コラム
「知足」
経営やビジネスに奮闘される皆様の心に灯をともす“禅語”を書で伝える連載、「書と禅語」。今回は、「知足」という言葉をご紹介します。
「知足」は「ちそく」と読み、文字通り、足るを知る──満ち足りていることを知る、という意味があります。物や情報があふれる現代において、私たちは、つい「無いもの」に焦点を当ててしまい、「もっともっと」という限りない欲求に悩まされてしまいがちです。しかし、今自分が持っているものと向き合い、その価値を知ることで、自然と感謝の気持ちが生まれ、これまでよりもさらに豊かな道が開けるのだと思います。
今回、「知足」という言葉を書いた際、筆で書いた字は綺麗すぎて何だかしっくりきませんでした。その時、ふと横に目をやると、書き終えた何枚かの紙があったのです。そこで、この紙を作品の中でよみがえらせようと、丸めた紙に墨を付けて書いてみました。それが、この作品です。自分の周りにすでにあるものにも、もっと違う価値があるかもしれない。そんなふうに思ったら、捨てるはずの紙が筆の役割を担い、私の中の言葉のイメージに重なるように表現できたのです。
ちなみに、書く時には「止め」や「払い」を忠実に行うように心掛けました。それでも、やはり完璧に美しい形にはならないのですが、私にとっては、伝えたいイメージの「知足」にぴったりの作品になったという意味で、すごく良いものに仕上がったと思います。
周りに当たり前にあるものも、見方を変えれば宝物になるかもしれません。常にこの言葉の意味を大切にすることで、日々の生活や仕事の捉え方も変わってくるのではないでしょうか。
岡西 佑奈 Okanishi Yuuna 幼い頃から、白い紙に滲み広がる墨の黒さ、“モノクローム”の世界に惹かれ、7歳から本格的に書に目覚める。書家・栃木春光に師事し、高校在学中に師範の免許を取得。水墨画においては関澤玉誠に師事する。書家として文字に命を吹き込み、アーティストとして独自のリズム感や心象を表現している。国内外受賞歴も多数。また、「子どもに命の大切さを伝えたい」という思いから、小学校での書道教室をボランティア活動として開催している。 ■公式サイト http://okanishi-yuuna.com/ ■フェイスブック https://www.facebook.com/YuunaArt/ |
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