情報発信基地としての役割を果たしている様子が感じられた。
「VR元年」と呼ばれる2016年以降、ゲーム業界に大きな革命をもたらしているVR技術。これに関連するさまざまな取り組みが、今後どのような発展を生み出すのか、引き続き注目したい。
2 アメリカの企業VAQSO Inc.の「VAQSO VR」は、VRから匂いを出すデバイス。例えば料理ゲーム「Counter Fight」では、料理中の匂いが発生
3 「VR・eSports」に関する事業を手掛けるJPPVR(株)の「GYRO VR」は360度自在に回転。より深い没入感が味わえる
4 海外からの出展も多かった今回の開催。中国企業TQ INTERACTIVEもVRを使ったシューティングゲーム筐体を展示していた